記事・レポート

「まちの保育園」が実践する、コミュニティデザイン

地域ぐるみで子どもを育てる

建築・デザインマーケティング・PRキャリア・人
更新日 : 2014年01月29日 (水)

第1章 人格形成の時期に大切なことは何か?

東京・練馬区の閑静な住宅街に、独創的な取り組みで注目を集める保育園があります。園内にカフェやギャラリーを併設し、地域の人々との関わり合いの中で子どもを育てる「まちの保育園 小竹向原」です。同園を運営する松本理寿輝氏による教育アプローチの手法、「丸の内朝大学」「六本木農園」を手掛ける古田秘馬氏との対話から、コミュニティデザイン、ソーシャルデザインのひとつのあり方がみえてきました。

ゲストスピーカー:松本理寿輝(ナチュラルスマイルジャパン 代表取締役)
ファシリテーター:古田秘馬(プロジェクトデザイナー/株式会社umari 代表)

松本理寿輝(ナチュラルスマイルジャパン 代表取締役)
松本理寿輝(ナチュラルスマイルジャパン 代表取締役)

 
幼児教育をグランドデザインする

松本理寿輝: 「まちの保育園 小竹向原」は2011年4月、東京・練馬区の住宅街に開園しました。地域(まち)という資源をふんだんに活かした保育を行い、同時に保育園を地域の共有資源として開放し、人々の豊かな生活にも貢献しよう。保育だけでなく、まちづくりの新たなモデルとして展開していこうと立ち上げたものです。

子どもは、0~6歳までの人格形成期に、どのような経験をし、どのような人と出会うのかが大切であると言われています。その子どもたちが20年後、30年後の社会を形作っていくと考えるならば、保育・幼児教育は未来の社会をつくり出していくことに等しい行為と言えるでしょう。

しかし現状、日本の未就学児が通う環境には保育園と幼稚園があり、ダブルスタンダードとなっています。世界的に見ても、保育・幼児教育のあり方が2つに分かれている国は非常に稀です。また、OECD(経済協力開発機構)加盟国の中で、日本はGDPに対する保育・幼児教育の予算と、職員配置等の保育環境が最低ランクです。人間の一生を左右するような大切な期間です。国は新たな方向性を示そうとしていますが、いまこそ、保育・幼児教育のグランドデザインをどのようにしていくべきか、国民的議論が必要な時期だと感じています。

現代の子どもの環境を見ると、地域のつながりが希薄化し、子どもは保育園・幼稚園と家庭の往復になっているケースが多い。特に都市部においては顕著です。そうした中、保育園や幼稚園で働くスタッフの95%は女性で、平均年齢は30歳代前半。現場は、主に若い女性によって支えられています。家庭においては、平日、男性が働きに出ていて、女性が専業主婦をしている家庭が、その反対よりも多く、共働きであっても、授乳などの関係もあり母親が育児をしている時間が長い。つまり、大切な人格形成期に、子どもが接する人は若い女性に偏っています。さらに、都市部では、“孤育て”に陥る家庭も増えています。子どもの日常に老若男女、様々な世代が関わることができていないのが現状です。

レッジョ・エミリア・アプローチ

松本理寿輝: 十数年前、学生だった頃にこうした状況を知り、私は子どもや地域のために行動できることはないかと考えました。とは言いながらも、私は政治家や学者になるつもりはありませんでした。ただ1つ頭に浮かんだのは、実践者として“現場”をつくりたいという想いでした。

その頃から国内の保育園や幼稚園を見学し、海外の事例もたくさん学びました。そうした中で、イタリアの「レッジョ・エミリア・アプローチ」(※編注)なる教育方法と出会ったのです。まちぐるみで理想の教育のあり方を考え、子どもを育てていく取り組みを知り、ぜひ日本でも参考にできないかと考えるようになりました。

「まちぐるみの保育」が実現できれば、子どもの可能性を引き出すだけでなく、保護者にも、地域の人にも役立つ場となるのではないか。そうした想いから「まちの保育園」のモデルが形作られていったのです。


※編注
レッジョ・エミリア・アプローチ
第2次世界大戦後、北イタリアの小都市レッジョエミリア市で発展した教育実践と学びの共同体。多様な人々の対話を中心としながら、子どもの可能性を引き出す教育活動にまちぐるみで取り組むことが特長。21世紀の教育のあり方として世界的な注目を集めている。


該当講座

シリーズ「街・人を変えるソーシャルデザイン」
“地域ぐるみで子どもを育てる”
松本理寿輝 (まちの保育園・こども園 代表 / まちの研究所株式会社 代表取締役 )
古田秘馬 (プロジェクトデザイナー/株式会社umari代表)

松本理寿輝(ナチュラルスマイルジャパン代表取締役)× 古田秘馬(株式会社umari代表)
2011年に小竹向原に開園した「まちの保育園」は、地域の人が利用できるベーカリーやカフェ、ギャラリーが併設され、従来の保育園のイメージとは異なる開放的な雰囲気。世代を超えた対話の中で、地域ぐるみで子どもを育てることを目指しています。今こそ、どのような幼児教育が必要なのか本質的に考え、街・地域の中で人々が対話し、大人も子どもも学びあえる社会のあり方を考えます。


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