記事・レポート
福祉がいまできること~横浜市副市長の経験から
ケロッグ大学大学院モーニング・セッション 講師:前田正子
更新日 : 2009年03月04日
(水)
第2章 どこかにお金を回すには、どこかを削らなければならない
前田正子: 先ほど敬老祝金の話に触れましたが、「優先順位はつけられない」というお話をしたいと思います。
横浜市の福祉関係の予算は増えています。でも、福祉の中で何が最も必要なものか、プライオリティをつけて予算配分していかなければいけないのです。予算は前年より118億円増えて3,700億円になりました(2006年度)。それでもこれは、いろいろな事業を切って、どうしても必要な事業にのみ予算を回すという努力をした結果です。
福祉局の予算が増えたということは、その分、ほかの局の予算は減っているのです。公園整備費や学校教育費など、圧迫されています。公立病院などは赤字が当たり前みたいな感じで、以前は横浜市がたくさん税金を入れていたのですが、それは良くないということで、公立病院にも経営努力をお願いするなど、いろいろなところから持ってきたお金を、1万、100万、1億と集めて福祉予算の伸びを確保したのです。
横浜市では、年に約3万2,000人の子どもが生まれています。今どき3万人も生まれている自治体はほとんどありません。もちろん出生率は低いのですが、横浜市は人口が多いので年に約3万2,000人生まれています。また、今でもどんどんマンションが建っていまして、人口流入も多いのです。
横浜市の副市長をお引き受けした理由は、市長から『横浜市は子どもたくさん生まれているし、若い世帯が多いのに「子育てしにくい」と言われている。だから子どもが健やかに育つように、「子育てするなら横浜で」といわれるように、子ども関係の環境整備をしてください』と言われたからです。
子どものことをやるということは、結局、医療・福祉・教育、全部やることになります。もちろん福祉を担当すれば、高齢者福祉も障害者福祉もやります。医療・福祉・教育委員会、3局担当しましたが、この3つで、市の予算の4割ぐらいを占めます。
「優先順位はつけられない」ということですが、皆さん、「社会保障関係費の7、8割は高齢者向けで、家族関係給付費は3%程度にすぎない」という話をよく耳にされると思います。日本は子ども関係にあまりお金を使っていません。「子どもが生まれないと社会も継続できないのだから、子ども関係にもっとお金を回すべきだ」と、よく言われます。しかし、パイが限られている中で子ども関係にお金を回すということは、どこかを削るわけです。
「高齢者にはとても手厚く、子どもには少ない。しかし高齢者の今後の年金を守るためにも、高齢者を介護するためにも若者が必要だ。若い子たちを世の中で育てていくために、高齢者の方には少し我慢していただいて、子どもに回せばいいのではないか」ということに、皆さん総論では賛成なさるのですが、各論では反対されますね。
実は私が副市長になったときには、横浜市は70歳以上の高齢者の方に、無料の敬老パスをお配りしていました。横浜市営地下鉄とバス——東急バス、京急バス、市営のバスなど、今まで全部無料で乗れたのです。2003年時点で27万人の高齢者の方に、この敬老パスをお配りしていました。
皆さん、これはただ印刷して配っているだけと思っていらっしゃるかもしれませんが、そうではありません。無料で乗られると鉄道事業者もバス事業者も収入になりませんので、代わりに横浜市がバス会社や鉄道会社にお金を払っていたのです。2003年には約27万人の乗車料金として、約82億円、横浜市は支払っておりました。
これには賛否両論あります。「介護保険料を払って介護状態が必要になった人は介護保険を使う。健康な老人は介護保険料を払うだけ払い、全然介護も利用しない。だから他に何かメリットもあっていいんじゃないか。出かけることが自由になれば、高齢者はますます元気になるので、これは必要なサービスである」というような考え方で約82億円を払っていたわけなのです。
ただ、このまま放っておきますとご存知の通り、高齢者はどんどん増えますので、2008年、今年時点で約95億円、2017年には約40万人に給付することになるので120億円ぐらいの市の負担になります。これはとても予算には吸収できないということだけは確かでした。
そこで横浜市は、収入のある方には一部の費用負担をしていただこうということで、もちろん住民税非課税の方は無料ですが、収入に応じて年に2,500円、それから5,000円、年収700万円以上の方には1万5,000円を払ってもらうという提案を2003年にしました。
バスは初乗り210円ですから1回往復して乗ると420円、年に2,500円かかったとしてもお得です。こうすることで総費用約82億円のうち約9.5億円、11%ぐらいを利用者の方に負担していただこうと思ったのですが、大変な数の反対意見が来ました。
横浜市の福祉関係の予算は増えています。でも、福祉の中で何が最も必要なものか、プライオリティをつけて予算配分していかなければいけないのです。予算は前年より118億円増えて3,700億円になりました(2006年度)。それでもこれは、いろいろな事業を切って、どうしても必要な事業にのみ予算を回すという努力をした結果です。
