記事・レポート
自民党総裁選を斬る~空気読めない候補者は去れ~
アカデミーヒルズセミナー経営戦略
更新日 : 2008年10月23日
(木)
第5章 日本再生に向けた戦略の最重要ポイントは「何を捨てるか」
岸博幸: では、次に、株式会社経営共創基盤代表取締役CEOの冨山さん、お願いいたします。
冨山和彦:冨山です。私も木村さんと同じく経済の世界で生きている人間なので、現状認識に関してお話しします。うちの会社は割と企業再生の仕事をしています。実は去年(2007年)の後半から再生案件がすごく増えました。ただ、再生の段階では、具体的な法的整理に入る前ですので顕在化していなかったのですが、今年に入ってから、ご存じのように倒産件数は史上最高レベルでずっと推移しています。
その直接的な原因は、先ほど木村さんが言われたように、これはほとんど人災です。とくに最近多いのは黒字倒産です。3月期決算で最高益なのに、なぜか倒産してしまうのです。ちょっと調子がよかったものですから、いわば極めて人為的にお金が締まるような仕組みにしてしまいました。そこにサブプライムローンがかぶって、黒字倒産が次から次へ起こっています。
ここに来て、顕著なのは、製造業の再生案件が増えてきたことです。一部の評論家と、一部の政治家は、「日本の製造業はまったくもって世界一で、ダントツに力があるんだ」という幻想に舞い踊っています。製造業のメーカーさん、名前を出すわけにはいきませんが、相当名の知れた立派な会社の経営者の方々とお話をすると、「本音でいうと、冨山さん、そんなに足腰強くないんですよ、日本の製造業は」という答えが返ってきます。実際、私もそうだと思います。
なぜ彼らがそう言うのかというと、要は製造業を取り巻く交易条件がすごい勢いで悪化しているからです。日本にとって最も大切な需要先はアメリカとヨーロッパですが、欧米の経済が減速し、需要が減少しているのです。一方で、日本は加工貿易モデルでやっていますが、原価が上がっています、素材・エネルギーの価格が上がっていますので、要はトップライン、売上が増えない状況でコストが上がっているのです。
本当に足腰が強ければ、コスト増を価格に転嫁できるはずです。コストが20%上がれば、値段を20%上げればいいのです。本当に強いのだったら上げられるはずです。しかし、値段を上げられません。日本の製造業の実力は、しょせん、そんなものだったということなんです。それが実態です。
10何年前はバランスシート発だったのですが、今回は損益決算書発の結構深刻で、構造的不況がそこにかぶさってきているので、自滅要因的な要因と人為的な問題とダブルですが、基本的にこの構図はあまり変わらないと思っています。交易条件の悪化の主な要因はBRICsです。投機マネー的な一過性の問題もありますが、素材とエネルギーに関しては、BRICsの28億人がガバガバとエネルギーを食べ、食料を食べれば、基本的に需給が逼迫してまいります。この構造は変わらないので、多分構造的不況です。
そうした状況を踏まえながら、5人の方のマニフェストを読んでみたのですが、特に最近のテレビを見ていると、どうも「この人たちはガチンコの政策論争をやるのは嫌なのかな」という感じを受けました。ガチンコの政策論争をやると、結果的に本当は対立しているはずの方がいるわけなんです。小池さんと麻生さんは、大喧嘩になってもいいはずです。しかし、なかなかテレビでは喧嘩にならないので、なんでやらないんだろうなと思っています。
私がガチンコ論争の最大の要因であろうと思うのは、日本再生の方法論です。これだけ厳しい状況下での日本再生に向けた戦略の最重要ポイントは「何を捨てるか」です。すごく痛みが伴う厳しい問題だけれど、捨てなければいけない問題が出てまいります。会社を再生するのであれば、雇用を捨てるのか、事業を捨てるのか、あるいは何らかの構造改革をやるのか、そこでもめる課題がいくつもあるはずです。国の再生も同じです。
具体的にいくつか言うと、例えば、経済成長と財政再建、財政規律を重視すれば、基本的には構造改革を徹底的にやるということであって、市場経済原理をガンガン入れることになり、その結果、ある程度の格差が生じるのは多分しょうがないでしょう。格差が広がるリスクに関しては、最悪腹をくくらなければいけないということになります。これはちゃんと言うべきなんですね。
逆に、積極財政論でいけば、先ほど木村さんが言われたように、財政が破綻するリスクを、もっと早くから受け入れることになります。これもそうです。当面は金をばら撒けば、皆さんちょっと所得が増えますけれど、それはやはり腹をくくらなければいけない。
一方で、財政規律と格差是正ということを一生懸命やれば、何が起きるかといったら、等しく貧しくなるに決まっているのです。しかし、それも選択ですよね。どれにするかは国民が選べばいいわけです。
