記事・レポート
チャイナ・フリー 中国製品なしで暮らす1年間
~今求められる消費者の品格~
BIZセミナーその他
更新日 : 2009年03月04日
(水)
第8章 中国との貿易はいいことなのか、悪いことなのか
サラ・ボンジョルニ: 最後の教訓として皆さんにお話ししたいのは、私が1年間、中国製品を避けたことから学ばなかったことです。
昨年(2007年)、英語で私の本『A Year Without "Made in China"』(邦題『チャイナフリー:中国製品なしの1年間』)が出版され、その後メディアからインタビューを多く受けるようになりました。よく聞かれたのは、「アメリカにとって中国との貿易はいいことなのか、悪いことなのか」という質問でした。私が感じたのは、個人的な経験やこの問題に関する関心度から考えると、「これは非常に複雑な問題で、何がいいのか、何が悪いのかという明確な答えはない」ということです。ですので、レポーターの方にそういった質問をされると、そのような答え方をしていました。
するとジャーナリストの人たちは、がっかりしていました。彼らとしては私にはっきりと、中国との貿易はいいのか悪いのか、言ってほしいのではないかと私は考えました。こういった質問を受けるようになってから、この重要な問題を解くのも私の責任なのではないかと思うようになりました。
もちろん、著名な経済学者の方はたくさんいます。私は経済学者ではないのですが、これは私の問題ではないかと思ったので、たくさんの中国との貿易に関する本を読み始めました。そしてリストを2つつくり始めました。1つは、中国貿易をすることの利点、もう1つは悪い点です。
悪い方のリストには、例えば鉛の入った塗料を使ったおもちゃ、あるいは中国の環境問題、そして昨年(2007年)アメリカで非常にニュースになった有毒歯磨き粉の問題、そういったものを載せました。
良いリストの方には、何百万人もの中国の工場で働いている人たちの生活水準が向上したことや、安価な商品を多くの貧しい人たちがいる国に輸出することの利点を載せました。この最後のポイントは見逃されがちなのですが、実は非常に重要なことだと思います。非常に貧しい人たちには利点もあるのです。
最近、ニューヨークタイムズに「中国製のバイクが、貧しいラオスや東南アジアの国の人たちの生活をどれだけ向上させているか」という新聞記事が載っているのを見ました。それまでは中国製の3倍も4倍も高いバイクしかなかったのですが、数年前に中国製バイクが出てから、人々は初めてバイクを手に入れることができるようになったのです。
中国製バイクはこのような人たちにとって、非常に大きな利点をもたらしました。例えば病気の親戚を早く病院に運ぶことができ、それによって命を救うことができたとか、非常に貧しい人たちがフルーツや野菜を市場に運ぶとき、それまでは歩いて1日かかっていたところをバイクを使って2時間で行けるようになったとか。よく壊れてしまったり修理をしなくてはいけなかったりするもしれませんが、それでも彼らの生活をよくするためには非常に重要なキーとなったわけです。
貿易のインパクトに関する本を読んだりして理解を深めていくと、「中国製品がどんどん増えていくインパクト、世界に向けての生産者としての影響は、良い悪いというカテゴリーだけで分類できるのか?」と考えるようになり、しばらくしてこのリストも放棄し、もともとの答えに戻りました。つまり、「中国の世界への影響というのは混沌としていて、非常に散らかっていて、すっきりさせるのは難しい」ということです。
結論になりますが、1年間、中国製かどうかラベルやタグをずっと見てきて、より大きな教訓として私が得たのは、「私たちは消費者として、世界、特に中国とどれだけ身近につながっているかが理解できた」ということです。これより消費者としてのジレンマも生まれてきましたし、さらにはいろいろな不安要素もありました。どうすれば中国製品の危険や不安を解消できるのか、その最良の方法は分かりません。
しかし、私の経験からすると、中国との貿易関係を大きく後戻りさせることは今のところできないと思います。そういう可能性を考えた方が気分的に楽になるかもしれませんが、それはできないと思います。
中国との問題にはいろいろな不安がついてきます。この実験をした後の私の感想としては、この問題は、中国から離れて考えるよりは、中国のことを考えつつ解決していかなければいけないんだということです。
(その9に続く、全15回)
昨年(2007年)、英語で私の本『A Year Without "Made in China"』(邦題『チャイナフリー:中国製品なしの1年間』)が出版され、その後メディアからインタビューを多く受けるようになりました。よく聞かれたのは、「アメリカにとって中国との貿易はいいことなのか、悪いことなのか」という質問でした。私が感じたのは、個人的な経験やこの問題に関する関心度から考えると、「これは非常に複雑な問題で、何がいいのか、何が悪いのかという明確な答えはない」ということです。ですので、レポーターの方にそういった質問をされると、そのような答え方をしていました。
するとジャーナリストの人たちは、がっかりしていました。彼らとしては私にはっきりと、中国との貿易はいいのか悪いのか、言ってほしいのではないかと私は考えました。こういった質問を受けるようになってから、この重要な問題を解くのも私の責任なのではないかと思うようになりました。
もちろん、著名な経済学者の方はたくさんいます。私は経済学者ではないのですが、これは私の問題ではないかと思ったので、たくさんの中国との貿易に関する本を読み始めました。そしてリストを2つつくり始めました。1つは、中国貿易をすることの利点、もう1つは悪い点です。
悪い方のリストには、例えば鉛の入った塗料を使ったおもちゃ、あるいは中国の環境問題、そして昨年(2007年)アメリカで非常にニュースになった有毒歯磨き粉の問題、そういったものを載せました。
良いリストの方には、何百万人もの中国の工場で働いている人たちの生活水準が向上したことや、安価な商品を多くの貧しい人たちがいる国に輸出することの利点を載せました。この最後のポイントは見逃されがちなのですが、実は非常に重要なことだと思います。非常に貧しい人たちには利点もあるのです。
最近、ニューヨークタイムズに「中国製のバイクが、貧しいラオスや東南アジアの国の人たちの生活をどれだけ向上させているか」という新聞記事が載っているのを見ました。それまでは中国製の3倍も4倍も高いバイクしかなかったのですが、数年前に中国製バイクが出てから、人々は初めてバイクを手に入れることができるようになったのです。
