記事・レポート
「したたかな生命~進化・生存のカギを握るロバストネスとは何か~」
更新日 : 2008年11月06日
(木)
第4章 相手と連絡を取りたいとき、ロバストなコミュニケーションしてますか?
北野宏明:飛行機のコンピューターシステムは 3つとも同じ機能だと言いましたが、実際には3つを別々の会社がつくります。少なくとも2社に分けます。なぜかというと、同じ機能のものを同じ会社が設計すると、設計ミスがあったときに全部同じ問題を起こすわけです。ということは、例えばバグがあったときに、全く同じところで一斉に3つがダウンしてしまうのです。
これでは話にならないので、3つの会社に別々に発注して「機能だけは同じに」と言っておいて、どういうふうに設計するかは各社の自由にするのです。そしてファイアウォールと言いますが、各社の設計チームはお互いに絶対に話してはいけない、コミュニケーションを完璧に遮断します。そうやってつくらせます。
ボーイング747までは、ただ単にコンピューターボックスが3つだったのですが、777以降は1つのボックスの中に3つのコンピューターが入っています。ですから実際にはtriple-triple redundancy、三重三重冗長性といって、3つのコンピューターボックスの中に、それぞれ3つずつコンピューターが入っているのです。
しかも3つのチップがインテルのチップ、モトローラのチップ、アドバンスド・マイクロ・デバイスのチップと、違う会社のものを使います。ですから同じ間違いが起きる可能性はほぼゼロなんです。チップが違うと、それに関係する周辺のチップからソフトウェアのつくり方からコンパイラから全部違いますから。共通の間違いが出る可能性を極限まで減らせます。
この違いはheterogeneityというか多様性ですよね。だから冗長性と多様性を使って、安全性を徹底的に上げているのが、今の航空機です。
竹内薫: 冗長性というのは、同じものがたくさんあることによって、安全にすると。
北野宏明:1個が壊れても、まだバックアップできる。
竹内薫: 多様性というのは、ちょっと違うものを使ってバックアップすること。
北野宏明:そうです。同じ間違いが起きないようにする。
例えば、どうしても相手とコミュニケーションしなければいけないときに、メールを打ちますよね。メールを3回打つのは冗長性なんです。相手が1回見逃しても、まだ見てくれるだろうと思って、「さっきの見た?」とか打つのです。だけど、向こうのPCが壊れていたら、それではだめなんですね。だからメールも打つけれど電話もしておく、携帯電話にメッセージを入れておく、ファクスに入れておく、これが多様性なわけです。
メールがだめでも、ほかの方法があれば何とかなるだろうと。それをどうコンビネーションして使うかというのがロバストなコミュニケーションの仕方です。
竹内薫: 777の場合だと、3つあるうちのシステムの1つは設置場所も確か違うんですよね。
北野宏明:そう、違うんです。2つはコックピットのマシンが入っているところにあります。残り1つ、3つ目は貨物室のドアの上にあります。3つ全部をコックピットに置いておいたらそこがダメージを受けたときに全滅してしまいますから。1個は貨物室に置いて、3つのコンピューターが一斉に破損することがないようにしています。
あとは、それはデジタル回路なんです。デジタル回路だから、いろいろなノイズの影響を受けない。デジタルの場合は01(ゼロイチ)になりますから。ただ、デジタルでも実際に起きているのは電気信号なので、そこにノイズが乗っています。だから電圧を見るとフラフラしている。
ところが、そこでノイズが乗っても、実際に機能するときには、例えば5ボルトだとすると、途中の電圧で分けますが、その上の方になっているか下になっているかで、1010(イチゼロイチゼロ)となりますから、ちょっとノイズが乗ったぐらいでは、この10(イチゼロ)のパターンは影響を受けないのです。デカップリングという言い方をしますが、そういうノイズの影響を信号が受けないようなやり方をしています。
だからフィードバックのコントロールと、フェイルセーフのメカニズムがあるわけです。それとモジュール化している。モジュール化しているから、1個のモジュールが壊れても、違うところに置いておくものは物理的に遮断していますから、ほかのモジュールが壊れることがないわけです。
だから飛行機は、「フィードバックループ」というシステムの制御と、「フェイルセーフ」という対故障性の問題、これはフォールトトレランス(fault tolerant)と言った方が正しいと思うのですが、それと「モジュール構造」と「デカップリング」という4つを扱っているわけです。
これでは話にならないので、3つの会社に別々に発注して「機能だけは同じに」と言っておいて、どういうふうに設計するかは各社の自由にするのです。そしてファイアウォールと言いますが、各社の設計チームはお互いに絶対に話してはいけない、コミュニケーションを完璧に遮断します。そうやってつくらせます。
