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僕の欲しいものは、みんなも欲しいものだった

東京R不動産が提案する、心地よい空間づくり

建築・デザイン不動産オンラインビジネス
更新日 : 2014年08月07日 (木)

第4章 住空間はもっと自由でいいのだ


 
ロスからニューヨーク、シカゴへ〜米国視察で得た気づき〜

馬場正尊: ロサンゼルスの郊外では、ビール工場だった場所が住居とオフィスにリノベーションされていました。ユニークだったのは、居住空間とオフィスが混在していたこと。象徴的な場所が、敷地の中央にあるカフェでした。お昼頃に訪れると、ビジネスミーティングをしている横で、部屋着を着た人が遅い朝食をとっていました。両者が適度な距離感を保ち、それぞれの時間を幸せそうに楽しんでいる。さらに、週末の夜にはパーティが開かれ、働く人、暮らす人、その友人などが集まり、新しいコミュニケーションが生まれる場となっていました。

暮らす場所と働く場所を明確にゾーニングするのではなく、同じ場所で両方を実現する。それもできるだけ楽しい形で。そうした空間だったからこそ、僕はカフェに入ったとき、かつて経験したことのない心地よさを覚えたのだと思います。

ニューヨークでは、ブルックリンにあるDUMBO(Down Under the Manhattan Bridge Overpass)というエリアを訪れました。古いレンガ造りの倉庫街は、数年前までは空き物件ばかりで、治安の悪いエリアだったそうです。しかし、安い賃料にひかれてクリエイターが集まり、ゲリラ的にリノベーションし始めたことで、少しずつ街が変わっていった。その後、ニューヨーク・タイムズ紙が「DUMBO地区で新たなムーヴメントが起こっている」と報道したことで、行政や企業が投資を始めたそうです。

ニューヨークは、ソーホーやチェルシーなど、アーティストやクリエイターを“放し飼い”にし、街を発展させてきた歴史があります。そのため、「ムーヴメントが盛り上がってきたときに投資するのがいい」と誰もが理解している。DUMBO地区でも、それが絶妙なタイミングで始められ、いまやこの地区はニューヨークでも有数の文化発信拠点となっています。

続いてはシカゴに飛びました。ここで僕は「コンバージョン」という言葉に出会います。シカゴでは、使われなくなった古い倉庫やオフィスを住居に機能変換することを、こう呼んでいました。ミシガン湖のほとりに、元は倉庫だった大きな建物があり、住宅にコンバージョンされていました。なかに入ると、スケルトンの高い天井、白く塗られたコンクリートの壁、大きな窓があるだけのガランとした空間が広がっていました。LDKといった空間を区切る概念は存在せず、どのように使おうが住み手の自由だったのです。

シカゴでは新築や中古住宅とともに、コンバージョンの住宅も1つの市場を形成しており、なかには新築より高い物件もあるそうです。この空間を見て、「住空間はもっと自由でいいのだ」と理解しました。

こうして米国でさまざまな気づきを得た僕は、自分でもリノベーションやコンバージョンを実践してみたくなったのです。



該当講座

シリーズ「街・人を変えるソーシャルデザイン」
“気持ちいい空間を再構築する —東京R不動産の先に”
馬場正尊 (建築家/Open A ltd.代表取締役 東京R不動産ディレクター/東北芸術工科大学准教授 )
古田秘馬 (プロジェクトデザイナー/株式会社umari代表)

馬場正尊(建築家/Open A ltd代表/東京R不動産ディレクター)× 古田秘馬(株式会社umari代表)
本業は建築家であり「東京R不動産」の中では、常に新しい視点で情報を編集し、発信するディレクターの役割を担う馬場氏。建築家として、公共空間のリノベーションも手がけ、その必要性を語る馬場氏が考える、これからの時代の「気持ちよくて心地いい住空間・公共空間・都市空間」とは何か。その実現のために何をするべきか、今後の取り組みも含めてお話いただきます。


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