記事・レポート
米大学卒業式の注目スピーチから得られる学び<イベントレポート>
更新日 : 2025年03月25日
(火)
【1章】卒業式は“Commencement”〜ここから人生が始まる〜
オンラインイベントシリーズ「World Report」第9回は、ニューヨークを拠点に地政学リスク分析の分野でご活躍され、米国社会の現状や海外から見た日本社会を鋭く分析されているライターの渡邊裕子さんに、アメリカの大学の卒業式スピーチについてお話しいただきました。メディアでも取り上げられ話題となったスピーチをあげながら、日本の大学との違いや、社会的な影響力について詳しく解説いただきました。(全4章)
開催日:2024年8月28日 (水) イベント詳細
スピーカー:渡邊裕子
(Greenmantle シニア・アドバイザー / サイボウズ株式会社 社外取締役 / ジャーナリスト)
開催日:2024年8月28日 (水) イベント詳細
スピーカー:渡邊裕子
(Greenmantle シニア・アドバイザー / サイボウズ株式会社 社外取締役 / ジャーナリスト)
卒業式は “Commencement”〜ここから人生が始まる〜
日本において、大学の卒業式スピーチが世間的に話題になることは殆どありません。一方、アメリカの大学の卒業式は誰が何を話すか、毎年注目され、メディアにも取り上げられます。何故アメリカでは卒業式がこんなに大事なのか、その理由について渡邊さんは次のように語ります。 |
渡邊さんも、毎年アメリカの卒業式スピーチに注目し、自身のBUSINESS INSIDERの連載で卒業式スピーチのシリーズ記事を書かれています。ここからは、そのシリーズ記事をご紹介しながら、渡邊さんによる解説をお届けします。 |
<渡邊さん記事>
◆なぜトヨタ社長スピーチはアメリカで絶賛されたのか。日本人に足りないものがそこにはあった
私はこのスピーチについてもっと日本人に知られるべきだと思って記事も書いたのですが、その理由のひとつとして、彼の英語は決してネイティブのような流暢な英語ではない、ということです。ジャパニーズイングリッシュで、英語圏の人間でなくても完璧にわかる発音で、ゆっくり話しています。それでもものすごく笑いをとり、聴衆はどんどん彼の話にノってきて、途中からは拍手がたくさん起こるようになります。彼はかなり計算してこのスピーチを書き、おそらく何百回も練習し、自分の喋っている様子も録画して、スピーチのコーチに見てもらって直して、ということを繰り返して行ったスピーチだろうな、と私は感じました。良い内容であればこれだけウケる、ということがわかるとてもいいお手本だと思いますし英語が母国語ではない日本人にとって勇気づけられるものがあるので、もっと広く知られてほしいと思っています。
スピーチ後半の内容がとても良かったですね。卒業生たちは将来みんな成功してCEOになるだろう、その将来のCEOに対して、1人のCEOからのアドバイスです、と言って送られた言葉です。私が訳した内容を下記にピックアップします。
Because if you do the right thing, the money will follow. (正しいことをしていれば、お金は後からついてくる) Try new things, even if you’re old. (いくら年を取っても、常に新しいことに挑戦しなさい) The point is you’ve always got to be learning something new, no matter how old you are.Never give up being a student, because being a student is the best job you will ever have. (大事なのは、幾つになろうが、何か新しいことを学ばなくてはならないということです。「生徒」であることを決して辞めてはいけません。なぜなら、それが何より素晴らしい仕事だからです) Don’t worry about being cool. Be warm. (カッコつけて、クールであろうとするよりも、温かい人でありなさい) Decide what you stand for. (あなたがどんな価値を大切にしたいのかを決めなさい)※渡邊さん抄訳 |
渡邊:すごくシンプルな言葉を使ってストレートにメッセージを伝えていますよね。一つ一つの文章は短く、誤解なく伝わるような言い方をしています。さらに、全体を通して特によかったと思う点は、ジョークの使い方がとても上手だったことです。ずっとふざけているわけではなく、時々真面目なことを言ったと思ったら、そこでまたジョークをはさんで、意外性がある展開にしています。また、学生たちが聞きたいこと、考えていることをちゃんと盛り込んでいます。例えば、人気ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』の話を出し、聴衆である大学生がこういうテレビを見てるということを私は知っている、きちんとリサーチしてきましたよ、というメッセージが伝わります。誰も彼が本当にそのドラマを熱中して見ているとは思わないけれど、でもそういうところが聴衆の心をぐっと掴む、さすがコツをわかっているな、という感じがして、素晴らしいスピーチだと思いました。YouTubeに字幕付きであがっていますので、ぜひ全編をご覧ください。
