記事・レポート
これからの東京~ビジネスと感性が融合する都市像~
更新日 : 2008年02月26日
(火)
第10章 東京の魅力づくりには、歴史をずる賢く使うセンスが必要です
竹中平蔵: 専門家の隈さんに聞いてみたいことがあります。それは、東京にとっての歴史の問題です。私は和歌山の出身。だから、小学校で習った地理は和歌山の地理が中心で、東京の地理ってほとんどわからない。東京の23区、どこに何区があるかと聞かれたら、実は答えられません。
でも、東京をうろうろするようになって、いろいろな歴史があることがわかっておもしろい。しかし、多くの人が東京の歴史を意識していないんですね。
例えば、私が今住んでいる所は中央区ですけれども、聖路加病院の近くの中津藩邸で福沢諭吉が塾を開いていた。その50年前に、全く同じ場所で杉田玄白が解体新書を書いていた。びっくりするわけですよ。こんなエキサイティングなところだったのか、と。しかし、多くの人が東京の歴史を意識していないんですね。歴史のリソースをほとんど開発していない街は珍しい。
東京が新しい世界にキャッチアップしていくなかで、歴史がないがしろにされてきたんですね。団塊の世代がリタイアして、東京の歴史発掘を真面目にやったなら大変なリソースになると思うんです。
江戸時代の本はずいぶん出回ってきて、アカデミーヒルズのライブラリーにもたくさん揃っています。来るたびに興味をもって見ているんですが、歴史発掘に関わるおもしろい仕掛けってできないでしょうか。
隈研吾: 歴史はリソースであると同時にユースフルなもの。歴史を「どう使うか」なんです。日本人はすぐに歴史を「どう守るか」になってしまって「どう使うか」という視点が弱い。
中国・上海の新天地は実に巧く使っています。多くの方が「新天地は古い街並みを残してショッピングセンターにしたんだろう」と思っていますが、実はほとんど新しい建物です。
米倉誠一郎: 違うんですか。昔の租界地跡を使っているのかと思っていました。
隈研吾: 古い建物はほとんど壊されちゃっています。新しい建物を古く見せているんですが、夜行くから、ほとんどわからない。結果的に「歴史のある街」のコンセプトが周りにも広がって、今となってみたら上海の昔の空気を最高に味わえる場所になった。
イギリスのチェルシーも中世の雰囲気が一番残っている街と言われていますが、2割しか中世の建物は残ってません。8割は19世紀のもの。後から中世風につくったんです。
東京も今からでも遅くない。小さなきっかけがあれば、それを膨らましていって歴史をもう1回つくることはできます。
米倉誠一郎: 皇居のあたりも、昔の石垣を復活させたらおもしろいですよね。今、昔風につくりなおせば、来世紀ぐらいには見分けがつかなくなる、苔むしてきて……。
隈研吾: 歴史を見たって、ローマ、ギリシャ、ヨーロッパの街もそうやってつくられてきたんです。そういう歴史観、歴史の「使い方」が日本人はなぜか弱い。
竹中平蔵: 今の話に関連して、東京の地名や町名を見直す運動が起こってもいいんじゃないですか。大臣をやっている時、警護官を連れないと外へ出れない。仕方がないから、高層階から街を眺め、本と照らし合わせながら、歴史のイメージトレーニングしていたんですよ。
例えば、「小伝馬町、馬喰町、どちらも馬が付いているな」と。ここは街道で小伝馬役がいて、まさに馬喰がいたんだろうと推測するわけです。その隣には「旅篭町」があった。今は地名が変わってないけれどね。地名だけ追っても、江戸にきた人がそこで馬を止めて荷を下ろし、旅篭に泊まって、江戸で2~3日仕事をして帰っていくという情景が目に浮かぶわけです。
東京、江戸を新鮮に感じている者には、すごくいいリソースを無駄にしているような気がする。隈さんが言われた建物、それと地名などを通して東京再発見をしていくことも、東京の競争力を高めていく方法じゃないかと……。
米倉誠一郎: ボストンでは高架道路の地下化が始まっています。アメリカ最古の都市づくりはまだ進行形です。日本でも日本橋の上の首都高速道路を地下化しようという構想がスタートしました。日本橋は日本の街道の起点なのに、高速道路とドブ川に挟まれている。それはないでしょう。こうしたところから、東京を復元していく可能性が出てきたことは楽しい。
隈研吾: ただ、高速道路を地下化するだけでは、たぶん良くならないでしょう。歴史を巧く利用するには、かなり「ずる賢いセンス」が必要なんです。中国人はそれがすごくうまい。日本人は厳密なる保存か、それとも壊すか、二者選択になってしまう。もっとずる賢く歴史を使うセンスが必要です。
米倉誠一郎: 「ずる賢いセンス」ですか、いいですねえ。
