記事・レポート
「したたかな生命~進化・生存のカギを握るロバストネスとは何か~」
更新日 : 2009年07月27日
(月)
第23章 サンゴ礁が絶滅すると、海洋資源の過半数がなくなる
北野宏明: 面白いのはサンゴ礁。サンゴ礁って大体「きれいだ」という話で終わるのですが、今、絶滅しつつあって、問題は単位面積当たりにすると熱帯雨林と大体同じぐらいのCO2吸収能力があるのです。あと、これはあまり知られていないことなのですが、非常にバイオマスの生産性が高いのです。
しかも漁業資源、海洋の種の25%はサンゴ礁依存なので、ベタに依存しているわけです。サンゴ礁が絶滅すると、それに依存しているものが段階的になくなる。ということは、「サンゴ礁がなくなったときには海洋資源の過半数はなくなる」と考えていいんです。
竹内薫: 気温が上がって海水温が上がっていくと、サンゴ礁も絶滅する。
北野宏明: 白化して絶滅する。気温のほかにも窒素や農薬が流れ出たりとか、いろいろな都市廃棄などの問題もあります。
CO2が海水に溶けると、カーボニックアシッドとかをつくって、それからカルシウムになるんです。そうしてサンゴに吸収されたものが固形化されて、その分だけ海水がまた二酸化炭素を吸収できるというサイクルがあるんです。
サンゴには共生菌、褐虫藻というのがついていますが、面白いのは共生菌や褐虫藻は抗生物質を出すんですよ。実験でシャーレに褐虫藻を入れたものと、入れないものを比べると、入れたほうは菌が増えない、でも入れないほうは菌が増えてしまうのです。抗生物質を出しているんです。
基本的にサンゴは単純な免疫しかないので、共生しているバクテリアに依存しています。暖かくなると、それがいなくなるんですよ。サンゴが褐虫藻を追い出しているのか、褐虫藻がサンゴからいなくなるのか、これはまだよく分からない。それで白化する。白化したとき何が起こるかというと、病原性のビブリオ菌が入ってきてサンゴは死んでしまうんです。だから、あれは感染症でもあります。
竹内薫: 感染症で死んでいるのですか。主な原因は海水温の上昇ですか。
北野宏明: 海水温であるとか、窒素であるとか、いろいろな汚染物質とか。観光客のストレスも。あとUVにも弱いんですよ。
竹内薫: 紫外線。
北野宏明: そう紫外線。いろいろなストレスです。ところが、面白いことに、カリブの海水温は平均28度ぐらいですが、そこのサンゴを35度の温度で10時間のところに置いても死なないのがある。耐えられるのです。
ところが、ハワイは海水温の平均が5度低くて、それを32度まで上げるともうだめなんです。だから同じサンゴといっても何度まで耐えられるか違うんですよ。共生菌にはたくさん種類があって、その組み合わせが変わることによって、どうも上限の温度が変わっているらしいというのが、最近少しずつ分かってきました。
そうすると、絶滅を防ぐためには、どういう種類のサンゴをどこに、どういうふうな共生菌と組み合わせて植えればいいかというのが分かってくる。こうなると、もうちょっと温度が高くても耐えられるサンゴができるかもしれないですね。
沖縄には先週行ってきたのですが、サンゴを移植していました。白化したところにどんどんサンゴを移植して、それが時間が経つと育つ。そのときに何を移植すべきかというのが科学的に分かれば、ある程度回復できる可能性があるわけです。
竹内薫: 前と同じ状態で移植しても、また……。
北野宏明: だめだったわけですからね。だから、何か考えなければいけないわけです。ただ、「サンゴ」にはなかなか研究費が付かないんです。だから国際学会も4年に1回です。明後日から「サンゴ礁国際会議」というのがマイアミであるので行って来るのですが、「出張でサンゴ礁国際会議に行く」と言うと、大体世の仲に眉唾物で見られて、「いいですね」「いい理由を見つけましたね」みたいなことを言われる。真面目にやっているんだけれど。
竹内薫: 地球の危機を救っているという側面があるわけですよね。
北 野:サンゴは今までは、観光資源だとか「きれいだ」とか、生物学的な多様性はあるけれど、CO2に関しては割と言われていませんでした。でも今、そういうところがクローズアップされつつあります。これから重要になってくると思います。(終)
