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これからの東京~ビジネスと感性が融合する都市像~

更新日 : 2008年02月06日 (水)

第3章 「失われた 10年」より人の気持ちが後退したことが問題

米倉誠一郎
米倉誠一郎: どうも暗い感じになってきましたね(笑)。「これじゃ駄目だ、東京は寝てるぞ、さっさと起きろ」と喝を入れなきゃなりませんね。

竹中平蔵: いや、ほんとに(笑)。実は、連休連休(2005年のゴールデンウィーク)明けにニューヨーク、ワシントンに1週間行ってきました。久しぶりにニューヨークやワシントン郊外をゆっくり観まして、改めて強烈に思ったことがあります。

日本は本当に「失われた10年」だった。この間に、例えばニューヨーク郊外は一新しました。ホワイトプレインズという静かな住宅街にトランプタワーが建っているんですよ。リッツ・カールトンの経営する高級コンドミニマムができているんです。私があちらに住んでいた頃と比べて、不動産価格は3倍になっている。東京の不動産価格は最近上がってきたと言っても、15年前に比べたらはるかに低い。

アメリカの有力大学もすごい勢いで拡充しています。ワシントンのポトマック川を挟んだところにジョージタウン大学が見えるんだけれども15年前の2倍になっている。「国際競争で生きるためには、個人が知的な力をつけなければいけない」と、みんなが本気で思っているから、有力大学がものすごく拡充しているんです。

隈さんが「日本はスピードが遅い」と指摘されましたが、やはりエキスパンション(拡張、拡大)が必要なんですよ。私たちは「失われた10年」の間、エキスパンドできなかった。その間に世界の都市がぐんぐん伸びている。私たちがこの10年で失ったものは本当に大きかった。この代償は間違いなく私たちの肩にかかってきているんですね。

ワシントンでもう1つ、おもしろい議論があるんです。

皆さんご存知ですか。今、アメリカの経常収支赤字はプラザ合意後の一番ひどかった時の2倍近くです。それは何を意味するか。アメリカに対する投資がさらに増加しているということなんです。なぜかといえば、「アメリカはさらに成長するだろう」と期待があるからです。「ワシントンもニューヨークの郊外も、そしてラスベガスもさらに伸びるだろう、拡大するだろう」と皆が思っている。

日本は今、大きく伸びる可能性を持っています。東京は安全で魅力的な街です。今、そのチャンスを生かす貪欲さや熱意が求められているんだと私は思います。

米倉誠一郎: 失われた10年の一番の問題は日本人の気持ちが後退したことですね。「まあいいか」とか「こんなものだよね」とかね。

僕も3月末に上海郊外の復旦大学に行ったんですが、10年前とは比べものにならないくらい拡大しています。清華大学もそうです。大学にあれだけ投資をしているのは怖いなとさえ思います。21世紀の最大の武器は知識ですから。そういう点では、アメリカのハーバード大学もものすごい勢いで拡充しています。気持ちが前に向いてますよね。

竹中平蔵: ただ、「ものは考えよう」という面もあります。私は一住民として、この5年ぐらいの間に東京という街がすごく良くなったなという印象を持っているんです。以前はどんどん外延化して住みにくかったけれど、例えば、六本木ヒルズのような街ができて、都心部にも心豊かに暮らせる空間が増えた。美術、芸術、アートを楽しむ空間が増えた。

あえて言えば、80年までは日本もエキスパンド(膨張する、発展する)していました。しかし、幸か不幸か、その後に「失われた10年」があった。しかし、鎖国時代の日本のようにエキスパンドできないなかで成熟したライフスタイル、成熟した文化を形成できたんじゃないか。あの10年、15年が結果的に東京の魅力を高めた面はあったと思うんです。その成熟した魅力をベースに、さらに今、エキスパンドする潜在的なエネルギーをこの街は持っている。

だからこそ、私は安倍内閣に「ゲートウェイ国家構想をやりましょう。オープンスカイをやるべきです」と言ってきたわけです。ここはあきらめないで、成熟とか、安らぎとか、この10年間に内部に蓄積したパワーや魅力を使っていくべきではないでしょうか。

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