記事・レポート
「したたかな生命~進化・生存のカギを握るロバストネスとは何か~」
更新日 : 2009年03月25日
(水)
第13章 会社組織のロバストネスとは?
北野宏明: 『したたかな生命』では、インターミッションとして会社組織の話もしようということで、吉野家の例を取り上げました。別に悪口を言っているわけでは全くなく、吉野屋が「パフォーマンスが非常にいいがゆえに脆弱性が出てしまった。ロバストでなかった」という話があると思うのですが、ちょっとその話もしたいと思います。
北野宏明: そうですね。吉野家の場合はBSEの騒ぎがあって、アメリカ産の牛肉が全く使えなくなってしまった。あのとき、吉野家は減益で赤字になったわけですね。非常に面白い現象でしたのでいろいろ調べてみました。すると、安部社長さんは、そういったことを完全に予測していたのです。BSEではなくて、何だったかな?
竹内薫: 口蹄疫の方のリスクを見ていた?
北野宏明: BSEも口蹄疫も牛肉が輸入できないという点では同じような話なのですが、牛肉が輸入できなくなるというリスクは分かっていたのです。でも他社との競争に勝つためには、やはり安くておいしくなくてはいけない。だからアメリカ産のショートプレートというタイプの肉をひたすら輸入して効率を上げて、しかも牛丼一本で勝負するというビジネスモデルを貫いて、収益を上げて、競争力を高めるのが一番いいと腹をくくっていたわけです。
僕は食べ比べたのですが、確かに吉野家のはおいしいんです(笑)。やっぱり競争力があったわけです。業界でナンバーワンになって、2番手以下を大きく突き放したわけです。その段階では吉野家は、収益がものすごくよかった。高収益で、業界ナンバーワンシェアという最強のビジネスモデルをつくったわけです。それは要するに、要らないものを全部省いて、安くてうまいという性能パフォーマンスを極限まで高めたわけです。
だから牛肉の輸入に対しては脆弱です。ただし、競争相手に対しては極めてロバストなわけです。吉野家というのは何をやっても負けなかった。だけど、BSEでアメリカ産牛肉が輸入できなくなったからドンと落ち込んだ。
竹内薫: つまり、その競争力の源泉は、メニューが単品であると。
北野宏明: 単品経営ですよね、基本的に。
竹内薫: 原料の調達先も1カ所。
北野宏明: アメリカ産ショートプレートで、工場も1カ所か2カ所ぐらいに完全に絞っていたわけです。
竹内薫: ところが、供給が絶たれた瞬間、それこそニューヨークのブラックアウトみたいに、一斉に電源がなくなったような状況に陥った。
北野宏明: 原材料が来なくなったので、電源が切れたのと同じですね。
竹内薫: それを安部社長さんは、一応想定はしていた。
北野宏明: していました。これはインタビュアーの人が誰も聞いていないことなので、もし会う機会があったら僕が聞きたいと思っているのですが、多分あのとき出てきたメニューは用意していたのではないかと。
竹内薫: 事前に?
北野宏明: ええ。牛丼以外のメニューは全部、出してはいないけれど、用意はしていたと思います。
竹内薫: 「いざというときは、これをやるぞ」みたいなのが当然あったと。
北野宏明: だから、結構早く新しいメニューで対応していましたよね。「いざというときには、このメニューでいくぞ」というのを、それなりに用意していたと思います。
竹内薫: 一般的には「吉野家は大変なことになった」というイメージでしたが、それは想定外ではなかったということですね? 一応想定をしておいて、しかし、敢えてそのリスクを背負ってやったと。
北野宏明: 安部社長の本やインタビューをたくさん読みましたが、どこまで脆弱か、100%吉野家の経営陣はリスクを分かった上でやっています。だから慌てなかったはずですよ。
竹内薫: そう考えてみると確かに、別につぶれているわけではない。生き残っている。
北野宏明: 今の吉野家の業務形態は、牛肉単品の店とマルチメニュー、MM店と言いますが、いろいろなメニューがある店の2形態をとっているんですよ。ただし、やはり利益率が以前ほどはいっていない。
竹内薫: 多様性というものを取り入れて、いろいろなメニューを展開した。でも……。
北野宏明: ロバストになってからパフォーマンスが落ちているんです。
竹内薫: ということは、「ロバストになる」ということと、「パフォーマンスを上げる」ということは……。
北野宏明: トレードオフになる。
竹内薫: 両方はできない。
北野宏明: できない。
(その14に続く、全23回)
北野宏明: そうですね。吉野家の場合はBSEの騒ぎがあって、アメリカ産の牛肉が全く使えなくなってしまった。あのとき、吉野家は減益で赤字になったわけですね。非常に面白い現象でしたのでいろいろ調べてみました。すると、安部社長さんは、そういったことを完全に予測していたのです。BSEではなくて、何だったかな?
