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米大学卒業式の注目スピーチから得られる学び<イベントレポート>

更新日 : 2025年04月22日 (火)

【4章】学んだことを生かして「世の中のためになることをせよ」

開催日:2024年8月28日 (水) イベント詳細
スピーカー:渡邊裕子 (Greenmantle シニア・アドバイザー / サイボウズ株式会社 社外取締役 / ジャーナリスト)

渡邊さんは、イベントの最後に自身のアメリカでの卒業式の経験、その時に受けた4つの重要なアドバイスを、共有くださいました。
渡邊:私自身は、ケネディスクールの卒業式での学長のスピーチが強く印象に残っています。人生で覚えておいてほしい四つのこと、という内容で、今でも覚えています。

一つ目は、人を「インスパイアできる人になりなさい」。

二つ目は「リスクを取れる人になりなさい」。 これは失敗を恐れてリスクを冒さない人生を送るな、ということです。今までの人生でまだ失敗したことがないとしたらそれはゴール設定が低い、と。ケネディ大統領が人類の月面着陸を目標に掲げた際に、「私達が月を目指すのはそれが難しいからだ」という言葉を残している、それと同じようにあなたたちも難しすぎて失敗するかもしれないようなことをゴールに設定しなさい、と言われました。

三つ目は「自分が同意しない人の声に耳を傾けなさい」。 誰かと意見を交わしたとき、自分が同意できない人の言うことにこそ聞く耳をもて、ということです。

四つ目が、「自分の身近な人を大事にしなさい」でした。 実はその学長は、クリントン政権にいた閣僚の1人だったのですが、ワシントンで重要な仕事をしている人であればあるほど、家庭が崩壊していることが多かったそうです。国の大事な仕事をしているから家族はそれを邪魔してはいけないし、本人としても、家族を置き去りにして仕事に集中することは仕方がないと自分を納得させ我慢してしまう。そのうちに家族がボロボロになっている、というのを自分はいっぱい見てきた、でもそういうふうにして成功してもしょうがない、そんなことは成功や人生と言えない、身近な人を大事にしないといけない。仕事も大事だけれど、やはり家族や自分にとって大事な人たちをちゃんと大事にしなさい、と言ったんです。

ここからが面白いのですが、そう言った後に学長は、「私はこれからみんなにお手本を見せます」と言って、次のように続けました。

「私の娘が今日ハーバード大学の卒業式でそつぎょうsをもらうところだから、今からそれを見てきます。30分だけこちらの卒業式を抜けて行くけれど、いいですか皆さん?」と。

これを聞いてみんな「おぉ〜!」とすごく盛り上がりました。だから、この四つを私は今でもすごくよく覚えています。そして、30分後に彼は本当に戻ってきた、ということも付け加えておきます(笑)。
学んだことを生かして「世の中のためになることをせよ」
渡邊:最後にまとめとしてお伝えしたいことがあります。アメリカの大学では学生たちに向かって「あなたたちは大学で学ぶことができてすごく恵まれているので、これを生かして、世の中のためになることをしなさい」ということを、入学したときからずっと、卒業する日まで、言い続けられます。私自身、大学院のときにすごくそれを感じました。

その例として、ヒラリー・クリントンが2022年にコロンビア大学でしたスピーチと、ハーバード大学学長(2018年-2023年)ローレンス・バコウのスピーチをご紹介します。

◆ヒラリー・クリントン

渡邊:実は、彼女は元々卒業式のスピーカーではなく、ゲストとして出席していただけだったのです。ただ、ヒラリーが来ている!ということで大変な騒ぎになってしまい、舞台に上がって1分だけスピーチをしたのが、この映像です。

「あなた方にお願いしたい、いえ、懇願したいことがあります。

この類稀なる素晴らしい場所で、世界屈指の教育を受けたあなたたちには、それを自分の夢をかなえるためだけに使わないでほしい。

あなたたちの夢が重要なのはもちろん分かっています。でも、個人だけでなく、市民としての意識を持ってほしい。あなたたちと同じような教育を受ける権利はすべての人にあるのだと信じる市民....、正義、平等、自由、そして民主主義を守り、保つために、やるべき仕事があるのだと信じる市民として、あなたたちの力を使ってもらいたい」 ※渡邊さん抄訳

