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aiaiのなんか気になる社会のこと
【第1回】ドラッカー曰く「世界最古のNPOは日本のお寺?!」
更新日 : 2024年07月23日
(火)
【第1回】ドラッカー曰く「世界最古のNPOは日本のお寺?!」
こんにちは、はじめまして。aiaiと申します。とつぜんですが、今月から新連載を担当します。昨今何かにつけて「社会課題」という言葉を耳にしますが、みなさんは何を思い浮かべるでしょう? 気候変動、教育、格差や差別、少子高齢化、過疎、自然災害、感染症などなど、すべて社会課題には違いないのですが、こうやって大きく分類するとなんだか「自分にとって遠い…」と感じませんか。この連載では、「社会課題」よりもっと手前の「ちょっと気になる社会のこと」に目を向けながら、一市民としての視点や選択肢を少しずつ増やしていこう、というささやかな「野望」をもってみなさんとつながりたいと思っています。
先に進む前に、aiaiっていったい何者?という疑問にお答えしておきますね。昭和生まれ、大阪育ちの編集者です。出版社でノンフィクション系の書籍を多く手がけ、直近ではスタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版という媒体の編集長をやっていました。現在は同志社大学ソーシャルイノベーションコースで教えながら、東京と京都の1.5拠点生活をしています。
大学で担当している授業のひとつがNPO論なのですが、世界最古の非営利組織は日本で生まれたという説があります。ピーター・ドラッカーさんが『非営利組織の経営』のまえがきで、日本には「寺」というNPOが古くから存在してきたと書いています。たしかにお寺には自治があり、ネットワークがあり、独自の資金源があり、街づくり、社会福祉、インフラ整備などの主体となっていました。ヨーロッパでも古くから教会や修道会が病院や救貧院を運営していたので、日本が最古というのはドラッカーさんの日本人読者へのサービスかもしれません。
お寺の社会的活動の始祖的な存在は、奈良時代に東大寺大仏建立の責任者だった行基というお坊さんです。仏教思想の普及にとどまらず、困窮する人々の生活を楽にするために道や橋をつくったり、布施屋と呼ばれる無料の宿泊所を開いたりと、いまでいうインフラ整備や社会福祉事業を行いました。当時の庶民は租税の納付や役務のために自費で都まで出向く必要があり、その途中で行き倒れる者も多くいたそうです。道路や宿泊所の建設はそうした民を救うための取り組みであり、行基は布教と並行してこうした取り組みを各地で行いました。こうした「勝手な」動きを朝廷は面白く思わず、しばしば行基を弾圧したそうです。しかしながら大仏建立という国家一大事業の際には、多くの人々を動員せざるを得ず、民衆からは「菩薩」と崇められていた行基が製作総指揮者として抜擢されました。
京都は寺社仏閣密度が高い場所ですが、そのなかで最近気になっているお寺があります。職場から徒歩30秒くらいのところにある寳幢寺(ほうどうじ)。お寺といっても住宅街のなかにある賃貸事務所のような建物に入っており、「ホウドウジ」という看板が出ているだけです。
あるイベントでこの寺院を開いた僧侶の松波龍源さんと文化人類学者の藏本龍介さんにお会いし、寳幢寺が「実験寺院」として活動していることを知りました。宗派や慣習、既存の仏教らしさにとらわれず、リアルな生活に根ざした仏教の進化を目指す社会実験の場としてのお寺を目指しているそうです。宗教法人ではなく一般社団法人が運営しています。僧侶が執り行う法要などの仏事に限らず、起業家や医師、学生、主婦、経営者、会社員などさまざまな背景をもつ個人が集い、瞑想をしたり、食事会をしたり、地域交流をしたりと幅広い活動を行っています。活動資金のすべては寄付でまかなうとしていて、これも等価交換とは異なる価値の回路を可視化するという「実験」なんですね。
龍源さんは、今の社会が多くの問題を抱えているからといって元の世の中に戻すことはできないし、戻すべきでもないと言います。考えたいのは、新しいものが出現していくなかで選択肢を増やしていくこと、そしてその選択肢の一つが「仏教かもしれない」と。
仏教というと、歴史、伝統、宗派、教義などふまえていないと近寄りがたいところがありますが、未来志向の開かれた場としての寺院のあり方を見るように思いました。
執筆者:中嶋 愛
