記事・レポート

今こそ読みたい『古くて新しい記事』

~ストックされた知識から学ぶということ~

更新日 : 2021年01月15日 (金)

『古くて新しい記事』2015



  
過去の書籍、映画、音楽ライブ、演劇など、これまでにストックされてきた素晴らしいコンテンツの数々がいま再び脚光を浴びています。コンテンツを一過性で消費して終わりではなく、過ぎた時間と照らし合わせることによって気づきを得られることもある、と私たちは考えます。
 
この企画では、アカデミーヒルズでストックされているイベントレポート「古くて新しい」記事をピックアップしてお届けしてまいります。私たちは過去の登壇者のお話から今、何を学べるのか?
自分を内省する時間の糧として、今でも新たな発見やヒントが散りばめられている過去の記事を読み直してみませんか。

 2015年 はどんな年?

2015年は国内、海外ともに安全保障について考えさせられる年でした。国内では、「憲法違反」だという意見があるなかで、自衛隊の海外における武力行使を可能にし、米軍への後方支援を拡大するなどが柱となる安全保障関連法が9月に成立し、日本の安全保障政策が大きく転換しました。海外では11月にパリで起きた同時多発テロを始め、IS(イスラム国)による犯行が相次ぎ、シリアで邦人2名も犠牲になるなど、世界を震撼させました。
 
国内ではダイバーシティへの認識が高まり、多様性に関する異なるニュースが注目を集めました。1つは同性カップルを「パートナー」として認める制度が渋谷区と世田谷区でスタートし、性的マイノリティへの偏見をなくす意識を持とうという機運が高まりました。もう1つは、結婚の際に夫婦別姓を認めず、同姓にすることを義務付けている民法の規定が憲法に違反するかどうかが争われた訴訟で、夫婦同姓を「合憲」と判断した最高裁の判決。今日も選択的夫婦別姓制度の議論は膠着状態です。
 
明るいニュースをもたらしたのは、ラグビーワールドカップにおいて日本が南アフリカを破る歴史的な勝利をあげたことです。世界が驚愕した日本の大金星は、国内においてラグビーが注目されるようになるきっかけとなりました。
また、2015年は気候変動に関する国際的な枠組みで大きな動きがありました。それが、途上国も含めた2020年以降の全世界の温室効果ガス削減について定めた、国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で採択された「パリ協定」。米国はトランプ大統領の決断によって2020年11月に正式に協定から離脱しましたが、バイデン氏が大統領に就任した後の動向に注目が集まっています。

 2015年 ピックアップ記事

2015年は、注目されるIT起業家の方々がアカデミーヒルズのイベントに登壇して下さいました。今や多くの人に使われるインフラともなっているメルカリの山田進太郎さんを始め、ヤフーの川邊健太郎さんら、現在日本のIT業界をリードしている経営者たちが語るビジネスの原点や未来を捉える力を、いま振り返ることで改めて彼らの先見の明に触れることができます。
 
また、以前から企業で大きく注目を集めていた、働く人々のメンタルヘルスについての問題を取り上げた渡部卓さんの講演は、早朝のセッションにも関わらず多くの人たちが参加しました。企業の担当者や自分自身のストレスマネジメントに関心のある人たちからの反響が高く、現在に続く「ウェルネス」や「マインドフルネス」への関心の高さに繋がるものと思われます。
 
視点を世界に転じる講演録も2本ご紹介します。「難民」や「食」などの世界規模の課題は、益々問題が大きくなるばかりです。遠い話のようで実は自分たちに身近な問題について想像力を働かせるきっかけとなります。
 
今回は、渡部卓さんがコロナ禍でのメンタルヘルスの問題にも触れ、新しくコメントをお寄せくださいました。
 

折れない心をつくる
メガストレス時代のメンタルタフネス術:渡部卓
~ケロッグ経営大学院 モーニング・セッションより
【登壇者】
渡部卓[帝京平成大学現代ライフ学部 教授 / 株式会社ライフバランスマネジメント研究所 代表取締役]
【連載開始】2015年1月



大企業からベンチャー、官庁まで多岐に渡る職場環境の改善に向けてアドバイスをしてきた渡部さんがストレスにさらされるビジネスパーソンについて多角的にお話いただいたときの記事です。ストレスが起こるメカニズムから、心が折れやすい人が持つ傾向、上司や企業の対処法や効果的なコミュニケーション法、そして個人が日常的に取り入れることができる呼吸法や瞑想まで、あらゆる立場の人に立って丁寧に解説して下さっています。
 
