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僕の欲しいものは、みんなも欲しいものだった

東京R不動産が提案する、心地よい空間づくり

建築・デザイン不動産オンラインビジネス
更新日 : 2014年08月05日 (火)

第3章 場の記憶の継承による都市の再生


 
米国で知ったリノベーションの可能性

馬場正尊: 4年ほど『A』を続けるなかで、次第に僕は、自分がインプットしたものを現実の都市にインストールしてみたくなり、建築デザインの世界に戻ります。しかし、最初は何から始めればいいのか分からない。そのときに出会ったのが「リノベーション」でした。

2002年、外資系投資銀行に勤める友人から「不良債権化した古いビルをたくさん購入したが、貸すことも売ることも難しい。何とか価値をつけられないか」という相談を受けました。それは単なる建築デザインの相談ではなく、増え続ける空きビルや空洞化する街をデザインの力で再生するという、社会の構造に関わる相談だと直感しました。僕はその具体例を探すべく、米国に飛びました。そこで、現在につながる数多くの気づきを得ることになります。

最初に向かったのは、ロサンゼルスのChung-king Roadというチャイナタウン。空き家ばかりで日中でも閑散としていましたが、建物のなかをのぞくと、若いアーティストが自分たちの手で空間をリノベーションし、アトリエやギャラリーとしていました。行政に促されるのではなく、彼らは安い賃料にひかれて自然に集まり、ゲリラ的に街を変えていました。

夜の12時頃、ひときわ賑わうカフェを見つけました。店主に話を聞くと「古本屋を古本ごと買い取り、最低限の費用でリノベーションしたところ、たくさんの客が来るようになった」と言うのです。古本屋の看板や古本が並んだ大きな棚も、すべてそのまま活用していました。建物がもつ物語をそのまま継承したことで独特の魅力が生まれ、居心地の良さや安心感が醸し出されていたのです。

また、チャイナタウンの近くでは、閉店して廃墟となっていたデパートが、子どものためのアートスペースにリノベーションされていました。以前は洋服などが並んでいた場所は、床も壁も子どもたちの落書きだらけ。自由な発想が爆発していました。誰もが見向きもしなかった建物をリノベーションしたからこそ、これだけ自由な空間がつくれたのでしょう。

たくさんの親子連れであふれている理由をキュレーターに尋ねると、「古くからあるデパートだったため、近所に暮らす人なら必ず一度は訪れている。誰もが記憶し、思い入れのある場所だからこそ、人が集まるのだ」と教えてくれました。人間には帰巣本能があるため、記憶がある場所には足が向きやすく、思い入れが強い場所ほど安心しやすい。リノベーションでは、こうしたことが起きやすいのです。

僕はさまざまな事例を見るなかで、「場の記憶」の継承が都市の再生、建物の再生に深く関係していることを学びました。

該当講座

シリーズ「街・人を変えるソーシャルデザイン」
“気持ちいい空間を再構築する —東京R不動産の先に”
馬場正尊 (建築家/Open A ltd.代表取締役 東京R不動産ディレクター/東北芸術工科大学准教授 )
古田秘馬 (プロジェクトデザイナー/株式会社umari代表)

馬場正尊(建築家/Open A ltd代表/東京R不動産ディレクター)× 古田秘馬(株式会社umari代表)
本業は建築家であり「東京R不動産」の中では、常に新しい視点で情報を編集し、発信するディレクターの役割を担う馬場氏。建築家として、公共空間のリノベーションも手がけ、その必要性を語る馬場氏が考える、これからの時代の「気持ちよくて心地いい住空間・公共空間・都市空間」とは何か。その実現のために何をするべきか、今後の取り組みも含めてお話いただきます。


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