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ライフスタイルサロン ~遊びをせんとや生まれけむ『ぼくの複線人生』~

カルチャー&ライフスタイル
更新日 : 2008年04月01日 (火)

第9章 測れないもの、美しいものが評価される時代

竹中平蔵_福原義春

福原義春: 私は人生を長いこと生きてきましたから、家に帰ると家内に「あなたは何をしている人ですか?」と言われるのですが、私にもあまり的確な返事ができないというのが、今の状況です。竹中(平蔵)大臣とは地方分権の話で九州まで行ったこともありますし、何をやっているのかわからないようなこともございます。

先ほど「ダ・ヴィンチが、靄(のデッサンをした」というお話をしましたが、今の時代、新聞だとか、あるいはネットなどにあらゆる情報が氾濫しておりますでしょう。それは全部書かれたものであって、隣の人も知っていることなんですね。

そうすると、この次に、私たちが知らなければならないことは「見えないものを見ること」「測れないものを知ること」ではないかという気がするんです。

それにはできるだけ多くのことを経験しておかないと、本だけの知識では見えないものは見えないんです。いろいろな世界に足を突っ込んでごらんになると、だんだんといろいろなものが見えてくる、ということがおわかりいただけますでしょうか。

最後に、これからの世界というのは、100メートルを9秒7で走ることが大事ではなくて、冬のオリンピックで荒川静香さんがイナバウアーで大変な得点を稼いだように、測れないもの、美しいものが評価されるような時代になっていくと思います。だから100メートル9秒7いくつを0.01秒縮めたところで、国民的な英雄にはならないんです。

先ほど「見えないものを見る」というお話をしましたが、これから先の世の中というのは、見えないものと同時に美しいバランスを持ったものに価値が出てくる時代になっていくのではないかと思います。

例えば、携帯電話はどんどんいろいろな機能が付いて、そういうものを皆さんはお買いになるわけですが、そうかといって、その機能を使うことはほとんどないのです。バブルのおしまいのころに、自動車会社が各社いろいろな機能を車に付けました。私の会社の広報部長がそのころ買ったスポーツカーを売ったのですが、1つだけ何のスイッチかわからないものがあったんです。それまで1回も使ったことがないというので、売るときに試してみたら、バックミラーのワイパーだったそうです。

今はもうそんなものが付いている車はないですけれど、そういうことではなくて、走っていて楽しい車、走っていて気持ちのいい車、乗っていて美しい車というようなことが大事ではないかと思うのです。それがこれから先の、1つのバランスのとれたパラダイムになっていくのではないかと思っています。

1995年にパリにおりましたときに、『パリマッチ』の取材を受けたことがあります。フランスのジャーナリストというのは、ものすごく突っ込んだことを抜け抜けと聞きますので、「あなたの個人財産はいくらあるんだ?」と訊ねるのです。私の個人財産なんてろくにないし、仮に言ってみたところでばかにされるのが落ちなので、「僕の唯一の財産は私のエスプリであって、これは価値換算も売買もできない」と答えたんです。そうしたら『パリマッチ』が、その通り載せてくれたんです。

翌週、共産党系の『リベラシオン』に、「先週の金言」みたいなところで1行載せていただきまして、「日本から来た化粧品会社の社長は『私の財産は私のエスプリだ』と言った」と、こうお書きになったので、一同、私も含めてみんなびっくりしました。そういうことをひっくるめて、より豊かなライフスタイルをつくるということは、いろいろなことに興味を持って、それを考えていって、そこで仲間をつくって、出会いをつくって、コミュニケーションを図るということの集積ではないかと思うわけです。