コロナ禍のいま、より一層、ウェルネスやマインドフルネス、そして瞑想に注目が集まる中で、心身の不調をきたす前に予防することまで含めてお話いただいた内容は、呼吸法など自宅でできることも紹介されており、多くの在宅ワーカーにも参考にして頂けることでしょう。
「ストレス」という言葉を最初に使った日本人として紹介される夏目漱石が、生涯に渡って神経衰弱に悩まされ、英国留学時はうつ病に倒れていたというお話、そして漱石が取った心の病への対処法も、「古くて新しい」発見をくれます。
 


渡部卓さんからコメントを頂きました。

2015年の頃と現在までで変わらないと思うことは、日本の組織の上層部に根強い昭和の価値観です。政府が「女性が輝ける」社会を喧伝しても「ジェンダー・ギャップ指数」世界ランキングで日本はこの5年で20も落とし121位なのです。私は中国、アジアでもリーダーシップ研修を何度もやっていますが、受講者の半数は女性やマイノリティです。日本企業や官公庁の研修では全員男性のこともあります。働く人の上位のストレス源が上司であることもこの5年は不変なことも頷けます。
ただストレスチェックやパワハラ防止、働き方改革がこの5年の間で法制化され、LGBT対策までもが含まれた事などは評価すべきです。企業も反応して、その関連対策での講演は定番必須となり多く実施されました。この5年にマインドフルネス、傾聴、コーチングやアンガーマネジメントなどの研修の需要もたかまりました。
しかし2020年になりコロナ禍にからむ異質なストレスやうつ、ハラスメントが多く発生しています。若手層、女性の自殺が特に危険な増加率で推移しています。ただコロナ禍からは新たな価値創造も生まれました。オンラインでの仕事、会議、自己実現、キャリアメイク、また講義やコーチングなど能力開発でも高い生産性や満足度が示されています。
ただこの新しい対応への個人と組織レベルでの二極化も進むはずです。たとえばコロナ終息後でのオンラインや在宅勤務への取り組みです。以前の働き方に戻す動きも多く存在します。このことへの影響と対策の考察に私は注目しています。



語る、つなぐ ~記憶のアンテナにふれるとき~
生と死の間(あわい)にあるもの いとうせいこう×能楽師・安田登
【登壇者】
いとうせいこう[作家・クリエイター]
安田登[能楽師 ワキ方 下掛宝生流]
【連載開始】2015年10月



「能」は650年以上の歴史を持つ日本の伝統芸能ですが、能の舞台を観賞したことがある人はそれほど多くはいないのではないでしょうか。「能」では、旅人である「ワキ」が亡霊や精霊の「シテ」との掛け合いで展開し、生者と死者が同じ時間を共有する独特な世界が広がります。
 
能楽師の安田登さんと、安田さんに能の謡い(うたい)を習っているという作家のいとうせいこうさんのお二人が「能」を通じて、死者や精霊などの異世界とコンタクトできる生死の間にある「ワキ」という概念、秩序の無い「能」の音楽と西洋音楽の比較、過去・現在・未来が共存する独特な時間の観念、文字によって思考を固定化してしまう文字が持つ特性など --- 現代の私たちの日常からは想像もつかない、得ることができない感覚について語り合います。
 
お二人の話を追っていくと、あらゆることを論理で明快に「分かりやすく」することが求められる現代に、「能」の世界は全く異なる視点を与えてくれることに気づきます。自分の視点を180度転換してみたいときに、ぜひ読んで頂きたい講演録です。
  

国連(UNHCR)が挑む難民支援の仕事
アカデミーヒルズ サマースクール 夢中になれることを見つけよう
【登壇者】
守屋由紀[国連難民高等弁務官・駐日事務所広報官]
【連載開始】2015年7月


 
森ビルが毎年子どもたちを対象に開催しているサマースクール。2015年はアカデミーヒルズでも子どもたちを対象に講座を開催しました。
 
スポーツ選手やデザイナーなど、多岐に渡る職業の方と共に講師をしていただいたのが、世界の難民を保護し、支援する国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)で働く守屋由紀さんです。国連の仕事というと、子どもたちの「なりたい職業」ランキングに入ることはあまりないと感じるかもしれませんが、多くの子どもたちが参加し、関心が高いことが分かりました。

難民という普段聞きなれない言葉も、難民が発生する理由を自分や家族という身近な例と結び付けていくことで、「自分ごと」として考えさせていく守屋さんのお話に、食い入るように聞き入る子どもたち。もちろん、大人が聞いても分かりやすい内容で、難民キャンプでの過酷な生活や、難民支援の現場について知ることができます。
「やむを得ず故郷を追われるときに何を持って行くか?」という守屋さんからの最後の問い。皆さんは何と答えますか?子どもたちの回答、守屋さんが日本で講演する際に問いかけて得られる回答、そしてシリア難民の人たちの回答を通じて、国や文化が異なっても人間として大切なものは同じなんだ、ということに気づかされます。
 
