記事・レポート

今こそ読みたい『古くて新しい記事』

~ストックされた知識から学ぶということ~

更新日 : 2020年11月16日 (月)

『古くて新しい記事』2013



  
過去の書籍、映画、音楽ライブ、演劇など、これまでにストックされてきた素晴らしいコンテンツの数々がいま再び脚光を浴びています。コンテンツを一過性で消費して終わりではなく、過ぎた時間と照らし合わせることによって気づきを得られることもある、と私たちは考えます。
 
この企画では、アカデミーヒルズでストックされているイベントレポート「古くて新しい」記事をピックアップしてお届けしてまいります。私たちは過去の登壇者のお話から今、何を学べるのか?
自分を内省する時間の糧として、今でも新たな発見やヒントが散りばめられている過去の記事を読み直してみませんか。

 2013年 はどんな年?

この年の日本の大ニュースは、2020年夏季五輪・パラリンピックの開催地が東京に決まったことではないでしょうか。2013年9月、ブエノスアイレスで開かれた国際オリンピック委員会(IOC)総会で、東京がマドリード、イスタンブールを破り、1964年以来56年ぶりの夏季五輪開催にこぎつけたのです。東日本大震災で被災した東京電力福島第一原発の放射能汚染水の貯蔵タンクの水漏れが海に流出したことが取り沙汰されていましたが、当時の安倍晋三首相は「状況はコントロール下にある」と不安の払しょくに努め、「お・も・て・な・し」を始めとしたジャパンチームのプレゼンテーションで勝ち取った快挙。まさか東京五輪が2020年に開催できないとは、当時、誰も予想できませんでした。
 
2013年は「金融緩和」、「財政出動」「成長戦略」の「三本の矢」から成る安倍政権の経済政策「アベノミクス」が始動し、景気回復ムードが高まり、2020年夏季オリンピックの開催決定のニュースとあいまって、日本は明るい空気に包まれました。

海外では、不安定な国際情勢が浮き彫りに。民主化運動「アラブの春」を受けて誕生したエジプトのモルシ政権が軍による事実上のクーデターで崩壊。シリアの内戦も激化するなど、中東の民主化への道のりは平たんではないことが突き付けられました。
 
 2013年 ピックアップ記事
 
この年にアカデミーヒルズのサイトに掲載された記事は、2011年から毎年開催している「自分にとっての『アート』とは何か?」を、感じ・考え、こだわりのあるライフスタイルを確立する1DAYイベント「六本木アートカレッジ」からの講演録が多数ありました。
2012年秋と2013年春にそれぞれ1,000名規模の1DAYイベントが開催され、作家の石田衣良さん、女優の鶴田真由さん、写真家の篠山紀信さんなど、華やかな登壇者が楽しいトークを繰り広げ、六本木ヒルズは多くの人で賑わいました。

今回のピックアップ記事では、春と秋2つの六本木アートカレッジ1DAYイベントから「言葉」「コミュニケーション」「文章」について語られている講演録に注目しました。具体的には、ファッションジャーナリストの生駒芳子さんと作家の大宮エリーさんのトーク、『暮らしの手帖』の松浦弥太郎さんの講演、ファッションデザイナーの丸山敬太さんの講演です。
また、国連やODA(政府開発援助)で途上国支援に携わった経験から、新たな地球貢献のあり方を模索する2人の若き起業家のトークや、以前からライブラリーイベントで講師を務めて下さっている三谷宏治さんが著書『経営戦略の100年』出版を機に行った講演の記事をピックアップしました。
 
当時を振り返って改めて新しくコメントを下さったのは、最貧国にテクノロジーを届けるコペルニクの中村俊裕さんです!
 

2人の起業家に学ぶブレークスルーを生み出す力
個人の想いとつながりから始まる21世紀の地球貢献
【登壇者】
中村俊裕[米国NPOコペルニク共同創業者・CEO]
大澤亮[㈱Piece to Peace代表]
石倉洋子[慶應義塾大学大学院教授]
【連載開始】2013年6月



