記事・レポート

福祉がいまできること~横浜市副市長の経験から

ケロッグ大学大学院モーニング・セッション 講師:前田正子

更新日 : 2009年05月15日 (金)

第8章 例えば介護ヘルパーの不足を待遇で改善するとしたら

前田正子 財団法人横浜市国際交流協会 理事長

前田正子: (2006年時点で3,700億円の横浜市の福祉関係費の内訳の中で)児童福祉費がすごく増えています。今日は詳しくはお話できないのですが、私の時代に、まず子育て支援事業本部を設置し、新しく保育園を116カ所つくりました。今、横浜市には、認可保育園が402カ所あります。その後「こども青少年局」もつくられましたが、そこの今年(2008年度)の予算は約1,410億円、一般会計予算の約10%を横浜市は子ども関係に振り分けています。

次に老人福祉費があります。1999年まで高齢者が増えて、1,053億円でした。ところが2000年には570億円に激減しています。何が起こったと思いますか? この教室の中で40歳以上の人は必ず知っていないといけないことです。介護保険がスタートしたのです。40歳以上の皆さんは、給与明細を見たら介護保険料の項目があると思います。

1,053億円分の予算の中から約500億円近い老人介護関係の費用が介護保険会計という特別会計に入ったため、一般会計から抜けて出ていったわけです。介護保険は横浜では2000年にほぼ600億円ぐらいでスタートしました。2006年度で介護保険は会計1,700億円になっています。毎年100億円規模で増えています。介護保険というのは第1号が65歳以上の高齢者、第2号が40歳以上の保険者です。第1号と第2号の保険料で介護保険会計は半分賄っています。残り半分が国と県と市の税金です。

介護保険会計が毎年100億円以上伸びるということは、実は横浜市は何やかやで、毎年20億円ずつ介護保険に入れる税金を増やして確保しないといけないのです。介護保険は増えてもパイは減っています。皆さん、「介護保険の保険料が高いから税金で面倒を見ろ」とおっしゃいますが、私が皆さんに申し上げたいことは、「皆さんが保険料として払うか、税金として払うか、いずれにしても皆さんのポケットは同じです。最終的に市民の負担は同じですよ」ということです。

地方では仕事がない関係で介護ヘルパーの仕事は結構希望者がいますが、首都圏では特別養護老人ホームを開いても、介護ヘルパーが集まらないのでオープンできない、とうい事例まであります。特別養護老人ホームに入りたいという介護の必要な高齢者はいっぱい待っているのですが、働き手がいないので稼働できない状態です。

新聞の社説などには「それはヘルパーさんの処遇が低いからであって、思い切って処遇を上げれば希望者は来る。だから待遇改善すべきだ」とあります。でも、待遇改善するということは介護保険会計の支出が増えるということですので、皆さんの保険料を上げるか、税金の投入額を上げることになります。ということは、皆さんがもっと税金を払うか、ほかの事業を思い切って止めてその予算を介護保険に回すか、それしか選択肢はないわけです。パイは増えていませんから。

そういう状態ですので、結局、甘いことは言えない。何かを諦めて何かをとるしかない。何が必要かということを自分たちが考えなければいけない時代に来ていると思うのです。


該当講座

福祉がいまできること
横浜市副市長の経験から
前田正子 (財団法人横浜市国際交流協会 理事長)

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