記事・レポート

福祉がいまできること~横浜市副市長の経験から

ケロッグ大学大学院モーニング・セッション 講師:前田正子

更新日 : 2009年07月09日 (木)

第11章 クレームをつけるだけの消費者市民は、社会的コストを上げる

前田正子 財団法人横浜市国際交流協会 理事長

前田正子: 児童虐待は究極の個人情報にかかわるので、横浜市には4カ所の児童相談所と一時保護所、養護施設がありますが、そこで何が起こっているかということは外に漏れません。ですので、事件事故で報道される以外、注目を集める意味でもここにもっと財源と人を投入することが必要だと思います。

また、ニートやフリーターの支援というのは、2006年度、私が辞める1年前に子ども青少年局というのを設置し、「子育て支援の対象は妊娠期から34歳の後期青年期まで」と定義して、赤ちゃんの乳幼児健診から、34歳、職業的自立を目指すまでということで、包括的に取り組むことにしました。

ニート、フリーター、15歳から34歳の人の失業率は今何%かご存じですか? 横浜市では去年(2007年)の段階で6.9%でした。今、派遣社員などの解雇が始まっていますから、おそらく失業率が上昇するでしょう。働いてもいない、教育機関にも通っていない、いつか正社員になりたいと思いながらアルバイトを繰り返している人は、横浜市全体で15歳から34歳の15.4%、実に約8万8,000人います。

先ほど申し上げたように保育園は声も大きいし、待機児童数も多く、制度化もされていますので、保育関係は年に570億円ぐらい予算があるのです。横浜市の子ども関係の予算は1,400億円ですが、うち500数十億円が保育園関係です。保育園はお金がかかります。

しかし、保育所は非常に重要ですけれども、行っている子どもたちは約3万5,000人です。横浜市は専業主婦比率が圧倒的に高いのです。保育園がないから働けないとか、働かなくていい高額所得者が多いとか、いろいろ相関があるのですが、15%ぐらいの就学前児童の子どもたちが保育園に行っていて、そこに570億円つぎ込まれているのです。それは制度化されており、ちゃんと国が最低基準を決めていることもあり、予算が確保されています。
ニートやフリーター対策は新しく始めたものです。まだ制度化されていません。対象者は当該人口の15.6%、約8万8,000人。しかし、ここに投入されている事業費はわずか1億6,000万です。

このほかに、子どもの分野だけでも放課後児童施策、青少年施策、児童虐待と、新しい社会ニーズがどんどん増えています。
1人暮らしの高齢者問題など、他に新しい社会ニーズはいっぱいありますが、結局、既存の制度を維持するのに精一杯なのです。新しいニーズに応えることができません。ニートやフリーターの子たちですが、アルバイトや派遣は40歳を過ぎたら、もう仕事がありません。それでも失業保険がもらえる人だったらいいのですが、それがもらえない若年者の生活保護受給者も増えています。だから、彼らにとっては貴重な1日1日であり、自立支援事業が必要なのに、その事業費が賄えない、それが今の日本の現状です。

また、いろいろな意味で地域社会が今崩壊しました。何かあると皆さん、行政に様々なことをおっしゃるのですが、「クレームをつけるだけの消費者」という形で市民が行動すると、行政や社会にすごく高いコストがかかるし、みんな生きにくくなるわけです。

まず「自分たちができること、社会に何ができるか」ということをちょっとでも考えてやっていただければと思います。今日はどうもありがとうございました。


該当講座

福祉がいまできること
横浜市副市長の経験から
前田正子 (財団法人横浜市国際交流協会 理事長)

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