社会貢献や途上国支援は従来、国連やODA(政府開発援助)の範疇と考えられてきました。しかし、NGOやNPOの活動だけでなく、社会問題をビジネスで解決するソーシャルビジネスやエシカル消費、クラウドファンディングなど、多様な仕組みが出てきています。国連やODAの現場を経験したからこそ、既存の枠組みを抜け出し、ソーシャルビジネスの先駆けとして新たな仕組みを模索し、奔走していた起業家の中村俊裕さんと大澤亮さんの講演レポートです。
以前、国連で働いていた中村さんは、アフリカ・シエラレオネに赴任したとき、誰よりも支援を必要としているラストマイル(最貧困地域)に支援が届いていないことを目の当たりにし、衝撃を受けます。その経験は、末端にいる最貧困層の人々の生活を直接的に改善するために、ラストマイルに貢献できるテクノロジーを届ける事業を展開するコペルニクの設立に至りました。
 
一方で、商社に勤務していた当時タンザニアに赴任していた大澤さんはODAを担当していましたが、税金を原資としているにもかかわらず、日本で多くの人がODAに無関心だったことに衝撃を受けます。個人がもっと世界の課題に関心を持ち、自らの意思で関われるような新たな仕組みが必要だと考え、ODAでは実現できなかった消費者が好きなものを選ぶことを通じて地球に貢献する機会を提供するビジネスを始めたのです。
お二人が既存の枠組みを疑い、そこからブレークスルーを生み出したプロセスを知ると、現在、価値観が大きく変化する社会で自分に何ができるのかを考えたくなります。

2人の起業家に学ぶブレークスルーを生み出す力(記事全文はこちら)
 

中村俊裕さんからコメントをいただきました。

2020年8月にIMF(国際通貨基金)は、新型コロナの影響で過去7-10年の途上国での発展が白紙に帰ってしまうと警告を発しました。グローバル・アジェンダ・シリーズに石倉さん、そして大澤さんと登壇させていただいたのが2013年ですが、それ以降に起こった発展がすべてなくなる可能性があるということで、これは途上国にとっても、途上国を支援してきた国や団体にとっても非常に重大な影響です。

実際、コペルニクが今年5月にインドネシアのバリ島で行った簡易調査では、8割以上の世帯が既にコロナの経済的影響を受けており、そのうち44%の世帯が職を失ったことが分かりました。調査した世帯で平均56%の収入減があり、その結果ほとんどの世帯の生活が貧困ラインを下回るという変化が出ています。新型コロナの負の影響は、私の住むインドネシアでも肌で感じられるほどリアルになっています。

サプライチェーンなどの国際依存が経済に大きな影響を及ぼす中、孤立主義に向かう国も出てきていますが、こういった時こそ国際協調が必要です。コペルニクとしては、2013年のセミナーの最後に言及したように、「何をしたらどのような効果が出るのか」というフィールドレベルでの検証を今後も続けていくことで、世界での貧困問題、不平等の問題の解決に向けて引き続き邁進していきたいと思っています。

 

ファッションから始まるコミュニケーション
丸山敬太が語る、心を満たす服のつくり方
【登壇者】丸山敬太[KEITA MARUYAMA デザイナー]
【連載開始】2013年8月



 1997年のパリ・コレクションデビュー以来、世界の第一線で活躍するファッションデザイナー・丸山敬太さん。服を創るクリエーションと身にまとう人とのコミュニケーション、そしてファッションを通じてどう世界観を発信していこうとされているのか、をお話いただいています。
ファッションデザイナーが100人いれば100通りの方法があるというクリエーションのプロセス。まずそのシーズンの「気分」から探り、誰が、どんなときに、どんな気分で、どんなふうに着たいのか。着る人と会話をするようにデザインを発想していく、という極めてオリジナルのプロセスを披露する中で会場が「KEITA MARUYAMA」ワールドに染まっていきます。
「人生には大切な服、使い捨てではない『心を満たす服』が必要。身にまとうだけで特別な感覚になり、ハッピーな気持ちになる服。誰かの大切な日や大切な想い出に寄り添い、その人を勇気づけ、心を満たすような服。」コロナ禍でファッションが大きく変わる中、改めて自分が着たい服について考えさせられます。
 

ときには裏切られたり、人を傷つけたりもする。それでも、私は信じたい。
大宮エリー的『言葉の力』
【登壇者】大宮エリー[作家/脚本家/映画監督/演出家/CMディレクター/CMプランナー]
     生駒芳子[ファッションジャーナリスト]
【連載開始】2013年1月