先ほどの隈さんの「ダメな場所は放っておく知恵」もなるほどなと思いました。東京郊外の古い団地は老齢化と過疎化が進んでますが、国の予算を突っ込んでテコ入れしても、結局、無駄になる。
むしろそのままにしておけば、いずれ若者が「月2万円なら、エレベータなんてなくてもいいよね」と集まりだして、そこでおもしろいムーヴメントが起こって盛り上がるかもしれない。自然に任せる勇気って必要ですね。
一方で、東京の歴史をずる賢く活かして再構築する。やはり街も選択と集中。選択されないところはレッセフェール(※編注:自由放任主義)。そんな割り切りが、日本を、東京を、魅力的にするのかなという気します。
でも、東京をうろうろするようになって、いろいろな歴史があることがわかっておもしろい。しかし、多くの人が東京の歴史を意識していないんですね。
例えば、私が今住んでいる所は中央区ですけれども、聖路加病院の近くの中津藩邸で福沢諭吉が塾を開いていた。その50年前に、全く同じ場所で杉田玄白が解体新書を書いていた。びっくりするわけですよ。こんなエキサイティングなところだったのか、と。しかし、多くの人が東京の歴史を意識していないんですね。歴史のリソースをほとんど開発していない街は珍しい。
東京が新しい世界にキャッチアップしていくなかで、歴史がないがしろにされてきたんですね。団塊の世代がリタイアして、東京の歴史発掘を真面目にやったなら大変なリソースになると思うんです。
江戸時代の本はずいぶん出回ってきて、アカデミーヒルズのライブラリーにもたくさん揃っています。来るたびに興味をもって見ているんですが、歴史発掘に関わるおもしろい仕掛けってできないでしょうか。
隈研吾: 歴史はリソースであると同時にユースフルなもの。歴史を「どう使うか」なんです。日本人はすぐに歴史を「どう守るか」になってしまって「どう使うか」という視点が弱い。
中国・上海の新天地は実に巧く使っています。多くの方が「新天地は古い街並みを残してショッピングセンターにしたんだろう」と思っていますが、実はほとんど新しい建物です。
米倉誠一郎: 違うんですか。昔の租界地跡を使っているのかと思っていました。
隈研吾: 古い建物はほとんど壊されちゃっています。新しい建物を古く見せているんですが、夜行くから、ほとんどわからない。結果的に「歴史のある街」のコンセプトが周りにも広がって、今となってみたら上海の昔の空気を最高に味わえる場所になった。
イギリスのチェルシーも中世の雰囲気が一番残っている街と言われていますが、2割しか中世の建物は残ってません。8割は19世紀のもの。後から中世風につくったんです。
東京も今からでも遅くない。小さなきっかけがあれば、それを膨らましていって歴史をもう1回つくることはできます。
米倉誠一郎: 皇居のあたりも、昔の石垣を復活させたらおもしろいですよね。今、昔風につくりなおせば、来世紀ぐらいには見分けがつかなくなる、苔むしてきて……。
隈研吾: 歴史を見たって、ローマ、ギリシャ、ヨーロッパの街もそうやってつくられてきたんです。そういう歴史観、歴史の「使い方」が日本人はなぜか弱い。
竹中平蔵: 今の話に関連して、東京の地名や町名を見直す運動が起こってもいいんじゃないですか。大臣をやっている時、警護官を連れないと外へ出れない。仕方がないから、高層階から街を眺め、本と照らし合わせながら、歴史のイメージトレーニングしていたんですよ。
例えば、「小伝馬町、馬喰町、どちらも馬が付いているな」と。ここは街道で小伝馬役がいて、まさに馬喰がいたんだろうと推測するわけです。その隣には「旅篭町」があった。今は地名が変わってないけれどね。地名だけ追っても、江戸にきた人がそこで馬を止めて荷を下ろし、旅篭に泊まって、江戸で2~3日仕事をして帰っていくという情景が目に浮かぶわけです。
東京、江戸を新鮮に感じている者には、すごくいいリソースを無駄にしているような気がする。隈さんが言われた建物、それと地名などを通して東京再発見をしていくことも、東京の競争力を高めていく方法じゃないかと……。
米倉誠一郎: ボストンでは高架道路の地下化が始まっています。アメリカ最古の都市づくりはまだ進行形です。日本でも日本橋の上の首都高速道路を地下化しようという構想がスタートしました。日本橋は日本の街道の起点なのに、高速道路とドブ川に挟まれている。それはないでしょう。こうしたところから、東京を復元していく可能性が出てきたことは楽しい。
隈研吾: ただ、高速道路を地下化するだけでは、たぶん良くならないでしょう。歴史を巧く利用するには、かなり「ずる賢いセンス」が必要なんです。中国人はそれがすごくうまい。日本人は厳密なる保存か、それとも壊すか、二者選択になってしまう。もっとずる賢く歴史を使うセンスが必要です。