編集者。ビジネス系出版社で雑誌、単行本、ウェブコンテンツの編集に携わったのち、ソーシャルイノベーションの専門誌、Stanford Social Innovation Reviewの日本版立ち上げに参画。「スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版」創刊編集長。スタンフォード大学修士修了。同志社大学客員教授。庭と建築巡りが好きです。
先に進む前に、aiaiっていったい何者?という疑問にお答えしておきますね。昭和生まれ、大阪育ちの編集者です。出版社でノンフィクション系の書籍を多く手がけ、直近ではスタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版という媒体の編集長をやっていました。現在は同志社大学ソーシャルイノベーションコースで教えながら、東京と京都の1.5拠点生活をしています。
大学で担当している授業のひとつがNPO論なのですが、世界最古の非営利組織は日本で生まれたという説があります。ピーター・ドラッカーさんが『非営利組織の経営』のまえがきで、日本には「寺」というNPOが古くから存在してきたと書いています。たしかにお寺には自治があり、ネットワークがあり、独自の資金源があり、街づくり、社会福祉、インフラ整備などの主体となっていました。ヨーロッパでも古くから教会や修道会が病院や救貧院を運営していたので、日本が最古というのはドラッカーさんの日本人読者へのサービスかもしれません。
お寺の社会的活動の始祖的な存在は、奈良時代に東大寺大仏建立の責任者だった行基というお坊さんです。仏教思想の普及にとどまらず、困窮する人々の生活を楽にするために道や橋をつくったり、布施屋と呼ばれる無料の宿泊所を開いたりと、いまでいうインフラ整備や社会福祉事業を行いました。当時の庶民は租税の納付や役務のために自費で都まで出向く必要があり、その途中で行き倒れる者も多くいたそうです。道路や宿泊所の建設はそうした民を救うための取り組みであり、行基は布教と並行してこうした取り組みを各地で行いました。こうした「勝手な」動きを朝廷は面白く思わず、しばしば行基を弾圧したそうです。しかしながら大仏建立という国家一大事業の際には、多くの人々を動員せざるを得ず、民衆からは「菩薩」と崇められていた行基が製作総指揮者として抜擢されました。
京都は寺社仏閣密度が高い場所ですが、そのなかで最近気になっているお寺があります。職場から徒歩30秒くらいのところにある寳幢寺(ほうどうじ)。お寺といっても住宅街のなかにある賃貸事務所のような建物に入っており、「ホウドウジ」という看板が出ているだけです。
あるイベントでこの寺院を開いた僧侶の松波龍源さんと文化人類学者の藏本龍介さんにお会いし、寳幢寺が「実験寺院」として活動していることを知りました。宗派や慣習、既存の仏教らしさにとらわれず、リアルな生活に根ざした仏教の進化を目指す社会実験の場としてのお寺を目指しているそうです。宗教法人ではなく一般社団法人が運営しています。僧侶が執り行う法要などの仏事に限らず、起業家や医師、学生、主婦、経営者、会社員などさまざまな背景をもつ個人が集い、瞑想をしたり、食事会をしたり、地域交流をしたりと幅広い活動を行っています。活動資金のすべては寄付でまかなうとしていて、これも等価交換とは異なる価値の回路を可視化するという「実験」なんですね。
龍源さんは、今の社会が多くの問題を抱えているからといって元の世の中に戻すことはできないし、戻すべきでもないと言います。考えたいのは、新しいものが出現していくなかで選択肢を増やしていくこと、そしてその選択肢の一つが「仏教かもしれない」と。
仏教というと、歴史、伝統、宗派、教義などふまえていないと近寄りがたいところがありますが、未来志向の開かれた場としての寺院のあり方を見るように思いました。
執筆者:中嶋 愛
編集者。ビジネス系出版社で雑誌、単行本、ウェブコンテンツの編集に携わったのち、ソーシャルイノベーションの専門誌、Stanford Social Innovation Reviewの日本版立ち上げに参画。「スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版」創刊編集長。スタンフォード大学修士修了。同志社大学客員教授。庭と建築巡りが好きです。
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