記事・レポート

ネットいじめ~ウェブ社会と終わりなき「キャラ戦争」

更新日 : 2009年06月01日 (月)

第2章 ネットいじめ、学校裏サイトのイメージは報道のトーンからつくられる

荻上チキさん

荻上チキ:  まず、学校裏サイトおよび「ネットいじめ」といった現象について、確認していきたいと思います。

学校裏サイトに関する報道は、2006年の末ころからヒートアップしてきました。「専門家」を名乗る特定の人たちが、「今、学校裏サイトというのがあり、子どもたちが人の悪口を書いたり、互いの裸を公開しまくったりしている」という話をして火付け役となり、ある種、ネガティブな現象として定着していったというプロセスがあった。

学校裏サイトというのは、「学校の公式サイトとは別に生徒らが設置したコミュニティサイトのことで、主に生徒複数人が参加し、学校に関連した話題を語り合うサイトのことを否定的に呼称したもの」です。「裏」という言葉がネガティブなイメージを喚起しやすいので、僕はこの本の中では、「学校勝手サイト」という言い方をしております。子どもたちが携帯やインターネットを手にして、学校の帰り道、放課後、休み時間とかに繰り広げるような雑談を延長的に行いたいと思ったときに、学校勝手サイトをつくり、そこで例えば「今日の授業、こんなのだったよね」「お前、好きな人誰なの?」「あいつ、マジ、ウザくね?」「今度○○貸してよ」という、学校の友達とコミュニケーションを行う。

これらの学校勝手サイトに対する一般的なイメージ、そして皆さんも漠然と抱いているイメージは、およそ次のようなものではないのかと思います。それは、2007年に兵庫県で起こったT高校のいじめ自殺事件に象徴されるように、「いじめの温床」だというもの。T高校のケースはもともとハードないじめがあり、その1つの方法としてネットも利用されたという形なのですが、「学校裏サイトの書き込みによって、耐え切れず自殺をした」という焦点化がなされたように、中高生を携帯無法地帯にいざなっている事例として紹介された。こうした、ネットによって初めていじめが発生させられ、発生しやすい環境を提供しているのが「学校裏サイト」であるというイメージです。

こうしたイメージは、プロフサイトに対する語り方とも共通しているものです。プロフサイトというのは、ウェブ上で自己紹介のワンページをつくることができるサービスのことで、子どもたちが自分のことを知ってほしいときに、アドレス交換プラスアルファで伝え合ったりします。

荻上チキさん
有名なプロフサイトのうちの1つを見てみましょう(とサイトにアクセスする)。このサイトは基本的には、誰かから送られてきたURLをたどるとプロフを閲覧できる、という仕方で使われるサービスです。ただ、トップページから検索ができて、フリーワードで例えば、「写メ」と検索すると、写メを掲載している可能性の高いプロフがザクザク出てくるわけですね。上から開いてみましょう。するとこうして、写真つきのプロフィールがダーッとでてきました。そこにはこのように、BBSが用意されていて、そのプロフィールに来てくれた友達同士と交流を行っていると。プロフとはこういうサービスです。 プロフは、基本的に自己紹介を書くだけのサイトなのですが、報道とか親が懸念しているのは、そのことによって個人情報がダダ漏れになってしまうとか、あるいは例えば先ほどのBBSというのは誰でも書き込みができるわけですから、「そういった書き込み帳でエロ目的のおっさんとかが書き込みしたりすると、うちの子ホイホイついていってしまうんじゃないかしら」みたいな心配をしているわけですね。 もちろんそこには若干の誤解、というか誇張気味な懸念も含まれています。「半径ワンクリック」というネットジャーゴンがあるのですが、その言葉に象徴されるように、そしてみなさんもそうであるように、基本的に人は、本当に接点のない他者のサイトはほとんど覗かないわけです。で、そういったサイトで偶然見つけた人の中から援助交際できる相手を求めるたりするよりは、普通に出会い系サイトにいった方が効率がいいというのは、「そういう目的」の人にはよくわかっている話なので(笑)、「プロフ=全世界の人と繋がる=性犯罪の危険!」という連想は、必ずしも実態を映し出しているものではない。 利用者が発信者になることにより、新たな「出会い」の契機になる、あるいはネガティブな情報を発信するリスクは確かに存在します。また、実際にいじめの場面としても利用されている。それらネガティブなケースを分析しつつ、対策を行っていく必要はあるのですが、そのためには冷静に、現状の実態を把握していく作業が求められるわけです。