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米大学卒業式の注目スピーチから得られる学び<イベントレポート>

更新日 : 2025年04月22日 (火)

【3章】「不確実性を受け入れろ」米卒業式で共通するメッセージ

開催日:2024年8月28日 (水) イベント詳細
スピーカー:渡邊裕子 (Greenmantle シニア・アドバイザー / サイボウズ株式会社 社外取締役 / ジャーナリスト)

1章2章に引き続き、2024年の卒業式スピーチに関する渡邊さんの記事をピックアップしながらご紹介します。渡邊さんは、多くのスピーチに注目するなかで共通するテーマがあることに気づいた、と語ります。
「不確実性を受け入れろ」アメリカの卒業式スピーチで共通するメッセージ
渡邊:ここからは、違うタイプの人を紹介します。 ジェリー・サインフェルドは、アメリカで知らない人はいないコメディアンです。誰でも知っていて、必ずテレビで見たことがあるような、日本でいうとタモリみたいな感じの人です。

<渡邊さん記事>
「受け入れられる拷問を見つけよ」。米人気コメディアンが卒業式で語った“成功の鍵”


渡邊:彼はユダヤ系で、イスラエル擁護の発言をしていたこともあり、卒業式スピーチの直前に学生の抗議行動があり、そのことのほうがニュースになってしまいました。でも、実際に彼が話した内容はとても良く、政治的なことは全く発言しませんでした。

「君たちは『あなたの情熱を追求しなさい』と言われることに心底うんざりしていることだろう。

私は、『情熱なんてどうでもいい』と言いたい。何か自分にできることを見つけられたら、それでいい。何かに挑戦して、それがうまくいかなかったら、それでもいい。

大抵のことはうまくいかないものなのだから」
※渡邊さん抄訳

学生たちに向けて、これからキャリアについて、人生についてどう考えたらいいかを、成功した人間の立場から、彼らしい言葉で話していると思い、ピックアップしました。



渡邊:次は、モデルナの創業者のヌーバー・アフェヤンです。

<渡邊さん記事>
モデルナ創業者が語った「不可能を可能にする3つの力」MIT卒業式スピーチ
渡邊:実は、私は最初この人のスピーチを知らなかったのですが、イアン・ブレマーに彼の卒業式スピーチの記事を書いたことを知らせたら、そういうシリーズを書いてるならぜひMITのアフェヤンのスピーチを入れた方がいい、と教えてくれたので辿り着きました。いかにも起業家でイノベーターであり続けた人らしいスピーチでした。しかも彼は移民なのですが、その部分に目を向けたスピーチだったのも興味深かったので取り上げました。

みなさんモデルナという会社名は知っていると思いますが、どういう歴史のある会社かは知らない人が多いと思います。アフェヤンは元々MITの卒業生で、ベンチャーキャピタリストです。たくさんの会社を作って、たくさん特許も持っている中のひとつがモデルナでした。それがコロナのパンデミックになったときに、たまたま「メッセンジャーRNA(mRNA)」をずっと研究していたため、ぜひワクチンを作ってくれとミッションを与えられた、というわけです。

彼のスピーチのテーマは「ミッション・インポッシブル」です。インポッシブルと思えるミッションを、どうやったら達成できるか、どうやって自分は達成したか、そのために何が必要かを語ったスピーチです。彼はレバノン生まれのアルメニア人で、レバノンが内戦になって、11歳ぐらいのときに親と一緒に逃げてカナダに来た人です。子供時代に育ったレバノンで『ミッション・インポッシブル』を見たという話からスピーチは始まります。そこで「想像すること」「革新すること」「移住すること」の重要性について話しています。

「快適な場所を離れて、新しいところに新しいオポチュニティを求めて、不確実性を受け入れるメンタリティがないとイノベーションには繋がらない」

「今あるものに満足してそこに安住してしまったらイノベーターになれない」
※渡邊さん抄訳
 


渡邊
:ここまでイアン・ブレマー(第2章で紹介)、サインフェルド、アフェヤンのスピーチをご紹介しましたが、この記事を書いてるときに、この3人が言ってることには共通点があると気づきました。その一つが「不確実性を受け入れろ」ということです。

イアンは「世界は常に変化するので、それに従ったらあなた自身が変わることも必然。変わらないことを続けていけば自分だけがズレていく」ということを言っています。また、「30年前の自分を振り返ってみると、何をしたかったかなんて全然わからなかった。でも、わからなくても別に大丈夫なんだよ。」と体験をもとに言っていたと思います。

同じようなことをサインフェルドも言っています。「4年間大学で学んだけれど、何がしたいかわからない人もいると思う。でも、そういうことは別に心配する必要はない」「今わかってると思っても、それが正しいとは限らない、多分、間違っている。それよりは自信がなくても、あやふやなまま進んでいって、とにかく一生懸命やっていれば、その先には何かがある。」といったスピーチでした。

アフェヤンも「不確実性を受け入れることが、ミッション・インポッシブルをポッシブルにするためには重要なことなんだ」と力説しています。