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『日本最悪のシナリオ』に学ぶ危機管理とリーダーシップ

“想定外”の危機を乗り越える方法とは?

経営戦略政治・経済・国際キャリア・人
更新日 : 2014年02月24日 (月)

第5章 第3次ベビーブームは起こらなかった

竹内幹(一橋大学大学院経済学研究科 准教授)
竹内幹(一橋大学大学院経済学研究科 准教授)

 
日本の人口は逆ピラミッドへ

竹内幹: 私は『日本最悪のシナリオ~9つの死角』で、「人口衰弱」のシナリオ原案を担当しました。人口衰弱は、時間をかけて満ちる潮のように、ゆっくりと迫ってくるタイプの危機です。しかし、その危機が近いうちに訪れることは、もはや誰の目にも明らかです。

「人口ピラミッド」という有名なグラフがあります。昭和期、若い世代のグラフは長く、年齢が高くなるほど短くなり、きれいなピラミッドの形をなしていました。現在はむしろ、逆ピラミッドに近づきつつあります。2050年の人口予測では、全体の4割が65歳以上の高齢者となり、20歳以下の人口は1割ほどになると予測されています。

人口衰弱がもたらす危機の最たるものは、高齢者3経費(年金・医療・介護)です。すでに社会問題となっており、様々な推計も出されています。現在は高齢者1人につき、3~4人の勤労世代で支えていますが、将来は高齢者1人を1.5人の勤労世代で支えなければならなくなります。特に、医療費は将来、GDP比10~15%となり、消費税は20%になるとも言われています。他方で、政府の借金はいまや1,000兆円にも達する勢いです。少子化の進展により税収は先細りとなり、このままではいずれ政府そのものが破綻すると考えられています。

子どもはなぜ少なくなったのか?

竹内幹: では、子どもはなぜ少なくなったのでしょうか。日本では戦後すぐ、第1次ベビーブームが起こり、団塊の世代が生まれました。次に団塊ジュニア、第2次ベビーブーム世代が日本の人口を支えました。本来は、第3次ベビーブームが起こるはずでした。しかし、団塊ジュニアが40歳を超えてしまい、もはやその可能性は失われてしまったのです。

なぜ、ベビーブームは起こらなかったのか。その理由を物語るデータがあります。厚生労働省がまとめた、1975~2000年までの社会保障給付費の変遷を表すグラフです。この25年間で、高齢者向けの社会保障費は増加の一途をたどっています。一方で、児童・家庭関係給付費はほとんど増加していません。つまり、子どもが減少してきたにもかかわらず、20年以上にわたり手立てが講じられてこなかった。そのツケが、出生率の低下につながっているのです。

もう1つの理由は、結婚・出産に関する考え方の変化です。結婚はかつて、経済力のある男性が経済力のない女性を養う、あるいは、男性は仕事、女性は家事・育児・介護を担当するという不文律がありました。しかし、日本が1985年に女子差別撤廃条約に批准して以降、女性の社会進出が進むにしたがい、従来の性的、分業的な結婚観は大きく変わりました。

また、十数年前までは、結婚して家庭を持たない男性は一人前として認められない、つまり社会的信用が得られませんでした。そして結婚すれば、周囲から「子どもは?」という声がかかります。こうしたことから、人々の頭の中には「結婚から出産」という既定路線ができあがっていました。しかし、近年は結婚に対する価値観が変わり、その路線は失われつつあるのです。

関連書籍

『日本最悪のシナリオ 9つの死角』

日本再建イニシアティブ
新潮社


該当講座

“日本最悪のシナリオ”に学ぶ「危機管理」と「リーダーシップ」
竹内幹 (一橋大学大学院経済学研究科 准教授)
塩崎彰久 (パートナー弁護士 長島・大野・常松法律事務所)
荻原国啓 (ピースマインド・イープ株式会社 代表取締役社長)
船橋洋一 (公益財団法人国際文化会館 グローバル・カウンシル チェアマン)

船橋洋一(一般財団法人日本再建イニシアティブ理事長)他
一つの危機はどのような経緯で最悪な状況を迎えるのか、何がトリガーになり、負の連鎖の生み出すのか、危機悪化の原因とは何なのか、最悪シナリオの例より検証します。最悪の状況を考えることにより、リスクを認知し、最悪から逆算することで、今すべきこと、将来に向け備える必要があることを明確にしていきます。後半は、「危機の本質を理解するためのアジェンダ設定力」「リーダーシップ・組織のあり方」など議論を深めます。


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