記事・レポート

ネットいじめ~ウェブ社会と終わりなき「キャラ戦争」

更新日 : 2009年08月20日 (木)

第8章 プロフにつながるポジショニングのアピールツール

荻上チキさん

荻上チキ:  例えば、学校の「制服文化」というのがありますが、そもそも制服がかわいくないから「かわいい」をアピールしようとしても限界がある。そこで、学則に根本的には逆らわない範囲の中で、かわいく演じることができる物を極力いじろうという形で、女子高生とか女子中学生のファッションというのがここ数十年間発展してきている。制服を切るとアウトなら、内側に折りたたもうとか、学生靴じゃないといけないなら、せめてカラーペンでデコろうとか(笑)。

なぜかよく分からないけれど、学校に持ち込めるものも理不尽なまでに規制されてたりするので、じゃあ文房具の持ち込みだけはセーフだというなら、プリクラ手帳とか、あるいは香付きの消しゴムにしてといった風に、いじれるところで自分たちのファッション性、キャラポジションをアピールしていくという作法が、学校の中に生まれ、脈々と続いている。

そうしたもののうち何がプロフにたどりついたのかというケースは、文字の変遷というものもひとつの背景にあるのですが、もう1つ注目したいのが、文房具文化の変遷です。

女性の方であれば、サイン帳とかプリクラ手帳とかを友だちと見せっこしたり交換したことがある人がこの会場にもいると思います。懐かしくないですか? もちろん僕もやりました。卒業式シーズンとかになると、質問項目がやたら書いてある紙を、仲良しになりたい友達に渡すわけです。住所とかプリクラ、メッセージとか、「あなたは動物でいうと何?」みたいな、一発ネタみたいなのがあちこちに仕込んである。そういったシートを集め、バインダーみたいな形ではさむことで1冊に束ねて、「友達、私、これだけいるんだよ」みたいなアピールツールに使ったり、大事な思い出ツールになったりするわけです。

プリクラ手帳というのは、実は緩やかな出会い系メディアとしても使われていました。例えば渋谷のストリートとかでタフに活動していたギャルたちは、当時「携帯の着信履歴とか、データベースにどれだけの人が登録されているか=コネクション力」みたいな形で暗黙の価値付け合いをしていました。どれだけ多くの人たちのプリクラを集められて、しかも「この子、かわいくね?」みたいなことを男子に言われたりすると、「えっ、マジで? じゃあ、今度セッティングしようか?」と、自分たちが出会い系を促進できる能力があるということをアピールするためのメディアにも使ったりします。僕みたいな男子も男子で、さりげなくかわいい女子とのプリクラをどれだけ持ってるかとかで、リスペクトされたりされなかったりしていました。

つまり、学校の中でコミュニケーションを円滑に図っていき、自分というものを「こういった人間なんだよ」とアピールするというニーズがあった状況に加え、学校という限定された空間以外の人たちとも「出会いたい」という欲望があった。そういった欲望みたいなものが、これまではプリクラ手帳などの文房具文化において発達してきたのが、新しいメディアであるインターネットやケータイと出会ったときに、プロフの流行につながっていったのです。

こうしたメディアの影響が反映されているということは、どの分野でも説明できます。例えばナンパ文化。例えば現在、ナンパをする時にも、ケータイを互いに持っているということが前提となっているわけですよね。自分のアドレスとかもろもろのものを携帯の赤外線通信でやりとりするんですが、そこにその人のプロフのURLとかが載っているということも少なくない。

例えばポケベルは、1990年代中ごろから数年しか使われなかったメディアなのですが、「ベルナンパ」とかというのがありました。ポケベルの番号をプリクラに書いておいて、そのプリクラを公衆電話とかにペタッと貼って、それを見て気になった人にナンパベルを送ってもらうと。よくそういう「ベル番」付きのプリクラを、こっそり持って帰ったりしたわけです。雑誌『ジャま~る』などでも、「出会い系」という言葉が共有されていましたし、そこでは電話番号とかベル番号といった個人情報に、プリクラや写真も掲載されていたりした。

そうやってベルナンパが行われていたころから、徐々にiモードとかピッチとかが流行ってくると、ネット系の出会い系サイトを通じて人々が出会っていく。出会い系の発達とは別に、ストリート系のナンパも、メディアを使った独特の発達を行っていくんですが、このあたりの歴史も面白いのですが、時間がないのではしょります。たぶんそのうちどこかに書くので、そちらを楽しみにしてください(笑)。