記事・レポート
ネットいじめ~ウェブ社会と終わりなき「キャラ戦争」
更新日 : 2009年08月27日
(木)
第13章 関係の流動化する現代のコミュニケーション
荻上チキ: 現代社会というのは人々にどのようなコミュニケーションを求めるステージなのかといえば、かつてあったような形で、ある場所に限定した同期性とか、あるライフスタイルに根ざして、共通の志向性の確保するものではなくなっている。個別の目標、個別の生き方、個別のチャンネルみたいなものを志向する個人を、セグメントされた形で生きさせていかなければならないという状況があります。
そういった状況で、そもそも私たちがメディアを獲得していくということは、社会的な身体をどんどん拡張していくことで、今までクリアできなかったさまざまな課題というものを攻略していく、あるいは私たちが進めなかった社会性みたいなものを獲得していく、あるいは今まで解決できなかった社会的課題みたいなものに対して、1つのパス、回答が提示されるといった側面がある。
インターネットも、今までのメディアの登場と変わりなく、そういったある種の欲望みたいなものをかなえるためのものとして登場してきたわけです。しかし、インターネットによってすべての人がつながるとか、総表現社会になるとか、あるいはインターネット上のプロフで自己PRできるようになったというのは副次的なもので、その背景にある根幹的なものは、そもそもコミュニケーションが流動化し、島宇宙化した状態から網状化した状態へと変わり、それぞれがコミュニケーションチャンネルみたいなもの、複数の常時接続したコミュニケーションをメンテナンスしていかなければいけない。そのニーズに見合うような形でインターネットやケータイが登場してきたということは、象徴的なのではないかと思っています。
最後に、「人々が合理性や準拠集団を求める行動やその力学は何を招くのか」という話なのですが……時間がないのでほとんど喋れません(笑)詳細はまた、今後の仕事に期待していただくとして、そのサワリを。
NTT出版からでているフリーペーパー『InterCommunication』で、僕と同世代の評論家である濱野智史さんとで「N±1マップ」という図を書きました。どういうことかというと、n世代に新しいメディアというのがポコッと登場すると、そのメディアの中にさまざまなコミュニティというものがポコポコできてくる。例えばプロフを使うコミュニティ、あるいは出会い系サイトを使うコミュニティ、あるいは女性性について、子育てとか料理とかについて話すコミュニティみたいなのができたりする。そういったコミュニティが出ると、必ず「n-1世代」からは、一枚岩のものとして観察されて、大雑把な分析みたいなのが繰り広げられてしまうのです。
「今の若者って携帯世代で、携帯とかガンガンやっているんでしょう?」「携帯世代は挨拶とかできないし、携帯とかで大体やりとりするからストレスに弱い」とか、俗流若者論的なものが頻繁に出たりする。
あるいは真逆で「Web2.0言説」みたいなものがあると同じように、「インターネット世界に属している若者たちが、どんどんネットを攻略していって可能性があるよ」みたいになる。「n-1」から語っている以上、「デジタルネイティブ、すごいよね」みたいな、そんな大雑把な話になりがちになってしまう。
そうでなくて、n世代に登場してきたニューメディア、定着していっているニューメディアというものが、そもそも何からこういうふうに発生していって、何につながり得るのかという、この運動そのものを分析していくということが今のメディア論に求められているわけですね。「n世代」を一枚岩として語るわけでもなく、単に「n世代」の語りに居直るのではなく、「n+1世代」を夢想して終わるというのでもない、「n±1」を作っている運動そのものを観察することが、メディアへの観察には求められている。今日はその一端を、実例をまじえてお話しさせていただいたという形になります。もう時間となりましたので、今日はこのあたりで。ご清聴ありがとうございました。(了)
そういった状況で、そもそも私たちがメディアを獲得していくということは、社会的な身体をどんどん拡張していくことで、今までクリアできなかったさまざまな課題というものを攻略していく、あるいは私たちが進めなかった社会性みたいなものを獲得していく、あるいは今まで解決できなかった社会的課題みたいなものに対して、1つのパス、回答が提示されるといった側面がある。
インターネットも、今までのメディアの登場と変わりなく、そういったある種の欲望みたいなものをかなえるためのものとして登場してきたわけです。しかし、インターネットによってすべての人がつながるとか、総表現社会になるとか、あるいはインターネット上のプロフで自己PRできるようになったというのは副次的なもので、その背景にある根幹的なものは、そもそもコミュニケーションが流動化し、島宇宙化した状態から網状化した状態へと変わり、それぞれがコミュニケーションチャンネルみたいなもの、複数の常時接続したコミュニケーションをメンテナンスしていかなければいけない。そのニーズに見合うような形でインターネットやケータイが登場してきたということは、象徴的なのではないかと思っています。
