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『日本最悪のシナリオ』に学ぶ危機管理とリーダーシップ

“想定外”の危機を乗り越える方法とは?

経営戦略政治・経済・国際キャリア・人
更新日 : 2014年02月27日 (木)

第7章 世代間格差が生み出す最悪のシナリオ

竹内幹(一橋大学大学院経済学研究科 准教授)

 
高齢者優遇の流れは変わらない

竹内幹: 「世代間格差」という言葉があります。これは、生涯で負担する税金と、生涯で享受できる社会保障サービスの差が、世代ごとに異なることを指します。内閣府の『年次経済財政報告』(平成17年)によれば、現在の60代は約1,600万円の純利益を得ている一方で、現在の30代は約1,700万円の損失を被るそうです。さらに、これから生まれる世代は、生まれた瞬間から約5,000万円もの借金を背負わされてしまうのです。団塊以上の世代が「逃げ切り世代」「持ち逃げ世代」と言われる所以です。

現在の高齢者の医療費自己負担は1割ですが、本来、2割への引き上げは2008年から行われる予定でした。しかし、政府は毎年2,000億円もの赤字を出しながら、懸命に1割負担を維持しています。その一方で、財政破綻が近づけば、若者の失業率が高くなります。近年、財政破綻に直面する国では、若者の失業率は5割を超えています。

財務省は、消費税を現在の水準から5%上げれば、税収が13.5兆円増えると試算しています。消費税は基本的に高齢者3経費(年金・医療・介護)に当てられるのですが、今回の増税で財務省は「未来(子ども)への投資」と銘打って、子育て支援にも使うとしています。しかし13.5兆円のうち、子育て支援に充てられるのは、わずかに0.7兆円。とても本気とは思えない金額です。

今後、国の取り組みが変化するのかと言えば、可能性は低いでしょう。選挙で投票した年代別の割合を示す円グラフがあります。グラフでは50代以上が全体の6割超を占め、60代以上でも半数に迫っています。20代は全体の1割弱です。若者の投票率が低いと言われて久しいですが、実はいま、若者が全員投票したとしても、数字上では高齢者世代に勝てない。それが少子高齢化の現実です。投票者の年齢構成は、政策の方向性に大きな影響を与えます。現在の政治のシステムが変わらない限り、高齢者優遇の流れも変わらないのです。

こうした流れが行き着く先に、何があるのか。不満を募らせ、行き場を失った若者たちは、街に繰り出し、国のあり方を力尽くでも変えようと過激な行動、クーデターを起こす。それが最悪のシナリオの一例です。

人口衰弱を回避する方法

竹内幹: 暗い話ばかりが続きましたが、危機への対応策はあります。たとえば、年金のカットです。バラマキと批判された「子ども手当」は、年間2~4兆円ほど。しかし、年金のバラマキは年間約50兆円。高齢者の方々は「若い頃から積み立てたお金を受け取っているだけだ」と言いますが、彼らは自分たちが支払った額よりもずっと多い金額を受け取っています。年金こそ、盛大なバラマキなのです。年金を現在の半分ほどにカットすれば、年間約25兆円の支出が抑えられます。消費税10%分と同程度の額を生み出せるわけです。

もう1つの対応策として考えられるのが、子どもを増やしていくこと。少子化対策として頻繁に取り上げられるのが、女性活用とワーク・ライフ・バランス(仕事と育児の両立)です。しかし、世界の流れからすれば、すでに周回遅れのイメージがあります。

そもそも、企業内に女性役員がいない時点で、1周遅れています。女性の役員・社員がいるとしても、その旦那さんはおそらくフルタイム勤務でしょう。夫婦がフルタイムで働いている間、子どもはどこにいるのでしょう。育児とは、保育施設で行うものではありません。そして、育児の責任は男女平等です。女性支援(=育児支援)を打ち出すのならば、父親支援も並行して行うべきなのです。


関連書籍

『日本最悪のシナリオ 9つの死角』

日本再建イニシアティブ
新潮社


該当講座

“日本最悪のシナリオ”に学ぶ「危機管理」と「リーダーシップ」
竹内幹 (一橋大学大学院経済学研究科 准教授)
塩崎彰久 (パートナー弁護士 長島・大野・常松法律事務所)
荻原国啓 (ピースマインド・イープ株式会社 代表取締役社長)
船橋洋一 (公益財団法人国際文化会館 グローバル・カウンシル チェアマン)

船橋洋一(一般財団法人日本再建イニシアティブ理事長)他
一つの危機はどのような経緯で最悪な状況を迎えるのか、何がトリガーになり、負の連鎖の生み出すのか、危機悪化の原因とは何なのか、最悪シナリオの例より検証します。最悪の状況を考えることにより、リスクを認知し、最悪から逆算することで、今すべきこと、将来に向け備える必要があることを明確にしていきます。後半は、「危機の本質を理解するためのアジェンダ設定力」「リーダーシップ・組織のあり方」など議論を深めます。


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