記事・レポート
「縄文の思考」~日本文化の源流を探る
更新日 : 2009年05月25日
(月)
第3章 土器の使用が遊動生活から定住生活への転機になった
小林達雄: 土器は素焼きです。我々がやるキャンプファイヤー程度の焚き火で、縄文土器というのは焼かれるのです。ですから非常に脆弱です。これを持ち運んで動き回るわけにはいかない、つまり縄文土器をつくった途端に定住する指向を強めていきます。
「縄文革命」の重要な点は、先ほど申し上げた道具の造形学的な革新性がありますが、もっと重要な人類の歴史的な意味での革新性といえば「定住」です。定住的な村を営むところです。
人が定住的な村を営むようになったのは日本列島に起きた「縄文革命」だけではありません。いずれ世界各地で始まるのですが「人類の歴史の優等生」と、かねがね高い評価を得てきたのが西アジア、チグリス・ユーフラテス川流域のあたりです。今でも不幸なことにいつまでたってもくすぶった争いが絶えないのですが、いち早く農耕を始めたということで、今、ヨーロッパが大きな顔をしていますが、実は西アジアの文化から刺激を受けてヨーロッパも次の段階にいくのです。
「縄文革命」に対して、ヨーロッパの農耕を基盤にした定住的な始まりを「新石器革命」と呼んでいます。あるいは農耕を始めたということで「農業革命」と呼ばれており、歴史的な意義が高く評価され、それが人類の歴史の優等生の歩みと見られてきたのです。その年代は今からせいぜい1万年ぐらい前です。
縄文革命は1万5000年前ぐらいですから、この何千年の差をどう評価すべきかという話は抜きにしても、日本列島が定住的な生活に飛躍的に到達したというのは歴然としているのです。けれど日本列島は農耕とは無縁でした。昔ながらの旧石器時代以来の狩猟・漁猟・採集の3本柱を基盤にし、定住的な村を営むようになったのです。
それに対して5000年以上遅れて定住的な村を営むようになった西アジアや後のヨーロッパなど、西アジアを先頭グループとする文化の動きというのはずっと遅いのですが、「農耕していた」ということが優等生として評価されています。
日本列島の方が圧倒的に早く新しい段階に飛び込んだのです。新しい段階とは「定住」です。それまでの旧石器時代は、遊動的な生活が基本でした。もちろん何日間とか1カ月ぐらいにわたって、動物を仕留めるためにキャンプ地に滞在するということはあったでしょう。けれどそれは一時的に滞在するということ、あるいは何度も同じ場所に戻ってくるということであって、「ここぞ」と決めた所に腰を据えて住み続ける村というものは、まだできていなかったのです。
定住の開始は人類の歴史にとって極めて重要なことです。土器の発明などというものを超えて、人類の歴史そのものについて大きな意味を持っていたのです。
それまでの遊動的な生活というのは、猿やチンパンジーやゴリラと同じだと言えば、なるほどと思うかもしれません。もっと極端にわかりやすく言えば、鹿やイノシシとも、あるいは植物とも同じ。人類も自然的な秩序の中の1要素にすぎなかったのです。
どういう点で猿やチンパンジーと同じかというと、形も仕草も似ているということもさることながら、大きな自然の摂理に対して同格だったんです。自然的秩序を構成する一要素で、「人だ」と言って威張れたものではない、要素の1つだったということです。
ところが縄文革命、あるいは農業革命、新石器革命によって、自然の秩序から脱却する、抜け出るのです。一人、「私は抜ける」と言って人類はそこから抜けていくのです。これが定住の重要さです。
つまり定住することによって、自分たちが今までお世話になった自然的秩序から抜け出て、新しい人間の世界をつくるのです。自然の秩序から抜け出たから、新たに生きるために今度は人間が工夫して人工的な秩序をつくって、猿やチンパンジーとは違う、人間的な社会というものをつくり出していく。そういうきっかけがそこに含まれているわけで、これは極めて重要なことです。
さらに村を営むことの重要性には、いろいろな要素、意義が含まれています。今まで自然的秩序の中で猿やチンパンジーや鹿やイノシシと同格であった人間が、そこから飛び出て自分勝手に自分のための空間を自分で確保するのです。自然の一画をもぎとるのです。猿やチンパンジーは自然の中の植物と一緒ですが、人間だけが初めて自分たち特有のスペースを確保した、それが村になるわけです。
「人類の最初にして最大の大事件」というのは、そういう意味があるわけです。定住するときにスペースを確保した、自分勝手に自然の一画をもぎ取った。これは自然に対する最初の抵抗です。ただ、自分が1人抜けたのではなく、自然界の中から大事な面積、区画をもぎ取ったわけで、これが縄文革命の重要な意義です。
「縄文革命」の重要な点は、先ほど申し上げた道具の造形学的な革新性がありますが、もっと重要な人類の歴史的な意味での革新性といえば「定住」です。定住的な村を営むところです。
人が定住的な村を営むようになったのは日本列島に起きた「縄文革命」だけではありません。いずれ世界各地で始まるのですが「人類の歴史の優等生」と、かねがね高い評価を得てきたのが西アジア、チグリス・ユーフラテス川流域のあたりです。今でも不幸なことにいつまでたってもくすぶった争いが絶えないのですが、いち早く農耕を始めたということで、今、ヨーロッパが大きな顔をしていますが、実は西アジアの文化から刺激を受けてヨーロッパも次の段階にいくのです。
「縄文革命」に対して、ヨーロッパの農耕を基盤にした定住的な始まりを「新石器革命」と呼んでいます。あるいは農耕を始めたということで「農業革命」と呼ばれており、歴史的な意義が高く評価され、それが人類の歴史の優等生の歩みと見られてきたのです。その年代は今からせいぜい1万年ぐらい前です。
縄文革命は1万5000年前ぐらいですから、この何千年の差をどう評価すべきかという話は抜きにしても、日本列島が定住的な生活に飛躍的に到達したというのは歴然としているのです。けれど日本列島は農耕とは無縁でした。昔ながらの旧石器時代以来の狩猟・漁猟・採集の3本柱を基盤にし、定住的な村を営むようになったのです。
それに対して5000年以上遅れて定住的な村を営むようになった西アジアや後のヨーロッパなど、西アジアを先頭グループとする文化の動きというのはずっと遅いのですが、「農耕していた」ということが優等生として評価されています。
