記事・レポート
僕の欲しいものは、みんなも欲しいものだった
東京R不動産が提案する、心地よい空間づくり
建築・デザイン不動産オンラインビジネス
更新日 : 2014年08月14日
(木)
第6章 リノベーションがイノベーションを生んだ
RE-KNOW東日本橋のケース
馬場正尊: 東京R不動産は、リノベーションという新たな価値観を広げていくためのエンジンとなりました。いっぽう、設計事務所であるOpen Aは、それを現実世界に落とし込むエンジンであり、日本ならではのリノベーションのあり方を探すための実験場となりました。
たとえば、「RE-KNOW東日本橋」(http://www.open-a.co.jp/portfolio.php?p=720)というプロジェクト。僕の事務所の近くに、築40年の繊維卸問屋の空きビルがあり、「リノベーションしてほしい」という依頼がきました。現在は1階にヨガスタジオ、地下にインテリアショップ、上階はオフィスやペントハウスが入り、常に満室状態です。
壁や床のタイルはそのまま活用するなど、建物の物語を感じる部分は大切に残しています。日本人はデリケートなので、キッチンやトイレなど肌に触れるところはしっかりデザインしましたが、触れないところは思い切りラフにしました。天井はスケルトンにし、配線なども丸見え。開放的かつラフな空間とすることで、働く人や暮らす人の感性を活かせるような余地を残しています。
働き方のリノベーション
馬場正尊: ある日、スタッフの一人が「中央区勝どきの運河沿いにカッコイイ倉庫を発見しました!」と飛んできました。現地に行くと、巨大な空間に薄暗い明かりがともるだけの、どこから見ても古びた倉庫がありました。しかし、僕たちの感覚では「カッコイイ倉庫」だったのです。
同じ頃、靴の製造・輸入販売を手掛ける企業の店舗デザインに携わっていました。その社員から「青山にオフィスがあるけれど、家賃が高く、部屋は狭い。本当はショールームも設けたい」という話がありました。僕はその社員をタクシーに乗せ、勝どきに向かいました。当然ながら、見た瞬間はキョトンとされていました。僕は「価値観を変えてください。これだけの広さと運河沿いという素敵な環境でありながら、家賃は青山と一緒ですよ」と説明しました。
実は、このプロジェクトは空間のリノベーションと同時に、働き方のリノベーションでもありました。「広い庭のような空間で気持ち良く仕事をしてみませんか?」。環境や人に優しいことなどをコンセプトとするブランドであったため、それを体現する意味でも気持ちの良い空間は必要だと説明したところ、共感していただくことができました。現在はオフィス兼ショールームに生まれ変わっています。
(THE NATURAL SHOE STORE/http://www.open-a.co.jp/portfolio.php?p=550)
空調が効くのは、中央に置かれたガラスキューブの内部だけですが、冬以外の時期は心地よい風が吹き抜けるフローリングを敷いた広い空間で仕事や打ち合わせをされています。新商品発表会でも広い会場を借りる必要がなくなり、大幅な経費削減につながっているそうです。さらに「運河を臨むテラスで商談をすると、成約率が高い」といった話も耳にします。心地よい空間は人間の心をポジティブにし、より良い仕事や発想につながっていく。改めてそのことを実感したプロジェクトでした。
廃墟の印刷工場が最新の情報発信基地に
馬場正尊: 東京・日の出桟橋に、タブロイド紙を印刷していた工場があり、数年間使われずに放置されていました。巨大な輪転機を置く4層吹き抜けの特殊な空間があり、建物の左右はゆりかもめ線と首都高速道路に挟まれていました。マンションを建てるには条件が悪く、解体には数億円かかるということで、僕のところに話が舞い込んできたのです。
新聞社の役員にプレゼンする際、テーマを「Building as Media」としました。「インターネットやSNSなど新たなメディアが登場したいま、新聞は20世紀型のメディアとなりつつあります。しかし、それらは何のために使われているのか? 人と人をつなぐためですよね。新聞という20世紀のメディアを創り出していた場所が、人と人をつなぐ新たなメディア、リアルな情報発信基地となる。これは不動産事業ではなく、皆さんの本業であるメディア事業です」。
そう説明すると、役員の方々は「決めた!」という顔になっていました。この建物がもつ記憶や物語を継承し、それを新しい時代のメディアとして再編集する、というコンセプトを理解していただけたのだと思います。
現在は「TABLOID」(http://www.open-a.co.jp/portfolio.php?p=207)という名がつけられ、オフィス、カフェ、ギャラリーなどが入る複合空間として生まれ変わりました。1階のカフェは、入居者や来訪者のコミュニケーション・ハブとなっています。また、4層吹き抜けの空間はそのままの形を活かし、海外ブランドの新作発表イベントなどに活用されています。この空間のオープニングはなんと、レディー・ガガのシークレットライブでした。
屋上は、レインボーブリッジやお台場を一望できる抜群のロケーションでしたが、以前は室外機があるだけで、1円の価値も生み出していませんでした。空間の狭い都市において、屋上は“最高の庭”となります。ウッドデッキを敷き詰めた開放的な空間に変えたことで、いまでは結婚式の二次会なども行われるようになっています。
僕の欲しいものは、みんなも欲しいものだった
インデックス
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第1章 メディアと都市計画 〜臨海副都心で考えたこと
2014年07月30日 (水)
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第2章 メディアはプロジェクトを動かすためのドライバーになる
2014年07月31日 (木)
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第3章 場の記憶の継承による都市の再生
2014年08月05日 (火)
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第4章 住空間はもっと自由でいいのだ
2014年08月07日 (木)
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第5章 僕の欲しいものは、みんなも欲しいものだった〜東京R不動産の誕生
2014年08月12日 (火)
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第6章 リノベーションがイノベーションを生んだ
2014年08月14日 (木)
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第7章 公共空間のリノベーション
2014年08月19日 (火)
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第8章 Let’sで始めるソーシャルデザイン
2014年08月21日 (木)
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第9章 多くの人を巻き込むコツとは?
2014年08月26日 (火)
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第10章 馬場正尊、古田秘馬が描く未来の東京
2014年08月28日 (木)
該当講座
馬場正尊(建築家/Open A ltd代表/東京R不動産ディレクター)× 古田秘馬(株式会社umari代表)
本業は建築家であり「東京R不動産」の中では、常に新しい視点で情報を編集し、発信するディレクターの役割を担う馬場氏。建築家として、公共空間のリノベーションも手がけ、その必要性を語る馬場氏が考える、これからの時代の「気持ちよくて心地いい住空間・公共空間・都市空間」とは何か。その実現のために何をするべきか、今後の取り組みも含めてお話いただきます。
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