多分、この3つのうち、どれを捨てるかという状況になっているのです。しかし、それをはっきり言ってくれないので、ガチンコにならないのだろうなということですが、先ほども竹中さんがおっしゃったように、これがはっきり言えないというのは、経営者として決定的な資質の欠如です。
冨山和彦:冨山です。私も木村さんと同じく経済の世界で生きている人間なので、現状認識に関してお話しします。うちの会社は割と企業再生の仕事をしています。実は去年(2007年)の後半から再生案件がすごく増えました。ただ、再生の段階では、具体的な法的整理に入る前ですので顕在化していなかったのですが、今年に入ってから、ご存じのように倒産件数は史上最高レベルでずっと推移しています。
その直接的な原因は、先ほど木村さんが言われたように、これはほとんど人災です。とくに最近多いのは黒字倒産です。3月期決算で最高益なのに、なぜか倒産してしまうのです。ちょっと調子がよかったものですから、いわば極めて人為的にお金が締まるような仕組みにしてしまいました。そこにサブプライムローンがかぶって、黒字倒産が次から次へ起こっています。
ここに来て、顕著なのは、製造業の再生案件が増えてきたことです。一部の評論家と、一部の政治家は、「日本の製造業はまったくもって世界一で、ダントツに力があるんだ」という幻想に舞い踊っています。製造業のメーカーさん、名前を出すわけにはいきませんが、相当名の知れた立派な会社の経営者の方々とお話をすると、「本音でいうと、冨山さん、そんなに足腰強くないんですよ、日本の製造業は」という答えが返ってきます。実際、私もそうだと思います。
なぜ彼らがそう言うのかというと、要は製造業を取り巻く交易条件がすごい勢いで悪化しているからです。日本にとって最も大切な需要先はアメリカとヨーロッパですが、欧米の経済が減速し、需要が減少しているのです。一方で、日本は加工貿易モデルでやっていますが、原価が上がっています、素材・エネルギーの価格が上がっていますので、要はトップライン、売上が増えない状況でコストが上がっているのです。
本当に足腰が強ければ、コスト増を価格に転嫁できるはずです。コストが20%上がれば、値段を20%上げればいいのです。本当に強いのだったら上げられるはずです。しかし、値段を上げられません。日本の製造業の実力は、しょせん、そんなものだったということなんです。それが実態です。
10何年前はバランスシート発だったのですが、今回は損益決算書発の結構深刻で、構造的不況がそこにかぶさってきているので、自滅要因的な要因と人為的な問題とダブルですが、基本的にこの構図はあまり変わらないと思っています。交易条件の悪化の主な要因はBRICsです。投機マネー的な一過性の問題もありますが、素材とエネルギーに関しては、BRICsの28億人がガバガバとエネルギーを食べ、食料を食べれば、基本的に需給が逼迫してまいります。この構造は変わらないので、多分構造的不況です。
そうした状況を踏まえながら、5人の方のマニフェストを読んでみたのですが、特に最近のテレビを見ていると、どうも「この人たちはガチンコの政策論争をやるのは嫌なのかな」という感じを受けました。ガチンコの政策論争をやると、結果的に本当は対立しているはずの方がいるわけなんです。小池さんと麻生さんは、大喧嘩になってもいいはずです。しかし、なかなかテレビでは喧嘩にならないので、なんでやらないんだろうなと思っています。
私がガチンコ論争の最大の要因であろうと思うのは、日本再生の方法論です。これだけ厳しい状況下での日本再生に向けた戦略の最重要ポイントは「何を捨てるか」です。すごく痛みが伴う厳しい問題だけれど、捨てなければいけない問題が出てまいります。会社を再生するのであれば、雇用を捨てるのか、事業を捨てるのか、あるいは何らかの構造改革をやるのか、そこでもめる課題がいくつもあるはずです。国の再生も同じです。
具体的にいくつか言うと、例えば、経済成長と財政再建、財政規律を重視すれば、基本的には構造改革を徹底的にやるということであって、市場経済原理をガンガン入れることになり、その結果、ある程度の格差が生じるのは多分しょうがないでしょう。格差が広がるリスクに関しては、最悪腹をくくらなければいけないということになります。これはちゃんと言うべきなんですね。
逆に、積極財政論でいけば、先ほど木村さんが言われたように、財政が破綻するリスクを、もっと早くから受け入れることになります。これもそうです。当面は金をばら撒けば、皆さんちょっと所得が増えますけれど、それはやはり腹をくくらなければいけない。
一方で、財政規律と格差是正ということを一生懸命やれば、何が起きるかといったら、等しく貧しくなるに決まっているのです。しかし、それも選択ですよね。どれにするかは国民が選べばいいわけです。