しかも漁業資源、海洋の種の25%はサンゴ礁依存なので、ベタに依存しているわけです。サンゴ礁が絶滅すると、それに依存しているものが段階的になくなる。ということは、「サンゴ礁がなくなったときには海洋資源の過半数はなくなる」と考えていいんです。
竹内薫: 気温が上がって海水温が上がっていくと、サンゴ礁も絶滅する。
北野宏明: 白化して絶滅する。気温のほかにも窒素や農薬が流れ出たりとか、いろいろな都市廃棄などの問題もあります。
CO2が海水に溶けると、カーボニックアシッドとかをつくって、それからカルシウムになるんです。そうしてサンゴに吸収されたものが固形化されて、その分だけ海水がまた二酸化炭素を吸収できるというサイクルがあるんです。
サンゴには共生菌、褐虫藻というのがついていますが、面白いのは共生菌や褐虫藻は抗生物質を出すんですよ。実験でシャーレに褐虫藻を入れたものと、入れないものを比べると、入れたほうは菌が増えない、でも入れないほうは菌が増えてしまうのです。抗生物質を出しているんです。
基本的にサンゴは単純な免疫しかないので、共生しているバクテリアに依存しています。暖かくなると、それがいなくなるんですよ。サンゴが褐虫藻を追い出しているのか、褐虫藻がサンゴからいなくなるのか、これはまだよく分からない。それで白化する。白化したとき何が起こるかというと、病原性のビブリオ菌が入ってきてサンゴは死んでしまうんです。だから、あれは感染症でもあります。
竹内薫: 感染症で死んでいるのですか。主な原因は海水温の上昇ですか。
北野宏明: 海水温であるとか、窒素であるとか、いろいろな汚染物質とか。観光客のストレスも。あとUVにも弱いんですよ。
竹内薫: 紫外線。
北野宏明: そう紫外線。いろいろなストレスです。ところが、面白いことに、カリブの海水温は平均28度ぐらいですが、そこのサンゴを35度の温度で10時間のところに置いても死なないのがある。耐えられるのです。
ところが、ハワイは海水温の平均が5度低くて、それを32度まで上げるともうだめなんです。だから同じサンゴといっても何度まで耐えられるか違うんですよ。共生菌にはたくさん種類があって、その組み合わせが変わることによって、どうも上限の温度が変わっているらしいというのが、最近少しずつ分かってきました。
そうすると、絶滅を防ぐためには、どういう種類のサンゴをどこに、どういうふうな共生菌と組み合わせて植えればいいかというのが分かってくる。こうなると、もうちょっと温度が高くても耐えられるサンゴができるかもしれないですね。
沖縄には先週行ってきたのですが、サンゴを移植していました。白化したところにどんどんサンゴを移植して、それが時間が経つと育つ。そのときに何を移植すべきかというのが科学的に分かれば、ある程度回復できる可能性があるわけです。
竹内薫: 前と同じ状態で移植しても、また……。
北野宏明: だめだったわけですからね。だから、何か考えなければいけないわけです。ただ、「サンゴ」にはなかなか研究費が付かないんです。だから国際学会も4年に1回です。明後日から「サンゴ礁国際会議」というのがマイアミであるので行って来るのですが、「出張でサンゴ礁国際会議に行く」と言うと、大体世の仲に眉唾物で見られて、「いいですね」「いい理由を見つけましたね」みたいなことを言われる。真面目にやっているんだけれど。
竹内薫: 地球の危機を救っているという側面があるわけですよね。
北 野:サンゴは今までは、観光資源だとか「きれいだ」とか、生物学的な多様性はあるけれど、CO2に関しては割と言われていませんでした。でも今、そういうところがクローズアップされつつあります。これから重要になってくると思います。(終)
※この原稿は、2008年7月3日に開催したRoppongi BIZセミナー「したたかな生命~進化・生存のカギを握るロバストネスとは何か~」を元に作成したものです。
※本セミナーで取り上げている病気や疾患などの説明および対処方法は、「ロバストネス」の観点からの仮説です。実際の治療効果は一切検証されていません。講師およびアカデミーヒルズは、いかなる治療法も推奨しておりませんし、本セミナーの内容および解釈に基づき生じる不都合や損害に対して、一切責任を負いません。病気や疾患などの治療については、信頼できる医師の診断と指示を必ず仰いでください。
関連書籍
北野 宏明, 竹内 薫オーム社
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