記事・レポート

ビジネスとクリエイティブの新しい関係

ライフスタイルサロン「編集力シリーズ」第二回 ゲスト:佐藤可士和

更新日 : 2009年06月05日 (金)

第2章 コミュニケーション戦略で結果が変わる

佐藤可士和氏

佐藤可士和: 旗艦店を出すニューヨークのソーホーに、お店を開ける半年前ぐらいのある日、突然工事中の仮囲いにカタカナと英語のユニクロのロゴをバーンと出しました。その後2週間単位ぐらいで仮囲いのデザインを変えていきました。最初はロゴのカタカナがあって、ユニクロがファッションブランドかどうかもわからなかったのを、ちょっとずつ種明かしをしていくような手法はインパクトがあり、話題になりました。

ユニークな施策もたくさんやりました。メディアとして売っていたイエローキャブのタクシートップを半年間買ったのです。ニューヨークのタクシーの約4台に1台がユニクロ・タクシーになって街をバンバン走りました。店の向かい側の広告スペースも買って「From Tokyo to Now York」というメッセージを出し、「東京から何かやって来るらしい」ということをだんだん仕掛けていきました。

そしてある日、赤と白と黒だったロゴをカラフルに変え、次にその様々なカラーのロゴをカシミアのセーターに——つまりプロダクトに変え、最後にNYの有名人たちに着てもらったピープルキャンペーンを展開し、「あっ、ファッションブランドだったのか」とわからせてからお店を開けたのです。オープンのときには、たくさんの人が並び、結果的にニューヨーク店は成功しました。

佐藤可士和氏
インテリアデザイナーの片山正通さんや、ウェブのクリエイターの中村勇吾さんらとチームを組みましたが、「コミュニケーション戦略をきちんとやっていくと伝わる」ということを、国境を超えて実感できたプロジェクトでした。

柳井さんへのヒアリングをはじめ、ユニクロの成り立ちから現状を検証した結果、「美意識ある超合理性」というコンセプトを最初に打ち出し、それをプロジェクトメンバー全員で共有しました。そして、商品を徹底して整理整頓し、店の中に入ると最先端のリアルな東京ポップカルチャーが、ユニクロというメディアにのって集結しているイメージを空間に表したのです。

意外にもすごく整理されたお店というのは、海外にはあまりなくて、日本の清潔感が空間で表現できた気持ちのいいお店ができたのですが、それ自体もアイデンティティとしてはっきりしているのかなと思います。

ただ「日本からやってきた」だけでなく、ちゃんと「ニューヨークと融合したい」というメッセージを残しました。店舗の建物は100年近く前からの物件で、ボロボロの壁があったのですが、壁を保存したまま解体してもらい、レジの裏にヒストリーウォールとして残しました。壁の前にミュージアムガラスを設けてライティングしたのが、ニューヨーカーから高く評価されました。

次いでロンドンにも旗艦店をオープンしたのですが、今度はイエローキャブではなく2階建てバスをメディアにして、同じようなにコミュニケーション・キャンペーンを展開しました。こちらも評判がよく、今年(2009年)の秋頃には、大規模旗艦店をパリにオープンする予定です。