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「まちの保育園」が実践する、コミュニティデザイン

地域ぐるみで子どもを育てる

建築・デザインマーケティング・PRキャリア・人
更新日 : 2014年02月13日 (木)

第9章 コミュニティデザイン、ソーシャルデザインを考える際のポイント

古田秘馬(プロジェクトデザイナー/株式会社umari 代表)
古田秘馬(プロジェクトデザイナー/株式会社umari 代表)

 
視点を変え、まちを再編集する

古田秘馬: 僕は生産者と一緒につくるレストラン「六本木農園」を運営しています。松本さんのお話を聞いて、農業と教育は非常に似ていると感じました。経済成長を続けていた時代は効率性が最重要視され、農業は都市に必要がないものだとされてきた。同じく教育も、都市の中枢はビジネスの場所であり、心を豊かにする自然や人とのふれあいは地方で行えばよいとされてきた。

ところが近年、都市にこそ本物に出会える場所が必要だと言われるようになっています。本物がもつクオリティを、都市の人々が求めるようになってきた。多くの人が、効率性だけでは豊かな人生は成り立たないと気がついたのかもしれません。

松本理寿輝: ビジネスであれば、目標を定めて、未来からバックキャストして考えることは大切だと思います。しかし、教育を考えていくうえでは、むしろ現在からフォアキャストして物事を考え、対話と試行錯誤を重ねながらとにかく前に進み、クオリティを向上させていく。そうしたプロセスが大切になると思います。

それはまた、これからのコミュニティデザインのあり方にも通じると思います。「私たちが望む本当の理想とは何だろう」と、フォアキャストして未来の社会について考え、前に進みながら物事を形作っていく。

古田秘馬: まさにそうだと思います。もう1つ、非常に面白いと感じたことは、入口は既存の保育のモデルでも、中に入ると、まったく新しい保育のカタチがあること。目新しさや高邁な理念ばかりを前面に押し出してしまうと、多くの人は身構えてしまいます。だからこそ、既存のモデルを活用し、誰もが入りやすい入口をつくり出す。こうした点が、新しいまちづくり、新しいビジネスモデルを生み出している人々の共通項なのです。

コミュニティデザイン、ソーシャルデザインを考える際のポイントは、視点を変えることです。従来の視点では、保育園という建物の中だけを保育の場と捉えていた。「まちの保育園」は、視点を少し後ろにずらすことで、まち全体を保育の場と捉えた。一歩後ろに下がり、視野を広げた瞬間、音楽ホールも美術館も、陶芸家も農家の人も、地域にあるリソースがすべて子どもたちの学びに活用できるようになるわけです。まさに、まちの再編集です。

松本理寿輝: これからの幼児教育を考えていくうえでは、多様な視点が必要です。視点を変えるという意味では、地域に暮らす方々の視点を柔軟に取り入れていくことも大切になると思います。

古田秘馬: 僕が取り組む「丸の内朝大学」も同じかもしれません。朝の時間に使われてない会議室がある。別の角度から見ると、僕には教室になると思えた。その瞬間、新たな価値が生まれたわけです。会議室だった場所に、違う価値や別の役割を見いだした。保育園という場に、地域の交流の拠点という新たな機能を付加した。1つの場所に複数の機能を付加していくことが、コミュニティデザイン、ソーシャルデザインの重要なポイントになると感じています。


該当講座

シリーズ「街・人を変えるソーシャルデザイン」
“地域ぐるみで子どもを育てる”
松本理寿輝 (まちの保育園・こども園 代表 / まちの研究所株式会社 代表取締役 )
古田秘馬 (プロジェクトデザイナー/株式会社umari代表)

松本理寿輝(ナチュラルスマイルジャパン代表取締役)× 古田秘馬(株式会社umari代表)
2011年に小竹向原に開園した「まちの保育園」は、地域の人が利用できるベーカリーやカフェ、ギャラリーが併設され、従来の保育園のイメージとは異なる開放的な雰囲気。世代を超えた対話の中で、地域ぐるみで子どもを育てることを目指しています。今こそ、どのような幼児教育が必要なのか本質的に考え、街・地域の中で人々が対話し、大人も子どもも学びあえる社会のあり方を考えます。


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