◆ハーバード大学学長 ローレンス・バコウ

「あなたがたは、ここで受けた教育によって、さまざまな機会を得るだろう。

でも、それがあなたの人生だけを豊かにしないように。

あなたがたは、世の中の多くの人に比べ、世界を変えることができる多くの機会、他の人たちの人生を良くするより多くの機会に恵まれるだろう。そういうチャンスに恵まれたら、それを生かしなさい」
※渡邊さん抄訳 
渡邊:学生たちに、今までを振り返り「家族や友人や支えてくれた人たちみんなに感謝しなさい。1人の力でここまでこれた人はいないんだから」と伝え、「あなたたちは恵まれて素晴らしいところで勉強できたわけだから、その立場を利用して他の人たちにオポチュニティをあげられるような人になりなさい」という、メッセージでした。

これらを聞いていて思い出したのが、上野千鶴子さんの東大の入学式のスピーチです。彼女が言っていたことは、ヒラリーやハーバード大学学長が言っていたことと近い内容で、日本では物議を醸していましたが、私にとってはすごく当たり前のことを言ってると思いました。大学を出るということはすごく恵まれてることですが、私も自分が大学生の当時は、そういう自覚はなかったです。もちろん、自分が頑張ったから大学に入ることができた、と考えるのは自由です。ただ頑張ったら報われて当然と思うことは、やはり自分が今まで受けてきた恩、どれだけ運が良かったか、ということに対して謙虚に受け止められていない、ということではないかと感じます。日本でも、そこまでに自分が至ったことに対して、周りにちゃんと感謝して、そのぶんほかの人に良くしてあげるべきだということを、学生たちにもっと言うようにしたらいいのではないかと、私は思います。 



※その他に、渡邊さんが話題にあげた2024年のスピーチをコメントと共にご紹介します。

◆メリンダ・フレンチ・ゲイツ

渡邊:彼女がビル・ゲイツと離婚して、自分の財団を作って、女性の問題、教育などに財産を使って活動していくと発表したタイミングでのスピーチでした。彼女がこれから何をするかをみんな注目し、私自身もとても面白く聞きました。「今後、あなたの人生には、今のあなたには想像もできないようなことが起きます。それは予想できるものじゃない。それを受け入れた上で、自分の前に来たオポチュニティをちゃんとつかんで、必死に頑張ってどんどん次に進んでいく、そういう姿勢が大事なんだ」と語っています。

◆ロジャー・フェデラー(プロテニス選手)
Roger Federer Holds Court at Dartmouth Commencement 
The tennis champion says “effortless” is a myth

渡邊:「努力しないで結果が出せる人なんていない」ということを話しています。当たり前のことのようですが、彼のような天才的な人でさえもそうである、というのがメッセージとしてすごくいいなと思いました。このスピーチもすごくわかりやすくシンプル、しかもパワフルなメッセージでした。

卒業式のスピーチは準備する側がすごく色々と考え、それぞれメッセージを詰め込んでいます。スピーチはどれも15分ぐらいですが、とても濃い15分です。今回ご紹介した中で、もし興味がわきましたら、シンプルな表現で英語の勉強にもすごくいいので、ぜひ見ていただきたいと思います。



アメリカの卒業式スピーチは、誰もが自分を振り返りモチベーションを高めてくれるメッセージが込められ、さらに影響力のあるスピーカーによる発信が目白押しで、それ故に注目されるということがよくわかりました。

果たして2025年のアメリカの卒業式では誰が登壇し、どんなスピーチがされるのでしょうか。ぜひ、渡邊さんの記事とあわせて注目してみてください。
▼渡邊さんの記事連載(BUSIESS INSIDER)「おとぎの国のニッポン」