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自民党総裁選を斬る~空気読めない候補者は去れ~

アカデミーヒルズセミナー経営戦略
更新日 : 2008年10月29日 (水)

第9章 問題3兄弟。政治家の国民不信、メディアの怠慢、国民の逃避

チーム・ポリシーウォッチ代表、竹中平蔵さん

竹中平蔵: これは同時に2つ目のキーワードにつながっていきます。国民の政治不信というのはよく言われるけれど、むしろ今起こっている重要なものは政治家の国民不信だと思います。政治家は選挙を控えて、ちゃんと「今、世界は厳しいグローバリゼーションの中にいるから、日本は頑張って改革していかなければいけないんだ」と国民に語っています。しかし、「痛みを超えて改革をしていこう」とは言いません。「そんなことを言ったって、国民なんか我がままで勝手で、『あれよこせ、これよこせ』と言うだけだから、聞いてくれないよ。だから国民に対してアメを与えなければいけないんだよ」ということで、財政の資金をいろいろつけようとしています。これは取りも直さず、政治の国民不信です。国民はばかにされているんだと、私は思います。

先ほど言ったように「この指導者はアメをくれるぞ」となると、国民は手を出します。「もらえるものはもらいましょう」と。そしてくれると、「もっとほしい、もっとくれと言ったら、もっとくれる」と思います。そうすると、まさにおねだりとポピュリズムの悪循環に陥っていきます。そういうことが現実に起こっていると思います。

私はそういうことを止められるリーダーでなければいけないと思います。まあ、しかし、残念だけれども、総裁選の姿は、そういう形になっていないのではないかと思います。

どういう政策が出てきたか、それを評価する側の問題、メディアや論評するコメンテーターであったりということですが、これがまた大変困ったものなわけです。典型的には、「需要不足はないんだから需要追加はしない」というふうに政府の対策の中にも書いてあるし、みんな言っているわけですから、「じゃあ、なぜ定額減税なんですか。おかしいですよ、言っていることが、すぐ違う」と、この中では議論しましたけれども、この国にはこのことを議論している討論番組はないのです。

麻生さんと与謝野さんの議論を聞いていて、与謝野さんの議論を聞いていると、「ああ、これは役人が言っている、レクを受けているようだな」というふうに思いますし、麻生さんが言っていることを聞くと、「どこかの部会の議論そのままだな」と思います。あの議論がダボス会議でやられたら、ちょっと日本は恥ずかしいなと思うのです。だって、矛盾することを平気で言っているわけですよね。「需要追加はしない、でも定額減税やる」、これは世界の人はびっくりしますよね。

しかも「赤字国債は出さないからいい」と言いますが、赤字国債、建設国債という言葉があるのは日本だけなのです。それは財政法でその言葉が出てくるからであって、国債は国債なんです。皆さんが持っている国債に「赤字国債」「建設国債」なんて書いてないのですよ、国債は国債で借金なんです。それは財政機密の便宜上の言葉ですから、そういうことを踏まえていただきたい。残念だけれども、この国には、リーダーがこういったときに、それをちゃんと議論するインフラがないのだなというふうにも思います。だからこそ、こういう議論を、私たちはしたいと思うのです。

最後に評価する側の国民の問題もあります。国民は今、日本の将来を悲観して、静かな資本逃避を始めています。実は1993年、94年のイタリアで同じようなことが起こっているのです。今、国債は消化されていますが、あれは国内で消化されているのです。海外で国債はほとんど売れてないのです。日本の国債を買っている日本が、もう国債を嫌だ、円建て資産嫌だというふうに言い、証券会社は「今こそ外貨投資のチャンス」と言っている。何よりも企業は、政府からお金をもらえるだけもらい、しかしちゃんと海外に出ていって、グローバル化しようとしているわけです。

最後に申し上げたいのは、今のような状況で、今後議論しなければいけないのは、総選挙のあとの日程がどうなっていくかということだと思うのです。

1つのシナリオは、すごく単純化された乱暴なシナリオで申しわけないのですけれども、恐らく、今政治の関係者で建設的な方向を議論している人は、自民党も民主党も、両方過半数とってほしくないと思っていると思います。自民党も民主党も両方過半数をとれないと、法律を通すためには、何らかの細工が必要になるんです。そのときには、堂々と大義をもって、要するに政党の組み換えができるわけです。

冒頭、加藤先生が「そういう状況にならない限り、日本は絶対よくならない」という、かなり厳しいメッセージを出されましたけれど、その条件は、自民党も民主党も過半数をとらないことかなと思うのです。それで必ず政界再編が起きるかどうかはわからないのですけれども、そういう論点を、ぜひ皆様にお考えいただきたいと思います。

※この原稿は、2008年9月15日にアカデミーヒルズで開催した緊急シンポジウム「自民党総裁選を斬る~空気読めない候補者は去れ~」を元にアカデミーヒルズが作成したものです。

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