竹内薫: 口蹄疫の方のリスクを見ていた?
北野宏明: BSEも口蹄疫も牛肉が輸入できないという点では同じような話なのですが、牛肉が輸入できなくなるというリスクは分かっていたのです。でも他社との競争に勝つためには、やはり安くておいしくなくてはいけない。だからアメリカ産のショートプレートというタイプの肉をひたすら輸入して効率を上げて、しかも牛丼一本で勝負するというビジネスモデルを貫いて、収益を上げて、競争力を高めるのが一番いいと腹をくくっていたわけです。
僕は食べ比べたのですが、確かに吉野家のはおいしいんです(笑)。やっぱり競争力があったわけです。業界でナンバーワンになって、2番手以下を大きく突き放したわけです。その段階では吉野家は、収益がものすごくよかった。高収益で、業界ナンバーワンシェアという最強のビジネスモデルをつくったわけです。それは要するに、要らないものを全部省いて、安くてうまいという性能パフォーマンスを極限まで高めたわけです。
だから牛肉の輸入に対しては脆弱です。ただし、競争相手に対しては極めてロバストなわけです。吉野家というのは何をやっても負けなかった。だけど、BSEでアメリカ産牛肉が輸入できなくなったからドンと落ち込んだ。
竹内薫: つまり、その競争力の源泉は、メニューが単品であると。
北野宏明: 単品経営ですよね、基本的に。
竹内薫: 原料の調達先も1カ所。
北野宏明: アメリカ産ショートプレートで、工場も1カ所か2カ所ぐらいに完全に絞っていたわけです。
竹内薫: ところが、供給が絶たれた瞬間、それこそニューヨークのブラックアウトみたいに、一斉に電源がなくなったような状況に陥った。
北野宏明: 原材料が来なくなったので、電源が切れたのと同じですね。
竹内薫: それを安部社長さんは、一応想定はしていた。
北野宏明: していました。これはインタビュアーの人が誰も聞いていないことなので、もし会う機会があったら僕が聞きたいと思っているのですが、多分あのとき出てきたメニューは用意していたのではないかと。
竹内薫: 事前に?
北野宏明: ええ。牛丼以外のメニューは全部、出してはいないけれど、用意はしていたと思います。
竹内薫: 「いざというときは、これをやるぞ」みたいなのが当然あったと。
北野宏明: だから、結構早く新しいメニューで対応していましたよね。「いざというときには、このメニューでいくぞ」というのを、それなりに用意していたと思います。
竹内薫: 一般的には「吉野家は大変なことになった」というイメージでしたが、それは想定外ではなかったということですね? 一応想定をしておいて、しかし、敢えてそのリスクを背負ってやったと。
北野宏明: 安部社長の本やインタビューをたくさん読みましたが、どこまで脆弱か、100%吉野家の経営陣はリスクを分かった上でやっています。だから慌てなかったはずですよ。
竹内薫: そう考えてみると確かに、別につぶれているわけではない。生き残っている。
北野宏明: 今の吉野家の業務形態は、牛肉単品の店とマルチメニュー、MM店と言いますが、いろいろなメニューがある店の2形態をとっているんですよ。ただし、やはり利益率が以前ほどはいっていない。
竹内薫: 多様性というものを取り入れて、いろいろなメニューを展開した。でも……。
北野宏明: ロバストになってからパフォーマンスが落ちているんです。
竹内薫: ということは、「ロバストになる」ということと、「パフォーマンスを上げる」ということは……。
北野宏明: トレードオフになる。
竹内薫: 両方はできない。
北野宏明: できない。
(その14に続く、全23回)
※この原稿は、2008年7月3日に開催したRoppongi BIZセミナー「したたかな生命~進化・生存のカギを握るロバストネスとは何か~」を元に作成したものです。
※本セミナーで取り上げている病気や疾患などの説明および対処方法は、「ロバストネス」の観点からの仮説です。実際の治療効果は一切検証されていません。講師およびアカデミーヒルズは、いかなる治療法も推奨しておりませんし、本セミナーの内容および解釈に基づき生じる不都合や損害に対して、一切責任を負いません。病気や疾患などの治療については、信頼できる医師の診断と指示を必ず仰いでください。
関連情報
したたかな生命
北野 宏明, 竹内 薫オーム社
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