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自民党総裁選を斬る~空気読めない候補者は去れ~

アカデミーヒルズセミナー経営戦略
更新日 : 2008年10月28日 (火)

第8章 今、経済政策に必要なのは「ショックセラピー」

緊急シンポジウム「自民党総裁選を斬る~空気の読めない候補者は去れ~」の様子

岸博幸: フェルドマンさんを含め、この6名の方のコメントを踏まえまして、竹中先生の方から、今後の皆様のディスカッションのベースになるような問題提起をお願いします。

竹中平蔵:皆さん、6名の話を聞かれて、どのように思われましたでしょうか。毎日のようにメディアで総裁選の話をしているのですが、今ここで聞いたような話というのは、ほとんど議論されていないですよね、残念だけれども。私も、このメンバーと議論すると、いつも非常に教えられるのですけれど、今のお話をベースに、ちょっと話を広げるためにいくつかのキーワードを含めて問題提起を申し上げたいと思います。

まず経済の現状に関してですが、私は木村さんが明確に言ってくれたとおりだと思います。ご承知だと思いますけれども、今年(2008年)の4~6月期にGDPはマイナス3%成長になりました。マイナスです。例えば与謝野さんは、「サブプライムでアメリカが悪くなったから、アメリカがよくなるまで、日本は待たなければいけない」というのですけれど、こんなのうそですよね。

アメリカの4~6月期は、プラス3.3%成長ですからね。もちろん、これからアメリカも厳しくなりますけれど、アメリカは、この時点では、そこそこのプラス成長をまだ続けているのです。しかし、日本はとんでもないマイナスになっている、日本独自の要因があります。

それは何かというと、一番大きいのはまさにコンプライアンス不況、やらなくてもいいような規制を政府がやっているからです。そしてビジネスの活動がシュリンクしているのです。極めつけは、例えば外国の企業が「株を買いたい」というのに、「外資系は買ってはだめだ」というような規制まで含めて堂々とやってしまっている。バケツに穴が空いているわけです。

改革そのものが低下してきていますから、「改革が進まないと、やっぱりこの国、厳しいんじゃないか」と、みんなが思い始めて、将来に対して、また不安が募り始めている。そうすると、皆さん、お金を使わないじゃないですか。企業は投資できないじゃないですか。つまり、改革が低下して、期待成長率が下がったというのが、もう1つの大きな要因です。それによって金融が非常に痛んできたというのも、もう1つあると思います。

つまり、バケツに穴が空いているところに、その穴をふさぐのが経済対策だったのに、この間の経済対策には、そのことがほとんど何も入っていないわけです。まあ、しかし名は正直かもしれません。この間の対策は「安心実現のための緊急総合対策」で、経済対策とはどこにも書いてないのです。ですから、経済対策じゃないということは、わかっているのかもしれないということだと思います。

そういう現状の中で何をやるかを考えるときに、今議論されているマニフェストを、きちんと議論しなければいけない。それを提示しているリーダー、それを評価する側のメディアや専門家、そしてさらにはそれを見ている国民、それぞれについて、私は若干の問題提起をしたいと思うのです。

まず最大のキーワードは「ショックセラピー」という言葉ではないかと思っています。このショックセラピーという言葉は、1980年代の終盤、東西冷戦構造が終わって、旧ソ連や東ヨーロッパの国が市場経済化する、そういう大改革をするときに使われた言葉なのです。

ショックセラピーというのは、「思い切って一気にやらなければだめだ」という意味なのです。これは当時のハーバード大学のジェフリー・サックスが使った言葉で、「サックスの改革」「ショックセラピー」と言われたのです。当然、みんな反対するわけです。「そんなことをやったら、痛みが急に生じる、ショックをできるだけ和らげなければいけない」、まさに暖かい改革をやれというのです。

しかし、サックスはそのとき言いました。「そういう改革は絶対にできない。なぜならば、ちょっと改革を緩めると、その間にムクムクと反対する人たちが力を持ち上げて」。当時でいえば、社会主義者、共産主義者が力を持ち上げて、「結局元に戻されてしまう」。皆さん、この2年間、まさに日本でそういうことが起こったと思いませんか。

安倍内閣と福田内閣で、郵政民営化に匹敵するような、郵政民営化の第二弾、第三弾というような大きな改革をやるべきだったのです。それを「今やると、自民党の中がもめる」とか「暖かい改革が必要だ」というようなことを理由に、改革の手を緩めて、その間にムクムクと反対勢力が強くなってしまい、そして現状のようにバケツに穴が空いたような状況ができてしまった。官僚が復権したということだと思います。

私は、ですから、今回リーダーになる人には、「再びショックセラピーをやろう、痛みを超えて改革していこう」ということを求めていたのですが、「痛みを覚悟で」と言っている人はいないのですよね。「暖かい」とか、まだ言っているわけです。それは「もう改革ができない」「改革しない」ということと、ほぼ同義なんです。それをやはり私たちは、まず見ていかなければいけないと思います。

※この原稿は、2008年9月15日にアカデミーヒルズで開催した緊急シンポジウム「自民党総裁選を斬る~空気読めない候補者は去れ~」を元にアカデミーヒルズが作成したものです。

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