 
人々の活動がオンライン化した今ほど、「言葉の力」を必要とする時代はないのではないでしょうか。
コピーライター、作家、映画監督など多方面で活躍されている大宮エリーさんは、ご自分が「コミュニケーション下手」だからこそ、それを乗り越えるために考えていることを作品にする、と語ります。そんな大宮さんが考えるアート、そして言葉が持つ力についてのお話は元気をくれます。夕日をみんなで見たときに、心に浮かぶストーリーが1人1人違うように、アートは受け手がそれぞれの解釈で自分だけのストーリーを抱くもの、という言葉に、人生の多様さがアートの見方に反映されることに気づきます。
「気持ちは伝えないと『なかったこと』になってしまう。」「悪気がなくても、傷つけることもあるし、伝えない方がいい思いもある。でも、その思いが人間を成長させたりするから尊重したい。」「拙い一言が人の人生を変えたりする。」大宮さんが講演で発した言葉は、いま誰かに伝えたい言葉を考えるときに示唆をくれるでしょう。
 
ときには裏切られたり、人を傷つけたりもする。それでも、私は信じたい。(記事全文はこちら)


『暮しの手帖』の暮らしと仕事編集長・松浦弥太郎が「文章術」を初公開!
【登壇者】松浦弥太郎[『暮しの手帖』編集長/文筆家/書店店主]
【連載開始】2013年9月



 ささやかなことでも、小さな「うれしさ」がたくさんある毎日を過ごし、日々のちょっとした工夫と発見が、毎日を少し豊かにする --- そんな「毎日を丁寧に生きる」ためのヒントを『暮らしの手帖』などを通じて紹介してきた松浦弥太郎さん。冒頭で「何か質問はありませんか?」と客席に呼びかけ、「『暮らしの手帖』をつくるにあたってポイントにしていることは何か?」という質問を受けるところから講演がスタートするという異例の展開で、松浦さんの人柄が伝わってきます。
 
手紙が大好きで日々文章と向き合う松浦さんが伝授する文章を書くコツは、単なるスキルではなく、本当の情報とは何かを問い直すものです。限られた時間の取り合いとなる現代において、人に時間を取って読んでもらいたいのであれば、どうするべきなのかが述べられています。どこかで読んだりした情報ではなく、必ず「今日発見した嬉しいこと」など「自分だけが知っている、自分だけの実体験」に基づいた本当の情報を入れること。「他人に与えることができるものは何か」という視点を常に持つこと。
ネット上の誹謗中傷やフェイクニュースの拡散が社会問題化する現代において、投稿する前に一人一人がこの視点を持つことが大切なのではないか、と考えさせられます。
 

三谷宏治が語る、経営戦略の100年
経営の本質はつながりとストーリーから見えてくる 
【登壇者】三谷宏治[K.I.T.虎ノ門大学院 教授]
【連載開始】2013年8月



アカデミーヒルズで以前から講師を務めて下さっている三谷宏治さんが、経営戦略の100年の歴史を1冊にまとめた『経営戦略全史』の出版を機に、「経営戦略とは何か」という本質に迫った講演のレポート。過去の経営論、経営戦略を振返り、その戦略論が誕生した時代背景、理由を探ることで、現代まで続く繋がりを多くの人に知ってもらい、理解を促したいという想いが伝わる講演です。
 
まず、企業活動に「科学」を持ち込んだフレデリック・テイラー、「人間性」を持込んだエルトン・メイヨー、そして「統制」という概念を持ち込んだアンリ・フェイヨル、という3つの源流を解説。
 
その後、1929年の「ブラック・サーズデイ」に端を発した世界恐慌の経験から分かったのは、いくら「科学」「人間性」「統制」をもって経営に臨んでも「外部環境」の変化ですべてが吹き飛んでしまう、ということでした。そこで、外部環境の変化にも負けないために経営者が果たす役割の重要性を唱えたチェスター・バーナードの経営論が登場。組織に必要なのは「共通の目的」「貢献意欲」「コミュニケーション」という3つの要素を示し、特に「共通の目的」を軍事用語であった「ストラテジー(戦略)」と表現したことで経営戦略論が生まれ、発展していったことを丁寧に紐解いていきます。
三谷さんのお話は、2020年現在、企業が直面する危機をどう乗り越えるのかのヒントをくれそうです。
  
三谷宏治が語る、経営戦略の100年(記事全文はこちら)

 
※記載されている肩書は当時のものです。


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