渡邊:次は、2022年にNYU(New York University)でテイラー・スウィフトがしたスピーチです。テレビやSNSでも取り上げられ2022年に一番話題になっていたスピーチだと思います。
<渡邊さん記事>
◆テイラー・スウィフトからアーダーン首相まで。今年(2022年)話題になった米大学の卒業式スピーチ
自分の人生について、これまで挫折してきたし、いろいろと失敗して馬鹿なこともやってきたけれども、それが全部積み重なって今の自分がある、ということを、学生たちに伝わるような目線で、そこまで降りていって話しているところが、すごく上手だと思いました。こちらも全部聞いてみてほしいのですが、彼女らしいなと感じた一部を私の訳でご紹介します。
I’d like to say that I’m a big advocate for not hiding your enthusiasm for things. It seems to me that there is a false stigma around eagerness in our culture of ‘unbothered ambivalence.’ This outlook perpetuates the idea that it’s not cool to ‘want it.’ That people who don’t try hard are fundamentally more chic than people who do. (「私は、『情熱を隠すべきでない』と強く推奨する人間です。『無関心でアンビバレント(どっちつかず)』であることをよしとする私たちの文化には、必死になることへの間違った偏見があるように思えます。これは、何かを『欲しい』と望むことは即ちカッコ悪いことである、という考えにつながるものです。欲など持たず、努力などしない人のほうが、がむしゃらな人よりも根本的にエレガントでカッコいいのだと。) Never be ashamed of trying. Effortlessness is a myth. The people who wanted it the least were the ones I wanted to date and be friends with in high school. The people who want it most are the people I now hire to work for my company. (挑戦することを恥じてはいけません。努力せずにうまくいくなどというのは神話です。何も欲を持たずクールにふるまっている人たちは、私が高校時代にカッコいいと思い、デートしたり友達になりたいと思っていた人たちです。私が今自分の会社に雇うのは、誰よりも強く欲しいものを求め、そのために必死に努力する人たちです」)※渡邊さん抄訳 |
ここで私がすごく意外だったのは、アメリカでさえも、一生懸命で必死になることが恥ずかしいことだと若い人たちが思っている、ということです。しらけたふりをする方がかっこいいと思っている人が大勢いる、とテイラー・スウィフトは言っているわけです。日本に比べたらアメリカは情熱を持って何かをすることはポジティブで偉いことだと考えている社会のように私は感じているのですが、そういう中でもやっぱり若者の中ではそうではない部分があるようです。何かが欲しくても欲しがらないふりをする、一生懸命なのは汗臭くてくダサい、そういう考え方があるけれど、そういうふうになってはだめだ、とテイラーが言ってるのが、個人的にはとても面白かったです。
米大学卒業式の注目スピーチから得られる学び<イベントレポート> インデックス
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【1章】卒業式は“Commencement”〜ここから人生が始まる〜
2025/03/25 (火)
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【2章】2024年、いつもと違ったアメリカの卒業シーズンの風景
2025/03/25 (火)
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【3章】「不確実性を受け入れろ」米卒業式で共通するメッセージ
2025/04/22 (火) 公開予定
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【4章】学んだことを生かして「世の中のためになることをせよ」
2025/04/22 (火) 公開予定
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