中国製バイクはこのような人たちにとって、非常に大きな利点をもたらしました。例えば病気の親戚を早く病院に運ぶことができ、それによって命を救うことができたとか、非常に貧しい人たちがフルーツや野菜を市場に運ぶとき、それまでは歩いて1日かかっていたところをバイクを使って2時間で行けるようになったとか。よく壊れてしまったり修理をしなくてはいけなかったりするもしれませんが、それでも彼らの生活をよくするためには非常に重要なキーとなったわけです。
貿易のインパクトに関する本を読んだりして理解を深めていくと、「中国製品がどんどん増えていくインパクト、世界に向けての生産者としての影響は、良い悪いというカテゴリーだけで分類できるのか?」と考えるようになり、しばらくしてこのリストも放棄し、もともとの答えに戻りました。つまり、「中国の世界への影響というのは混沌としていて、非常に散らかっていて、すっきりさせるのは難しい」ということです。
結論になりますが、1年間、中国製かどうかラベルやタグをずっと見てきて、より大きな教訓として私が得たのは、「私たちは消費者として、世界、特に中国とどれだけ身近につながっているかが理解できた」ということです。これより消費者としてのジレンマも生まれてきましたし、さらにはいろいろな不安要素もありました。どうすれば中国製品の危険や不安を解消できるのか、その最良の方法は分かりません。
しかし、私の経験からすると、中国との貿易関係を大きく後戻りさせることは今のところできないと思います。そういう可能性を考えた方が気分的に楽になるかもしれませんが、それはできないと思います。
中国との問題にはいろいろな不安がついてきます。この実験をした後の私の感想としては、この問題は、中国から離れて考えるよりは、中国のことを考えつつ解決していかなければいけないんだということです。
(その9に続く、全15回)
※この原稿は、2008年7月10日にカデミーヒルズで開催した「チャイナ・フリー 中国製品なしで暮らす1年間~今求められる消費者の品格~」を元に作成したものです。尚、サラ・ボンジョルニのスピーチは英語で行われたため、翻訳しています。
関連書籍
チャイナフリー—中国製品なしの1年間
ボンジョルニ,サラ, 雨宮 寛, 今井 章子東洋経済新報社
チャイナ・フリー 中国製品なしで暮らす1年間 インデックス
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第1章 なぜ「中国製品を買わずに1年間生活してみよう」と思ったのか
2008年10月29日 (水)
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第2章 おもちゃや電気製品はもちろん、ブランドスーツも中国製
2008年11月10日 (月)
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第3章 中国製以外の子ども靴を見つけるのに2週間。かかったお金は約5倍
2008年11月21日 (金)
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第4章 チャイナフリーの実験で、親戚や家族関係に危機が生じることも
2008年12月05日 (金)
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第5章 「Made in China」以外にも中国製はある
2008年12月05日 (金)
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第6章 「安いから買う」という消費生活からの脱却
2009年01月29日 (木)
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第7章 中国に対して背を向けるわけにはいかない
2009年02月19日 (木)
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第8章 中国との貿易はいいことなのか、悪いことなのか
2009年03月04日 (水)
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第9章 「チャイナフリー」。言うは易く行うは難し
2009年03月11日 (水)
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第10章 グローバリゼーションは私たちの生活を本当に豊かにするのか
2009年03月19日 (木)
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第11章 たくさんの好きなものに囲まれる生活が一番豊かなのか?
2009年03月27日 (金)
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第12章 「ものの豊かさだけでは人間は幸せにはなれない」
2009年04月08日 (水)
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第13章 価格を追求するアメリカ、品質を追及する日本
2009年04月27日 (月)
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第14章 日本の親は、子どもが欲しがるものを何でも買い与えてしまう
2009年05月19日 (火)
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第15章 「恥知らずな生活」を見直そう
2009年06月04日 (木)
該当講座
中国——この急成長を遂げる屈指の製品輸出国ほど、21世紀のグローバル経済が引き起こす功罪に深く関わっている国はないでしょう。中国製品には、安心・安全、環境問題、格差問題、資源獲得競争、少子高齢化など、世界の多くの国が共有する社会問題が凝縮されているといってもいいでしょう。しかし、私たちはそうした問題....
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