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『ケロッグ大学大学院 モーニング・セッション「異能の時代~ダイバーシティを活かした価値創造のマネジメント」』

BIZセミナーマーケティング・PR
更新日 : 2008年08月01日 (金)

第7章 なぜ高品質・低価格に商品でも売れないのか

星野朝子さん

星野朝子: 最後にダイバーシティマインドです。これが本日のメインのテーマになります。

当時、一つひとつのファンクションについて細かく提案していても切りがないので、「結局はマインドの話でしょう」と結論づけました。マインドを定着させることができれば、CFT(クロス・ファンクショナル・チーム)自体を解消することができるのではないかと期待して、マインド改革に乗り出しました。

これから、「ダイバーシティマインドの定着」をどのようにチャレンジしていったのかを、少しお話ししたいと思います。

ちょっとアカデミックになります。マーケティングは今「共感マーケティングの時代」と言われています。商品がよければ売れる、マーケがよければ売れるという時代は終わっています。「品質が一番いいのに売れない」「一番安いのに売れない」「CMがよくても売れない」「売る気があっても売れない」、今はこんなのは当たり前の時代なのです。

商品はなぜ売れないのでしょうか。答えは簡単で「お客さんが欲しくないから」なのです。じゃあ、なぜ欲しくないのかという理由を、我々は分かっているでしょうか。これが結構分からないのです。「品質はいいし、こんな価格で一生懸命つくって、耐久性だって抜群だし、売る気満々なのに、なんで欲しがらない?」。それは「客が悪い」「客が分かっていない」とそう思う人もいるわけで、商品をつくるとき、「なぜ、欲しくないのか」に共感できるかどうかというのは、ものすごく難しいテーマです。

日産にはいろいろな意思決定会議なるものがありますが、入ったばかりのとき、いきなりいろいろな意思決定会議のメンバーにアサイン(任命)されました。ゴーン氏が「クレイジーだ」と言った通り、どこへ行っても全員男性でした。

従って、私が女性の代表みたいに思われるのですね。小さい車とか女性をターゲットにしたような車のプロジェクト担当者が、「こんなコンセプトでやりたいと思います、ご承認ください」というときに、私を見ながら「ご承認ください」と言うわけです。何というか、「女性がターゲットだと俺たちにはわからないから、ちょっと星野さんに聞いてみて」みたいで、私は「男性の皆さん、女性を理解することを諦めちゃだめですよ」と思いながら見ていました。

そうかと思えば、ある提案で、「こういう装備をつくりたい。絶対、毎日スーパーマーケットに車で行くような、そういう主婦には受け入れられます」と言われたときのこと。私は市場情報室所属なので、個人的な趣味とか好みではなく、意思決定会議では情報をベースにした発言しかしないようにしていたのです。しかし、それだけは感性として許しがたいような提案だったんですよ(笑)。

主婦の感性として、これはデータがないけれど言わざるを得ないと思って、「すみませんけれど、これ、こんなこと、主婦しませんよね?」と言って、会議場を見渡したら、皆さん目を伏せるんです。「ああそうか、彼らはきっとスーパーに、こういう小さい車で買い物に行ったことなどないのかも知れないな」と思いまして、そのときも強く、「これはもう女性の意思決定者を、とにかく増やさないといかん」と思ったのです。ちょっとこれは余談です。