日本列島の方が圧倒的に早く新しい段階に飛び込んだのです。新しい段階とは「定住」です。それまでの旧石器時代は、遊動的な生活が基本でした。もちろん何日間とか1カ月ぐらいにわたって、動物を仕留めるためにキャンプ地に滞在するということはあったでしょう。けれどそれは一時的に滞在するということ、あるいは何度も同じ場所に戻ってくるということであって、「ここぞ」と決めた所に腰を据えて住み続ける村というものは、まだできていなかったのです。
定住の開始は人類の歴史にとって極めて重要なことです。土器の発明などというものを超えて、人類の歴史そのものについて大きな意味を持っていたのです。
それまでの遊動的な生活というのは、猿やチンパンジーやゴリラと同じだと言えば、なるほどと思うかもしれません。もっと極端にわかりやすく言えば、鹿やイノシシとも、あるいは植物とも同じ。人類も自然的な秩序の中の1要素にすぎなかったのです。
どういう点で猿やチンパンジーと同じかというと、形も仕草も似ているということもさることながら、大きな自然の摂理に対して同格だったんです。自然的秩序を構成する一要素で、「人だ」と言って威張れたものではない、要素の1つだったということです。
ところが縄文革命、あるいは農業革命、新石器革命によって、自然の秩序から脱却する、抜け出るのです。一人、「私は抜ける」と言って人類はそこから抜けていくのです。これが定住の重要さです。
つまり定住することによって、自分たちが今までお世話になった自然的秩序から抜け出て、新しい人間の世界をつくるのです。自然の秩序から抜け出たから、新たに生きるために今度は人間が工夫して人工的な秩序をつくって、猿やチンパンジーとは違う、人間的な社会というものをつくり出していく。そういうきっかけがそこに含まれているわけで、これは極めて重要なことです。
さらに村を営むことの重要性には、いろいろな要素、意義が含まれています。今まで自然的秩序の中で猿やチンパンジーや鹿やイノシシと同格であった人間が、そこから飛び出て自分勝手に自分のための空間を自分で確保するのです。自然の一画をもぎとるのです。猿やチンパンジーは自然の中の植物と一緒ですが、人間だけが初めて自分たち特有のスペースを確保した、それが村になるわけです。
「人類の最初にして最大の大事件」というのは、そういう意味があるわけです。定住するときにスペースを確保した、自分勝手に自然の一画をもぎ取った。これは自然に対する最初の抵抗です。ただ、自分が1人抜けたのではなく、自然界の中から大事な面積、区画をもぎ取ったわけで、これが縄文革命の重要な意義です。
「縄文の思考」~日本文化の源流を探る インデックス
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第1章 日本列島で起きた歴史的な大事件「縄文革命」
2009年04月15日 (水)
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第2章 発明の力の源は、土地の活気と情報の移動
2009年05月07日 (木)
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第3章 土器の使用が遊動生活から定住生活への転機になった
2009年05月25日 (月)
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第4章 定住生活によって営まれた村には、社会的なルールがあった
2009年06月11日 (木)
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第5章 縄文人は人工的な村を営みながらも、自然と共生していた
2009年06月30日 (火)
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第6章 日本の「文化的遺伝子」は言葉を通して紡がれた
2009年07月17日 (金)
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第7章 現代の言葉に息づく、自然との共生体験の歴史
2009年08月06日 (木)
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第8章 縄文時代、既に「言葉の壁」があったのではないか?
2009年08月07日 (金)
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第9章 縄文時代を知ることは、我々自身を見直すことにつながる
2009年08月10日 (月)
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第10章 縄文人に芽生えた「人間意識」
2009年08月11日 (火)
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第11章 日常生活の役に立たないモニュメントをつくるのは、人間だから
2009年08月12日 (水)
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第12章 「定住したのは縄文の方が大陸より早い」は本当か?
2009年08月13日 (木)
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第13章 文化的遺伝子を継承するために
2009年08月14日 (金)
該当講座
小林達雄 (考古学者/國學院大學名誉教授)
人類史を三段階に分け、第一段階を旧石器時代、第二段階を新石器時代とし、この契機を「農業」の開始に焦点を当てて評価する説があります。ところが、大陸の新石器時代に匹敵する独自の文化が、大陸と隔てられた日本に生み出されました。それが農業を持たない「縄文時代」「縄文文化」です。 縄文文化は土器の制作・使用が....
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