記事・レポート

福祉がいまできること~横浜市副市長の経験から

ケロッグ大学大学院モーニング・セッション 講師:前田正子

更新日 : 2009年04月24日 (金)

第7章 国策による社会保障費減らしで地方は崩壊する

前田正子 財団法人横浜市国際交流協会 理事長

前田正子: 生活保護費が高いか低いかは、人の考え方によって違います。参考までに申し上げますと、今、国民年金の満額は6万6,000円です。生活保護費は地域によって基準が違います。都会は高く、田舎は安く設定してあるのですが、東京、横浜などの首都圏では一人暮らしですと月に約8万円もらえます。

ですから、「真面目にコツコツ国民年金を払った人が月に6万6,000円なのに、どうして生活保護の人が8万円なんだ?」ということをすごく言われるのですね。生活保護をもらうと介護保険料も医療費も無料になりますので、「生活保護をもらう方が得だ」という説があるのです。

ちなみに生活保護は働けなくなってもらう方が多いので、高齢者の方が約半数です。高齢者の方は病気も多いですし、若い人でも病気になって働けなくなる人がいます。その人たちに対して生活保護で医療費をカバーしますので、生活保護費の約4割は医療費です。生活保護費で、病気の人の生活費と医療費を払っているわけです。

生活保護は女性の問題でもあります。ご存じの通り、平均寿命は女の人の方が長いので、大体ご主人を看取って奥さんが1人残ります。遺族年金がたっぷりあったり、ご主人の資産があればいいのですが、それがない人や独身で自分の年金しかない人、年金受給権がない女の人もいます。生活保護の問題は私たちの母親の世代の女性の問題でもあります。また、母子家庭が増えているということも言われています。

今、本などで、「日本は生活保護の捕捉率が低くて、実際にもらえる人の2割ぐらいしかもらっていないのではないか。もらえる人は実際には5倍いるんじゃないか」と書かれています。それは国民の選択で、例えば8万円の生活保護費が低いから倍に上げようということになれば、みんながもう1%、消費税を払えばいいのです。(日本全体の生活保護費)2兆6,000億円が5兆2,000億円になるわけです。5倍にするなら、消費税を5%にして生活保護に入れる。それは国民の選択です。

生活保護費は4分の3が国負担、4分の1が地方自治体負担です。そのため、地方自治体と国で熾烈な争いがずっと繰り広げられています。国は「国が4分の3を持っているから、地方自治体が安易な生活保護認定をして生活保護受給者が増えている。だから地方自治体の負担を一気に増やせば、地方自治体は生活保護の認定を厳しくするので、こんなに生活保護は増えない」というキャンペーンを、2、3年前には盛んにやっていました。

そういうことをして、厚生省は北九州という生活保護認定の難しい自治体をモデルケースとして推奨しました。でも、そこで餓死者が出ましたよね。そしたら一遍に手のひらを返したかのように厚生労働省は調査に入りましたが、実はそういうことが繰り広げられていたのです。

今も国は生活保護費の国と地方の負担配分の見直しを虎視眈々と狙っています。それは社会保障費を国がどうしても減らしたいからです。これは、地方につけを回すということです。しかし地方自治体は好き勝手に生活保護の認定をしているわけではありません。当該地域の生活保護率というのは、離婚率、失業率、有効求人倍率、高齢化率などできれいにリグレッションがかけます。相関関係も90%以上あります。

そのため、地方に生活保護費の負担を重くすると何が起こるかというと、仕事がなくて、失業者が多い貧しい自治体が生活保護費を払わなければならなくなるので、自治体は成り立たなくなると思います。今の国のやり方はおかしいと思うのです。


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福祉がいまできること
横浜市副市長の経験から
前田正子 (財団法人横浜市国際交流協会 理事長)

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