記事・レポート
宮本亜門: 違うから面白い、違わないから素晴らしい
更新日 : 2009年03月30日
(月)
第8章 プロデューサーの熱い想いがブロードウェイを支えている
宮本亜門: ブロードウェイに入った段階のことをお話しすると、オン・ブロードウェイの作品は宣伝費込みで大体10億円かかります。最近、大作では20億円を超えてきました、どんどん巨大化しています。だから皆さんちょっと慎重になって、ツアーで「これはいける」と思ったものでないと投資しないのです。
こういう話をすると、「こんなにリスクが大きくお金のかかるものは、みんなやらないでしょう」と思われるかもしれませんが、ところが、すごい数の作品が待っています。劇場の数以上、それの何倍もの数の作品が常にブロードウェイを狙って、今か今かと待ち受けてている、競争社会なのです。
では、なぜそんなリスキーなことをやるのか。僕はあるブロードウェイの人たちと話しました。みなさん仕事で成功された方ばかりなのですが、ある方はこんなことを言っていました。「人生で賭けてみたい。賭け事ではなくて、自分が好きだと思うことに1回でも賭けてみたい。それが成功したとき本当に自分のこととして喜べる」。
いろいろな考え方があると思います。「お金」という方もいらっしゃるかもしれません。でも、「せっかく1回しかない人生だったら、こういう楽しみがあってもいいじゃないですか」みたいに熱く語る方が多いのも事実です。もしかしたらそういう想いや熱意が、今のブロードウェイを支えているのではないかという気がするのです。自分が心から感動するものを共に創る。それはどんな大人にとっても大きな夢になるはずです。
さあ、ブロードウェイで上演しました——ここから大変なのが、新聞の批評です。特にニューヨークタイムズの批評は厳しいので有名ですが、かといって、批評が悪いからすぐ閉じるという時代でもなくなってきています。
まず1カ月ぐらいプレビュー公演というのをします。その間は舞台を変えてもいいわけです。本番とほとんど同じ値段なのですが、「プレビュー公演を観たい、つくり続けている状態の方がかえって面白い」というお客さんもいらっしゃいます。
そして、いよいよ初日。その日は大パーティです。関係者が全員タキシードで集まり、大盛り上がり。すごいのが深夜、午前0時、ニューヨークタイムズの新聞がみんなに配られるわけです。ワーッとお酒で盛り上がっていたのが突然、批評によって嘆きや怒りに変わることさえあるのです。僕なんか、そのニューヨークタイムズの批評が0時に来るということがわかっていると、その前にはあまり飲めませんでした。
私の場合は3カ月という期間があったので、それほどシビアに思わないし、そんなに悪い批評も出なかったのでよかったのですが、叩かれるときは、「今すぐ止めなさい」という批評が平気で出ます。
けれど、あるプロデューサーは「そんなことは関係ない」と、そのあとニューヨークタイムズの一面を買い取って、「批評家はこう言った。しかし観客はこう言っている」と出しました。結局それは3年もロングランした作品となり、ブロードウェイの名作と呼ばれるようになりました。
ぜひ皆さんもブロードウェイにも行ってください。そこにはいろいろなドラマがひしめいていますから。
こういう話をすると、「こんなにリスクが大きくお金のかかるものは、みんなやらないでしょう」と思われるかもしれませんが、ところが、すごい数の作品が待っています。劇場の数以上、それの何倍もの数の作品が常にブロードウェイを狙って、今か今かと待ち受けてている、競争社会なのです。
では、なぜそんなリスキーなことをやるのか。僕はあるブロードウェイの人たちと話しました。みなさん仕事で成功された方ばかりなのですが、ある方はこんなことを言っていました。「人生で賭けてみたい。賭け事ではなくて、自分が好きだと思うことに1回でも賭けてみたい。それが成功したとき本当に自分のこととして喜べる」。
いろいろな考え方があると思います。「お金」という方もいらっしゃるかもしれません。でも、「せっかく1回しかない人生だったら、こういう楽しみがあってもいいじゃないですか」みたいに熱く語る方が多いのも事実です。もしかしたらそういう想いや熱意が、今のブロードウェイを支えているのではないかという気がするのです。自分が心から感動するものを共に創る。それはどんな大人にとっても大きな夢になるはずです。
さあ、ブロードウェイで上演しました——ここから大変なのが、新聞の批評です。特にニューヨークタイムズの批評は厳しいので有名ですが、かといって、批評が悪いからすぐ閉じるという時代でもなくなってきています。
まず1カ月ぐらいプレビュー公演というのをします。その間は舞台を変えてもいいわけです。本番とほとんど同じ値段なのですが、「プレビュー公演を観たい、つくり続けている状態の方がかえって面白い」というお客さんもいらっしゃいます。
そして、いよいよ初日。その日は大パーティです。関係者が全員タキシードで集まり、大盛り上がり。すごいのが深夜、午前0時、ニューヨークタイムズの新聞がみんなに配られるわけです。ワーッとお酒で盛り上がっていたのが突然、批評によって嘆きや怒りに変わることさえあるのです。僕なんか、そのニューヨークタイムズの批評が0時に来るということがわかっていると、その前にはあまり飲めませんでした。
私の場合は3カ月という期間があったので、それほどシビアに思わないし、そんなに悪い批評も出なかったのでよかったのですが、叩かれるときは、「今すぐ止めなさい」という批評が平気で出ます。
けれど、あるプロデューサーは「そんなことは関係ない」と、そのあとニューヨークタイムズの一面を買い取って、「批評家はこう言った。しかし観客はこう言っている」と出しました。結局それは3年もロングランした作品となり、ブロードウェイの名作と呼ばれるようになりました。
ぜひ皆さんもブロードウェイにも行ってください。そこにはいろいろなドラマがひしめいていますから。
宮本亜門: 違うから面白い、違わないから素晴らしい インデックス
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第1章 「ごめんね。僕ね、悪いけど、最後まで怒らないから」
2009年01月14日 (水)
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第2章 なぜ演出家になったのか
2009年01月23日 (金)
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第3章 「初めてのブロードウェイは怖かった。でも劇場は温かかった」
2009年02月02日 (月)
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第4章 『アイ・ガット・マーマン』の初上演前日に起きた9.11
2009年02月23日 (月)
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第5章 夢にまでみたブロードウェイが『太平洋序曲』で現実に
2009年03月05日 (木)
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第6章 世界で活躍する日本人クリエーターが少ない悔しさ
2009年03月12日 (木)
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第7章 ミュージカルのつくり方
2009年03月19日 (木)
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第8章 プロデューサーの熱い想いがブロードウェイを支えている
2009年03月30日 (月)
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第9章 「舞台はライブ。劇場でなければ得られない体験がある」
2009年04月09日 (木)
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第10章 沖縄が教えてくれたもの。瞬間、瞬間を大切に生き抜きたい
2009年04月30日 (木)
該当講座
宮本亜門 (演出家)
2004年、東洋人初の演出家としてニューヨークのオンブロードウェイにて「太平洋序曲」を上演した宮本亜門氏。演劇・ミュージカル界で最高の栄誉とされるトニー賞4部門にノミネートされ、米国の演劇界でも高い評価を得ました。 その後も次々に国内外で作品を発表し、常に新しい表現を試みるとともに、テレビ番組出演....
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