記事・レポート
『日本最悪のシナリオ』に学ぶ危機管理とリーダーシップ
“想定外”の危機を乗り越える方法とは?
経営戦略政治・経済・国際キャリア・人
更新日 : 2014年02月25日
(火)
第6章 男性中心の社会観が少子化をもたらした
環境問題と人口衰弱
竹内幹: 実は、人口が減ると分かったのは1974年のことです。この年、合計特殊出生率(※編注)は人口を一定に保つために必要な水準(2.1)を初めて下回りました。しかし、その後15年間、人口減少への有効な手は打たれませんでした。1990年、前年の合計特殊出生率が史上最低となった「1.57ショック」が起こり、初めて少子化が社会問題として取り上げられました。ところが、ここでも政府は対応しませんでした。そして2005年、日本の人口は減少に転じてしまったのです。
対応しなかった1つの理由は、社会を動かしてきた男性中心の権威主義が、女性や子どもの問題を軽視してきたからです。男女雇用機会均等法成立の中核を担った赤松良子氏(当時、労働省婦人局長)は、1983年に当時の経団連会長と面会し、女子差別撤廃条約への批准と、男女雇用機会均等法成立への協力を求めたそうです。すると、当時の会長は「(婦人に)参政権なんて持たせるから、歯止めがなくなってしまっていけませんなあ」と答えたそうです。
女性の参政権が認められたのは1945年。その後40年経っても、こうした発言をする人が経済界のトップに立っていたのです。日経連も当時、「男女雇用機会均等法ができると、企業経営が成り立たなくなる」と声明を出そうとしていましたが、赤松氏が説得し、未然に防いだという経緯が彼女の著書に記されています。経済界がいま、手のひらを返したように女性活用を訴えはじめていることは、私の目にはとても滑稽に映ります。
「環境問題」を思い出してみてください。30年前、「そんなことをしていたら企業経営は成り立たない」と言われていたはずです。30年経ち、社会の意識はガラリと変わりました。現在は「育児休業なんかで休まれたら、仕事にならない」と言われていますが、おそらく30年後、人口衰弱による危機に直面した日本では、人々の意識も変わっていることでしょう。
「企業の社会貢献だ、CSRだ」と言って木を植えるよりも先に、まずはお父さんお母さんを子どものもとに帰しなさい。私はいま、真面目にそう言いたいと思います。国家とは元をたどれば、1つひとつの家庭に行き着きます。経済学の言葉を当てはめれば、子どもは公共財です。子どもは社会全体に便益をもたらす1つの財産であり、本来は社会全体で支え、育てていくものです。同じく公共財である道路に関しては、現在も多額の税金が投じられています。しかし、子どもに関しては、いまだに手がつけられていません。
政治や経済を担う男性の間に「出産や育児など、小さい問題だ。俺たちは国や経済といった大きな問題と戦っているのだ」という意識がいまだ蔓延している時点で、すでに危機の状況が正確に把握できていないのです。
※編注
合計特殊出生率
1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す人口統計上の指標。
関連書籍
『日本最悪のシナリオ 9つの死角』
日本再建イニシアティブ新潮社
『日本最悪のシナリオ』に学ぶ危機管理とリーダーシップ インデックス
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第1章 日本社会が抱える、危機対応と危機管理の盲点
2014年02月17日 (月)
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第2章 危機におけるリーダーシップ (1)Assessment(状況把握)
2014年02月18日 (火)
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第3章 危機におけるリーダーシップ (2)Bold Action(決断・行動)
2014年02月20日 (木)
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第4章 危機におけるリーダーシップ (3)Communication(危機広報)
2014年02月21日 (金)
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第5章 第3次ベビーブームは起こらなかった
2014年02月24日 (月)
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第6章 男性中心の社会観が少子化をもたらした
2014年02月25日 (火)
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第7章 世代間格差が生み出す最悪のシナリオ
2014年02月27日 (木)
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第8章 1人ひとりに求められるリーダーシップ
2014年02月28日 (金)
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第9章 これからはワーク・ライフ・インテグレーションだ
2014年03月03日 (月)
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第10章 子育てを支援しない企業が“ブラック企業”になる日
2014年03月04日 (火)
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第11章 人口衰弱を回避する方策とは
2014年03月06日 (木)
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第12章 他人を巻き込む際はWhyとWhatを重視せよ
2014年03月07日 (金)
該当講座
“日本最悪のシナリオ”に学ぶ「危機管理」と「リーダーシップ」
~いかに“最悪”を回避するのか?~
竹内幹 (一橋大学大学院経済学研究科 准教授)
塩崎彰久 (パートナー弁護士 長島・大野・常松法律事務所)
荻原国啓 (ピースマインド・イープ株式会社 代表取締役社長)
船橋洋一 (公益財団法人国際文化会館 グローバル・カウンシル チェアマン)
塩崎彰久 (パートナー弁護士 長島・大野・常松法律事務所)
荻原国啓 (ピースマインド・イープ株式会社 代表取締役社長)
船橋洋一 (公益財団法人国際文化会館 グローバル・カウンシル チェアマン)
船橋洋一(一般財団法人日本再建イニシアティブ理事長)他
一つの危機はどのような経緯で最悪な状況を迎えるのか、何がトリガーになり、負の連鎖の生み出すのか、危機悪化の原因とは何なのか、最悪シナリオの例より検証します。最悪の状況を考えることにより、リスクを認知し、最悪から逆算することで、今すべきこと、将来に向け備える必要があることを明確にしていきます。後半は、「危機の本質を理解するためのアジェンダ設定力」「リーダーシップ・組織のあり方」など議論を深めます。
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