記事・レポート

「まちの保育園」が実践する、コミュニティデザイン

地域ぐるみで子どもを育てる

建築・デザインマーケティング・PRキャリア・人
更新日 : 2014年01月31日 (金)

第3章 デザインの力で、子どもの可能性を引き出す


 
感性を刺激する園内のデザイン

松本理寿輝: 「まちの保育園」は、子どもだけでなく、大人にも居心地の良い場所にしたいと考えていました。保育園だからと、ウサギやゾウの絵をあちこちに貼り付ける、パステルカラーで埋め尽くす、というルールはありません。反対に、妙に大人じみたシックな空間でも良くありません。木や石、レンガなど、できる限りナチュラルな素材を使い、子どもも大人も愛されるデザインを目指しました。

また、子どもの発達や興味、活動内容に合わせて、フレキシブルに活用できる空間にしたいという発想から、保育室は大きな1つの空間としました。変化する子どもたちの興味・関心の方向に合わせて、家具等でコーナーをつくり、空間を更新していきます。保育園で使われている家具の多くは、創業メンバーの一人が大枠をつくり上げてくれ、その後は、学生の力も借りながら、園スタッフが手づくりで制作したものです。

給食室は園の中央、保育室のすぐ隣にあります。子どもたちは遊ぶ傍ら、食事をつくっている調理師を間近で見ることができます。自分たちが食べる給食を、どのような人が、どのようにしてつくっているのか。食を身近に感じてもらうことは、食育の第一歩になると考えています。調理スタッフも子どもと信頼関係をもち、本当に良い関係だなと思っています。

小汗をかき、達成感を得る

松本理寿輝: 園庭には、遊びを規定するような遊具は置いていません。子どもは自然の中から新しい遊びを発見します。木をたくさん植えた森のゾーン、泥んこ遊びができる砂・土のゾーン、中央に配置した築山など、子どものチャレンジを促す造りとしています。また、四季折々の草花も植えており、農園の方に相談してつくった畑もあります。

園庭中央にある築山は、開園前、工事業者の方にターゲットを置いてもらい、保護者や地域の方とのワークショップを通して形を決め、その後の造成作業まで一緒に行いました。コミュニティの協力を得る際、私たちが重視していることは「小汗をかいて達成感が得られる」作業であるかどうかです。大汗をかき、何時間もかけて行う作業には、なかなか人は集まってくれません。保護者や地域の方に、小汗をかいて達成感がある作業を体験してもらうことで、保育園との関わりを少しずつ深めていただくことができると考えています。

現在は、地域の方々と園庭の活用法について対話を重ねています。秋には園庭開放を予定していますが、その中で、保護者の方が主催してくださって開園来より実施され、地域で評判となった「子どもグッズ交換会」(文字通り、子どものグッズを交換し合うイベント)を、園庭のピクニックも兼ねて開催できるように計画しています。このように、「まちの保育園」を地域の共有資源として積極的に活用していただくことが、私たちの目指すまちぐるみの保育の実現にもつながると考えています。


該当講座

シリーズ「街・人を変えるソーシャルデザイン」
“地域ぐるみで子どもを育てる”
松本理寿輝 (まちの保育園・こども園 代表 / まちの研究所株式会社 代表取締役 )
古田秘馬 (プロジェクトデザイナー/株式会社umari代表)

松本理寿輝(ナチュラルスマイルジャパン代表取締役)× 古田秘馬(株式会社umari代表)
2011年に小竹向原に開園した「まちの保育園」は、地域の人が利用できるベーカリーやカフェ、ギャラリーが併設され、従来の保育園のイメージとは異なる開放的な雰囲気。世代を超えた対話の中で、地域ぐるみで子どもを育てることを目指しています。今こそ、どのような幼児教育が必要なのか本質的に考え、街・地域の中で人々が対話し、大人も子どもも学びあえる社会のあり方を考えます。


建築・デザイン マーケティング・PR キャリア・人