米倉誠一郎: 「ずる賢いセンス」ですか、いいですねえ。
先ほどの隈さんの「ダメな場所は放っておく知恵」もなるほどなと思いました。東京郊外の古い団地は老齢化と過疎化が進んでますが、国の予算を突っ込んでテコ入れしても、結局、無駄になる。
むしろそのままにしておけば、いずれ若者が「月2万円なら、エレベータなんてなくてもいいよね」と集まりだして、そこでおもしろいムーヴメントが起こって盛り上がるかもしれない。自然に任せる勇気って必要ですね。
一方で、東京の歴史をずる賢く活かして再構築する。やはり街も選択と集中。選択されないところはレッセフェール(※編注:自由放任主義)。そんな割り切りが、日本を、東京を、魅力的にするのかなという気します。
これからの東京~ビジネスと感性が融合する都市像~ インデックス
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第1章:「アジアと欧米のゲートウェイを目指すには、まず、空港の自由化を」
2008年02月06日 (水)
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第2章 「東京はものすごくゆっくりしちゃったな、と感じます」
2008年02月06日 (水)
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第3章 「失われた 10年」より人の気持ちが後退したことが問題
2008年02月06日 (水)
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第4章 中国は現代アートも建築も熱い。しかし、日本は未だに実績主義です
2008年02月08日 (金)
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第5章 「金持ちを貧乏人にしたところで、貧乏人が金持ちになるわけではない」
2008年02月12日 (火)
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第6章 見当違いの格差論が日本や東京の発展を阻む
2008年02月14日 (木)
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第7章 毎朝毎晩350万人が通勤する、こんな都市は世界に類がない
2008年02月18日 (月)
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第8章 毎年青森県分の人口が減る時代、国土政策、都市政策は決定的に変わる
2008年02月20日 (水)
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第9章 米国の知恵は、寂れた場所をしばらく放っておくこと
2008年02月22日 (金)
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第10章 東京の魅力づくりには、歴史をずる賢く使うセンスが必要です
2008年02月26日 (火)
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第11章 経済も都市も「どん底」を見せれば、V字回復する
2008年02月27日 (水)
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第12章 知的リソースが集積し、交流し、結合する都市へ
2008年02月29日 (金)
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第13章 人的交流のゲートウェイを目指すなら、東大の民営化を
2008年03月04日 (火)
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第14章 計画性より偶発的な集積や創発性が都市を変えていく?
2008年03月07日 (金)
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第15章 自由な発想や発展を阻むのは、日本の古い法風土
2008年03月11日 (火)
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第16章 日本を、東京を変えるには根元的な議論が必要
2008年03月14日 (金)
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