福祉局の予算が増えたということは、その分、ほかの局の予算は減っているのです。公園整備費や学校教育費など、圧迫されています。公立病院などは赤字が当たり前みたいな感じで、以前は横浜市がたくさん税金を入れていたのですが、それは良くないということで、公立病院にも経営努力をお願いするなど、いろいろなところから持ってきたお金を、1万、100万、1億と集めて福祉予算の伸びを確保したのです。
横浜市では、年に約3万2,000人の子どもが生まれています。今どき3万人も生まれている自治体はほとんどありません。もちろん出生率は低いのですが、横浜市は人口が多いので年に約3万2,000人生まれています。また、今でもどんどんマンションが建っていまして、人口流入も多いのです。
横浜市の副市長をお引き受けした理由は、市長から『横浜市は子どもたくさん生まれているし、若い世帯が多いのに「子育てしにくい」と言われている。だから子どもが健やかに育つように、「子育てするなら横浜で」といわれるように、子ども関係の環境整備をしてください』と言われたからです。
子どものことをやるということは、結局、医療・福祉・教育、全部やることになります。もちろん福祉を担当すれば、高齢者福祉も障害者福祉もやります。医療・福祉・教育委員会、3局担当しましたが、この3つで、市の予算の4割ぐらいを占めます。
「優先順位はつけられない」ということですが、皆さん、「社会保障関係費の7、8割は高齢者向けで、家族関係給付費は3%程度にすぎない」という話をよく耳にされると思います。日本は子ども関係にあまりお金を使っていません。「子どもが生まれないと社会も継続できないのだから、子ども関係にもっとお金を回すべきだ」と、よく言われます。しかし、パイが限られている中で子ども関係にお金を回すということは、どこかを削るわけです。
「高齢者にはとても手厚く、子どもには少ない。しかし高齢者の今後の年金を守るためにも、高齢者を介護するためにも若者が必要だ。若い子たちを世の中で育てていくために、高齢者の方には少し我慢していただいて、子どもに回せばいいのではないか」ということに、皆さん総論では賛成なさるのですが、各論では反対されますね。
実は私が副市長になったときには、横浜市は70歳以上の高齢者の方に、無料の敬老パスをお配りしていました。横浜市営地下鉄とバス——東急バス、京急バス、市営のバスなど、今まで全部無料で乗れたのです。2003年時点で27万人の高齢者の方に、この敬老パスをお配りしていました。
皆さん、これはただ印刷して配っているだけと思っていらっしゃるかもしれませんが、そうではありません。無料で乗られると鉄道事業者もバス事業者も収入になりませんので、代わりに横浜市がバス会社や鉄道会社にお金を払っていたのです。2003年には約27万人の乗車料金として、約82億円、横浜市は支払っておりました。
これには賛否両論あります。「介護保険料を払って介護状態が必要になった人は介護保険を使う。健康な老人は介護保険料を払うだけ払い、全然介護も利用しない。だから他に何かメリットもあっていいんじゃないか。出かけることが自由になれば、高齢者はますます元気になるので、これは必要なサービスである」というような考え方で約82億円を払っていたわけなのです。
ただ、このまま放っておきますとご存知の通り、高齢者はどんどん増えますので、2008年、今年時点で約95億円、2017年には約40万人に給付することになるので120億円ぐらいの市の負担になります。これはとても予算には吸収できないということだけは確かでした。
そこで横浜市は、収入のある方には一部の費用負担をしていただこうということで、もちろん住民税非課税の方は無料ですが、収入に応じて年に2,500円、それから5,000円、年収700万円以上の方には1万5,000円を払ってもらうという提案を2003年にしました。
バスは初乗り210円ですから1回往復して乗ると420円、年に2,500円かかったとしてもお得です。こうすることで総費用約82億円のうち約9.5億円、11%ぐらいを利用者の方に負担していただこうと思ったのですが、大変な数の反対意見が来ました。
福祉がいまできること~横浜市副市長の経験から インデックス
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第1章 横浜市が取り組む財政再建
2009年02月18日 (水)
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第2章 どこかにお金を回すには、どこかを削らなければならない
2009年03月04日 (水)
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第3章 行政の仕事は、八方美人は無理
2009年03月11日 (水)
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第4章 議会と行政と市民の関係の変化 ~ハッピーな時代の終焉~
2009年03月18日 (水)
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第5章 マーケットを拡大する方法は、今後の日本市場では通用しない
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2009年04月07日 (火)
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