最後に、「人々が合理性や準拠集団を求める行動やその力学は何を招くのか」という話なのですが……時間がないのでほとんど喋れません(笑)詳細はまた、今後の仕事に期待していただくとして、そのサワリを。
NTT出版からでているフリーペーパー『InterCommunication』で、僕と同世代の評論家である濱野智史さんとで「N±1マップ」という図を書きました。どういうことかというと、n世代に新しいメディアというのがポコッと登場すると、そのメディアの中にさまざまなコミュニティというものがポコポコできてくる。例えばプロフを使うコミュニティ、あるいは出会い系サイトを使うコミュニティ、あるいは女性性について、子育てとか料理とかについて話すコミュニティみたいなのができたりする。そういったコミュニティが出ると、必ず「n-1世代」からは、一枚岩のものとして観察されて、大雑把な分析みたいなのが繰り広げられてしまうのです。
「今の若者って携帯世代で、携帯とかガンガンやっているんでしょう?」「携帯世代は挨拶とかできないし、携帯とかで大体やりとりするからストレスに弱い」とか、俗流若者論的なものが頻繁に出たりする。
あるいは真逆で「Web2.0言説」みたいなものがあると同じように、「インターネット世界に属している若者たちが、どんどんネットを攻略していって可能性があるよ」みたいになる。「n-1」から語っている以上、「デジタルネイティブ、すごいよね」みたいな、そんな大雑把な話になりがちになってしまう。
そうでなくて、n世代に登場してきたニューメディア、定着していっているニューメディアというものが、そもそも何からこういうふうに発生していって、何につながり得るのかという、この運動そのものを分析していくということが今のメディア論に求められているわけですね。「n世代」を一枚岩として語るわけでもなく、単に「n世代」の語りに居直るのではなく、「n+1世代」を夢想して終わるというのでもない、「n±1」を作っている運動そのものを観察することが、メディアへの観察には求められている。今日はその一端を、実例をまじえてお話しさせていただいたという形になります。もう時間となりましたので、今日はこのあたりで。ご清聴ありがとうございました。(了)
ネットいじめ~ウェブ社会と終わりなき「キャラ戦争」 インデックス
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第1章 本書に込めた裏テーマに踏み込む
2009年05月13日 (水)
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第2章 ネットいじめ、学校裏サイトのイメージは報道のトーンからつくられる
2009年06月01日 (月)
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第3章 学校勝手サイトは本当にヤバイのか?
2009年06月19日 (金)
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第4章 「ネット上のいじめ」と「ネットいじめ」の違い
2009年07月07日 (火)
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第5章 ネットいじめに対する一般的な誤解と実際
2009年08月17日 (月)
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第6章 ネットコミュニケーションの背景にあるニーズの分析が必要
2009年08月18日 (火)
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第7章 コミュニケーションの円滑化のための文字文化の変遷
2009年08月19日 (水)
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第8章 プロフにつながるポジショニングのアピールツール
2009年08月20日 (木)
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第9章 学校空間が求めるキャラ文化
2009年08月21日 (金)
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第10章 出会い系サイトと現代の恋愛観・結婚観
2009年08月24日 (月)
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第11章 子育てにおける環境やコミュニケーションの変化
2009年08月25日 (火)
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第12章 社会的身体の獲得と女性性の変容
2009年08月26日 (水)
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第13章 関係の流動化する現代のコミュニケーション
2009年08月27日 (木)
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