多分、この3つのうち、どれを捨てるかという状況になっているのです。しかし、それをはっきり言ってくれないので、ガチンコにならないのだろうなということですが、先ほども竹中さんがおっしゃったように、これがはっきり言えないというのは、経営者として決定的な資質の欠如です。
※この原稿は、2008年9月15日にアカデミーヒルズで開催した緊急シンポジウム「自民党総裁選を斬る~空気読めない候補者は去れ~」を元にアカデミーヒルズが作成したものです。
自民党総裁選を斬る~空気読めない候補者は去れ~ インデックス
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第1章 国民はこの事態をどう評価し、あしたに向かってどう行動するのか
2008年10月15日 (水)
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第2章 政治で10年、経済で10年、伝統で10年。混乱は合計30年
2008年10月20日 (月)
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第3章 選挙のキーポイントは「成長なくして老後もなし」
2008年10月21日 (火)
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第4章 建築基準法、貸金業法、日雇い派遣——規制の問題点
2008年10月22日 (水)
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第5章 日本再生に向けた戦略の最重要ポイントは「何を捨てるか」
2008年10月23日 (木)
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第6章 マニフェストを読み比べる方法。改革への道筋は描かれているか
2008年10月24日 (金)
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第7章 不況の原因と対策をはっきり示している人は?
2008年10月27日 (月)
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第8章 今、経済政策に必要なのは「ショックセラピー」
2008年10月28日 (火)
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第9章 問題3兄弟。政治家の国民不信、メディアの怠慢、国民の逃避
2008年10月29日 (水)
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第10章 今、日本経済の回復は不可能。行革の後退を防ぐことが重要
2008年10月30日 (木)
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第11章 「格差を縮めよう」ではなく、「貧困を撲滅しよう、底辺を上げよう」
2008年10月31日 (金)
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第12章 評価できる政界再編の基軸を各マニフェストからピックアップ
2008年11月03日 (月)
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第13章 マニフェストには、普通ではできないブレークスルー型のものを書け
2008年11月04日 (火)
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第14章 日本を明るくする2つの方法——教育と政策
2008年11月05日 (水)
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第15章 既得権を維持するためにたくさん法律をつくっている官僚
2008年11月06日 (木)
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第16章 知識集約的なものづくりをしない限り、今の所得は維持できない
2008年11月07日 (金)
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第17章 利害を持つ人が政策意思決定にかかわると、必ずゆがむ
2008年11月10日 (月)
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第18章 日本が競争している相手がどれほど頑張っているか見よ
2008年11月11日 (火)
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