記事・レポート

ネットいじめ~ウェブ社会と終わりなき「キャラ戦争」

更新日 : 2009年08月21日 (金)

第9章 学校空間が求めるキャラ文化

荻上チキさん

荻上チキ:  もう1つ。ハッカーやサブカル文化がウェブ文化を支えてきたように、ギャル文化というものがケータイ文化を支えてきた歴史もあるのですが、90年代的なイメージでは、「ギャル=ピッチを持っていて、援助交際していて、ルーズソックス履いていて、ガングロ、ゴングロ、ヤマンバで、渋谷とかで髪の毛をいじりながら、『安室、マジ、いいんだけど』みたいなトークをしている、都市というジャングルに適応した女ターザンみたいな奴ら」みたいなイメージがあって、それをガッチリ支えてきた『egg』という雑誌がありました。いや、すごい暴力的なまとめですが、分かりやすく伝えるために、面白おかしく言っているだけなので、はい(笑)。

現在はそうした「コギャル」路線とはまた別に、「姫ギャル」の注目が高まっていますね。『小悪魔ageha』という雑誌に象徴されるように、自分の身の回りのものをタフにするようになり、自分をガングロのように身体改造してやり過ごしていくというよりは、かわいいものを着て、そのかわいいものをいかにデコレーションしていくを重視する。デコレーショングッズを周りに集めつつ、自分もコスプレ感覚で変身していく。

少し前、ネット上で、「脱オタクファッションガイド」ということが注目されていました。要するに『電車男』のスレッドとかドラマとかを見て、「オタクなんだけれど恋したい」みたいな人たちがワンサカできたときに、「何とか俺を脱オタしてくれ」「じゃあ、こんな服を着たらいいんじゃない?」みたいなコミュニケーションがここ数年間活発に行われています。コミュニカティブに振舞うために、ファッションを変えていく。「姫ギャル」は、ネガティブからポジティブに返信するための「脱ネガファッション」的に使われている。というか「コギャル」のような「反ネガ=アッパー」ではなくて、「ネガティブでも、それはそれ」みたいに肯定しようとしているのが面白い。

自分自身がギャルとしてタフに成長していくというよりも、インストールしやすいキャラを獲得しながら、コミュニケーションを的確に回していくことができればいい。そのツールとして「デコリ文化」とか「姫ギャル」などが選択されていると。

学校のような狭い空間で、アジェンダやボキャブラリーを共有しない人と長期間一緒に過ごさなければいけないとなったときに、同じ制服なんだけれども、「あいつがどういうキャラなのか」を相互認識することによって、秩序を形成していく。その秩序によってはいじめとかにつながる部分もあるのですが、一方で、「あいつはギャルだから、オタクな自分とは違うんだ」ということが一目でわかれば、いちいち無理のあるディスカッションをやって、ストレス抱えて、「結局だめでした」みたいなことをやらずとも、一目で「お互い儀礼的に無関心しあいましょう」みたいな距離を適切にとることもできるわけですね。

そういう「キャラ文化」というものを求めるムードが、確かに学校空間にはあったりする。そういったニーズに的確に応えていったサービスが、例えば最大級のSNSになった『モバゲータウン』であり、『前略プロフ』であり、一時期めちゃくちゃ流行した『顔ちぇき!』であり、あるいは「デコメ」、「着メロ」であると。キャラ・コミュニケーションをメンテナンスするためのツール、それがここ数年ウェブ上で特に若者の間で流行ってきていた。

『モバゲータウン』では、自分のプロフにはアバターといって似顔絵みたいなものしか表示されません。お互いのキャラみたいなものを、ここの使い分けで見せてくるわけです。自分がこういう属性を持っている人間だということを的確にアピールしながら、似たような属性を持っている人たちとつながることができる。

その背景には、コミュニティやコミュニケーションそのものの変化と歴史があり、そうした歴史が新しいメディアを求めたわけですね。