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『日本最悪のシナリオ』に学ぶ危機管理とリーダーシップ

“想定外”の危機を乗り越える方法とは?

経営戦略政治・経済・国際キャリア・人
更新日 : 2014年02月28日 (金)

第8章 1人ひとりに求められるリーダーシップ

竹内幹(一橋大学大学院経済学研究科 准教授)
左から、船橋洋一(一般財団法人日本再建イニシアティブ理事長 慶應義塾大学特別招聘教授)、竹内幹(一橋大学大学院経済学研究科 准教授)、塩崎彰久(パートナー弁護士 長島・大野・常松法律事務所)、荻原国啓(ピースマインド・イープ株式会社 代表取締役社長)

 
ブラック企業は人口衰弱の予兆

船橋洋一: 本日は「人口衰弱」に焦点を当てています。人口衰弱は、緩やかに進行する危機です。ある意味でまだ、平時と言えるかもしれません。しかし、底流では様々なリスクが確実に高まっています。人口衰弱により、企業ではどのような問題が起こるのでしょうか?

荻原国啓: まずは、将来の労働生産人口の減少です。その中で企業は優秀な人材を集め、生産性を維持・向上していかなくてはなりません。日本は、ものづくりの生産性は非常に高い。OECD(経済協力開発機構)の調査でも、先進国ではアメリカに次いで第2位です。こうした仕組みを確立してきたのは、ものづくりの現場で活躍するブルーカラーの方々です。

一方で、日本のホワイトカラーの生産性は、先進7カ国では最下位、OECD加盟30数カ国の中でも常に20位前後です。つまり、日本が競争力を維持していくためには、ホワイトカラーの生産性向上が求められます。21世紀において日本企業が今後直面する大きな課題です。

しかし、日本の組織における働き方は、依然として20世紀型です。結婚や出産に対する価値観が変わり、人口が減少している事実もありながら、共働きなど21世紀のワークスタイルに適応した企業は、いまだ非常に少ないためです。典型的な例が、いわゆるブラック企業やハラスメントの問題です。実はこれらの問題こそ、人口衰弱が迫りつつあることの予兆だと、私は考えています。ブラック企業とは、労働生産人口が多く、右肩上がりだった時代の働き方、前時代的な過重労働をいまだに強要している企業とも言えます。迫りつつある危機に気がついていないからこそ、起こっている問題です。

ハラスメントの問題には、世代間のギャップが関わっています。昭和的な価値観から変化しない上司と平成的な部下のコミュニケーション、働き方や指導法に対する考え方。現在、多くの企業ではこれらのギャップへの不満がマグマのようにうごめいています。しかし、経営者の多くは対症療法的に問題にフタをしようとしがちです。ホワイトカラーの生産性を向上させるために、解決しなければならない問題は多いのです。

リーダーシップは1人では発揮できない

船橋洋一: 人口衰弱という点では今後、どのようなリーダーシップが求められるのでしょう?

塩崎彰久: そもそも、リーダーシップは日本語訳が難しい言葉です。指導力、統率力では、どうもしっくりこない。日本語としての解釈が定まっていないために、「私はリーダーではない」「最終決定権者がリーダーだ」という声が出てきてしまうのです。また、日本には謙譲の美徳という文化がありますが、それが行き過ぎてしまえば、誰しもが責任を避ける方向に進んでしまいます。

学術的な定義では、リーダーシップとは「他人を巻き込んで、現状を変化させること」です。リーダーシップは1人では発揮できません。必ず他人を巻き込む必要がありますから、本来はすべての人が日々、リーダーシップを発揮する場面に遭遇しているはずです。現状を変化させたいと思ったとき、1人でも他人を巻き込んだ行動をとれば、どれほど小さくとも、それはリーダーシップなのです。

リーダーシップを醸成していく1つの方法は、変化に対しての責任を1人で抱え込まず、皆で共有していくことです。1人ひとりが小さな変化を起こすことを習慣化し、それらの集合体として大きな変化を起こしていく。現代の日本ではまず、リーダーシップを自分のこととして考えるという意識変革が必要だと思います。

竹内幹: 自分の権益・利害に関わるから行動を起こすのではなく、自分の利害と離れた部分で発揮するのが、本当のリーダーシップだと思います。自分の利害とは直接関係ないが、矛盾する状況を変えていくのは自分しかいないと思えるかどうか。こうした感覚は、やはり子どもの頃から育てていくことが大切です。大小違いはあれども、すべての人がリーダーシップを発揮できるようになれば、自ずと社会は変わっていくでしょう。

関連書籍

『日本最悪のシナリオ 9つの死角』

日本再建イニシアティブ
新潮社


該当講座

“日本最悪のシナリオ”に学ぶ「危機管理」と「リーダーシップ」
竹内幹 (一橋大学大学院経済学研究科 准教授)
塩崎彰久 (パートナー弁護士 長島・大野・常松法律事務所)
荻原国啓 (ピースマインド・イープ株式会社 代表取締役社長)
船橋洋一 (公益財団法人国際文化会館 グローバル・カウンシル チェアマン)

船橋洋一(一般財団法人日本再建イニシアティブ理事長)他
一つの危機はどのような経緯で最悪な状況を迎えるのか、何がトリガーになり、負の連鎖の生み出すのか、危機悪化の原因とは何なのか、最悪シナリオの例より検証します。最悪の状況を考えることにより、リスクを認知し、最悪から逆算することで、今すべきこと、将来に向け備える必要があることを明確にしていきます。後半は、「危機の本質を理解するためのアジェンダ設定力」「リーダーシップ・組織のあり方」など議論を深めます。


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