ボーイング747までは、ただ単にコンピューターボックスが3つだったのですが、777以降は1つのボックスの中に3つのコンピューターが入っています。ですから実際にはtriple-triple redundancy、三重三重冗長性といって、3つのコンピューターボックスの中に、それぞれ3つずつコンピューターが入っているのです。
しかも3つのチップがインテルのチップ、モトローラのチップ、アドバンスド・マイクロ・デバイスのチップと、違う会社のものを使います。ですから同じ間違いが起きる可能性はほぼゼロなんです。チップが違うと、それに関係する周辺のチップからソフトウェアのつくり方からコンパイラから全部違いますから。共通の間違いが出る可能性を極限まで減らせます。
この違いはheterogeneityというか多様性ですよね。だから冗長性と多様性を使って、安全性を徹底的に上げているのが、今の航空機です。
竹内薫: 冗長性というのは、同じものがたくさんあることによって、安全にすると。
北野宏明:1個が壊れても、まだバックアップできる。
竹内薫: 多様性というのは、ちょっと違うものを使ってバックアップすること。
北野宏明:そうです。同じ間違いが起きないようにする。
例えば、どうしても相手とコミュニケーションしなければいけないときに、メールを打ちますよね。メールを3回打つのは冗長性なんです。相手が1回見逃しても、まだ見てくれるだろうと思って、「さっきの見た?」とか打つのです。だけど、向こうのPCが壊れていたら、それではだめなんですね。だからメールも打つけれど電話もしておく、携帯電話にメッセージを入れておく、ファクスに入れておく、これが多様性なわけです。
メールがだめでも、ほかの方法があれば何とかなるだろうと。それをどうコンビネーションして使うかというのがロバストなコミュニケーションの仕方です。
竹内薫: 777の場合だと、3つあるうちのシステムの1つは設置場所も確か違うんですよね。
北野宏明:そう、違うんです。2つはコックピットのマシンが入っているところにあります。残り1つ、3つ目は貨物室のドアの上にあります。3つ全部をコックピットに置いておいたらそこがダメージを受けたときに全滅してしまいますから。1個は貨物室に置いて、3つのコンピューターが一斉に破損することがないようにしています。
あとは、それはデジタル回路なんです。デジタル回路だから、いろいろなノイズの影響を受けない。デジタルの場合は01(ゼロイチ)になりますから。ただ、デジタルでも実際に起きているのは電気信号なので、そこにノイズが乗っています。だから電圧を見るとフラフラしている。
ところが、そこでノイズが乗っても、実際に機能するときには、例えば5ボルトだとすると、途中の電圧で分けますが、その上の方になっているか下になっているかで、1010(イチゼロイチゼロ)となりますから、ちょっとノイズが乗ったぐらいでは、この10(イチゼロ)のパターンは影響を受けないのです。デカップリングという言い方をしますが、そういうノイズの影響を信号が受けないようなやり方をしています。
だからフィードバックのコントロールと、フェイルセーフのメカニズムがあるわけです。それとモジュール化している。モジュール化しているから、1個のモジュールが壊れても、違うところに置いておくものは物理的に遮断していますから、ほかのモジュールが壊れることがないわけです。
だから飛行機は、「フィードバックループ」というシステムの制御と、「フェイルセーフ」という対故障性の問題、これはフォールトトレランス(fault tolerant)と言った方が正しいと思うのですが、それと「モジュール構造」と「デカップリング」という4つを扱っているわけです。
※本セミナーで取り上げている病気や疾患などの説明および対処方法は、「ロバストネス」の観点からの仮説です。実際の治療効果は一切検証されていません。講師およびアカデミーヒルズは、いかなる治療法も推奨しておりませんし、本セミナーの内容および解釈に基づき生じる不都合や損害に対して、一切責任を負いません。病気や疾患などの治療については、信頼できる医師の診断と指示を必ず仰いでください。
「したたかな生命~進化・生存のカギを握るロバストネスとは何か~」 インデックス
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第1章ニューヨークの大停電で、機能不全に陥ったホテルと平常通りだったホテル
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2008年10月16日 (木)
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第3章なぜボーイング777は、同じ機能のコンピューターを3つ搭載しているのか
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第4章 相手と連絡を取りたいとき、ロバストなコミュニケーションしてますか?
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