国連(UNHCR)が挑む難民支援の仕事(記事全文はこちら)

Incubation Hub Conference グローバル・イノベーターの条件
オープンイノベーションが新たな未来を創る
【登壇者】
小田島伸至[ソニー株式会社 新規事業創出部 専任部長]
川邊健太郎[ヤフー株式会社 取締役副社長 COO 常務執行役員]
田中章愛[ソニー株式会社 新規事業創出部 IE企画推進チーム エンジニア]
山田進太郎[株式会社メルカリ 代表取締役社長]
モデレーター:松本真尚 [株式会社WiL 共同創業者ジェネラパートナー]
【連載開始】2015年6月



2014年6月にオープンした虎ノ門ヒルズで同年秋にスタートしたシリーズ「Incubation Hub Conference」は、「新しいビジネスを創造する」をコンセプトに掲げ、イベントを開催してきました。
記念すべき第1回は、「世界で勝てるベンチャー」をテーマにメルカリの山田進太郎さんや当時ヤフーの執行役員だった川邊健太郎さんなどの起業家たち、そして、かつてのベンチャーであり、現在は大手企業となったソニーにおいて、オープンイノベーションで新規事業の創出を目指すプログラム「Sony Seeds Acceleration Program(SAP)」を立ち上げた小田島伸至さんらが議論を展開しました。
 
特に注目したいのが、いまや社会的インフラとなったメルカリを起業した山田さんのビジネス立ち上げの原点となったお話です。2004年に米国に移住することが決まり、飲食業に興味があった当時にアメリカでレストランを展開しようとしていた矢先。自分が本当にやりたかったことは「何千万人、何億人に使われるサービスをつくることだ!」と気づき、その後のメルカリ立ち上げへと続くメルカリ誕生秘話や、C2Cサービスを選んだ理由のお話は山田さんの原動力を知る上で貴重です。
また、インターネットビジネスの過去、現在、未来を川邊さんが語るところは、これまでの発展とこれからを俯瞰して見る視点、未来を見通す視点が参考になります。

そして圧巻は、ベンチャーへの理解者を日本で増やすために必要なことに関する登壇者のコメント。環境に依存するのではなく、いま自分ができることを最大限やるというスピリッツに溢れ、勇気をくれます。
 

VISIONARY INSTITUTE
「地球食」の未来を読み解く 地球と人類との“共進化”に向けて:竹村真一 
【登壇者】
竹村真一[京都造形芸術大学教授 / Earth Literacy Program代表]
モデレーター:薄羽美江[株式会社エムシープランニング代表取締役 / 一般社団法人三世代生活文化研究所理事]
【連載開始】2015年3月



日々の日常を生きている私たちが地球の視点に立って考えることは容易ではありません。しかし、文化人類学者の竹村真一さんが会場に持ち込んだ世界初の「触れるデジタル地球儀」を使うと、リアルタイムで世界の気象情報や船舶の動き、都市人口の変化や温暖化によるシミュレーションなど、あらゆる事象が可視化されます。
 
その地球儀を使って竹村さんがお話した内容は、まさに地球視点。台風や洪水、地震や火山などの災害は、そのときは甚大な被害をそのエリアにもたらすけれども、地球全体で見ると、災いは被害だけではなく、その後に自然が循環するための豊かな恵みをもたらしてくれるものなのだといいます。
しかし、農業や牧畜、漁業などの人間が自分たちの食料を確保するための活動は自然の循環を壊す「バッドデザイン」であり、地球の自然が本来もつ、生態系を通じた優れた再生産能力を破壊していると主張します。
 
「触れるデジタル地球儀」では、大気汚染やオゾン層の破壊による影響も可視化され、オゾン層の破壊された場所は地球が赤く見えることで五感を通じてリアルにその危機を感じとることができます。
人間が地球を破壊していることが、このように可視化されると、未来を悲観したくなってしまうかもしれません。しかし、竹村さんは今のテクノロジーをもってしても、人間は未熟な存在だといいます。人間が自分たちのために使っているエネルギー効率は低く、無駄も多い。裏を返せば、人間が地球を良くするための「伸びしろ」が、まだまだあるとポジティブです。地球の視点で自分にできることは何かを考える一歩となる講演録です。
 
「地球食」の未来を読み解く:地球と人類の"共進化"に向けて(記事全文はこちら)

 
※記載されている肩書は当時のものです。


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