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『日本最悪のシナリオ』に学ぶ危機管理とリーダーシップ

“想定外”の危機を乗り越える方法とは?

経営戦略政治・経済・国際キャリア・人
更新日 : 2014年03月03日 (月)

第9章 これからはワーク・ライフ・インテグレーションだ

荻原国啓(ピースマインド・イープ株式会社 代表取締役社長)
荻原国啓(ピースマインド・イープ株式会社 代表取締役社長)

 
何かを犠牲にしない働き方

船橋洋一: 現在の安倍政権は「女性の活躍」を成長戦略の中核に据え、一部上場企業に向けて、役員の1人は女性にしなさいと呼びかけています。男女雇用機会均等法の制定から30年経ちましたが、いまだ日本の男女格差は根強くあります。企業としては、どのように考えているのでしょうか?

荻原国啓: 「単純に女性を登用すればいいだろう」では意味がないと思いますが、時代の最先端を歩む企業は、すでに女性の活躍なしには競争優位に立てないと認識し、積極的に取り組んでいます。株式市場でも、女性を積極的に登用する企業の銘柄を買うといったムーヴメントが起こっています。日本でもロールモデルとなる企業が現れ、評価・賞賛される流れが強まれば、社会や企業の仕組みも変わっていくと思います。

塩崎彰久: 私が米国にいた頃、感銘を受けたのは、ワーク・ライフ・バランスはもはや遅れているという同僚の言葉でした。ワーク・ライフ・バランスでは、ワークとライフの間にゼロサムのトレードオフが生じてしまう。これからはワーク・ライフ・インテグレーションだと彼は言いました。ワークとライフの双方を高い次元で統合し、シナジーを生み出す。つまり、配偶者や両親、子どもなど、自分の人生を取り巻く様々なステークホルダーを巻き込んだ形でのインテグレーションです。何かを犠牲にして働くのではないという意識が、女性にも男性にも根づいていけば、色々な可能性が広がっていくでしょう。

船橋洋一: インテグレーションとも関連しますが、北欧のように女性の社会参画率が高い国ほど、出生率は高い。反対に、日本や韓国など、女性の社会参画率が低い国は、出生率も低い。北欧のような前例がありながら、なぜ日本は変わっていかないのでしょうか?

竹内幹: 北欧諸国については素晴らしい話をよく耳にしますが、実際のところ、彼の地でも女性の社会参画が取り上げられた当初は、経済界から「国際競争力がなくなる」と猛反発を受けています。そもそも、北欧の成功例の背景には、女性への理解が高かったという歴史はありません。1人ひとりの女性が戦い、企業の現場で堪え忍び、柔軟性を求めて訴訟を起こしながら、権利を勝ち取っていった。それは米国でも同じです。問題に正面から立ち向かうことで道を開き、そこから一気に社会の意識が変えていったのです。日本でも最初は反発が起こると思いますが、必ずできるはずです。明治維新などを見ても、一度大きな壁を乗り越えてしまえば、柔軟性の高い日本人はうまく状況に対応していけると思います。

また、社会は経済的な事情を中心に動いていますから、やはり「経済的には共働きが最も素晴らしい」と皆が考え、そうした家庭が増えていけば、社会の仕組みも変わらざるをえなくなると思います。いままで変わらなかったことを悲観する必要はありません。欧米の事例と同様に、何らかのムーヴメントを通して、ある日突然、ドミノ倒しのように変わっていくと、私は楽観的に捉えています。


関連書籍

『日本最悪のシナリオ 9つの死角』

日本再建イニシアティブ
新潮社


該当講座

“日本最悪のシナリオ”に学ぶ「危機管理」と「リーダーシップ」
竹内幹 (一橋大学大学院経済学研究科 准教授)
塩崎彰久 (パートナー弁護士 長島・大野・常松法律事務所)
荻原国啓 (ピースマインド・イープ株式会社 代表取締役社長)
船橋洋一 (公益財団法人国際文化会館 グローバル・カウンシル チェアマン)

船橋洋一(一般財団法人日本再建イニシアティブ理事長)他
一つの危機はどのような経緯で最悪な状況を迎えるのか、何がトリガーになり、負の連鎖の生み出すのか、危機悪化の原因とは何なのか、最悪シナリオの例より検証します。最悪の状況を考えることにより、リスクを認知し、最悪から逆算することで、今すべきこと、将来に向け備える必要があることを明確にしていきます。後半は、「危機の本質を理解するためのアジェンダ設定力」「リーダーシップ・組織のあり方」など議論を深めます。


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