記事・レポート
宮本亜門: 違うから面白い、違わないから素晴らしい
更新日 : 2009年03月05日
(木)
第5章 夢にまでみたブロードウェイが『太平洋序曲』で現実に
宮本亜門: そのあとタイに疲れを癒しに行きましたが、交通事故に遭ったり、その年はボロボロでした。
しかし翌年、スティーヴン・ソンドハイムという作曲家が、「君の作品をニューヨークでやらないか」という話を持ってきてくれたのです。それが『太平洋序曲』という作品です。日本の新国立劇場で2000年に幕を開けた作品ですが、彼はそれを観ていて、大変興味を持ってくれていたのです。そして記者会見で、「この作品はいつかニューヨークでやるといい」と彼は言っていたのです。
「ブロードウェイのドンと言われている、あの作曲家、スティーヴン・ソンドハイムが? きっとリップ・サービスだね。お世辞で言ってくれたんだね」と言う新聞記者の方もいらっしゃいましたが、結果的には、本気だったようで。2003年に日本人キャストがリンカーンセンター、ケネディーセンターでツアーを終え、そして2004年にオン・ブロードウェイ、全てアジアンアメリカンキャストで上演しました。
僕の夢はやっとそこでかなうわけですが、ただ、この舞台、楽しいブロードウェイミュージカルというイメージでは全くありません。設定は黒船来航の日本です。そのとき、どれほど日本人は驚愕したか。ある人たちはそれを利用しようとする、ある人たちはそれに対立し、戦いさえ始めようとする。混乱した日本を表している作品なのです。
そしてラストシーンは、明治、大正、昭和と、どんどん変わっていき、最後に舞台上で、原爆が起こり全部崩壊します。しかし、その崩壊した原爆のあとに、また日本人が立ち上がり、「Next, next……」、次だ、次だと言いながら起き上がり、またテクノロジーを築いていくというエンディングを迎えます。
そして最後の瞬間、舞台の冒頭で描かれていた、あるシーンが蘇ります。それは昔の、何もまだ知らない、純粋に釣りをしている日本人の夫婦の姿です。その日本人の夫婦が、次々と経済成長を遂げている日本と対比して描かれ、大きな太鼓の音とともに幕が閉じるのです。
「さあ、これから日本はどこにいくんでしょう。日本はアメリカの影響を受け、今こうなっています。これは、日本人が自分で選んできた道なのかもしれない。しかし、またアメリカに従った道でもある」と、実に暗示的なテーマが盛り込まれている苦いミュージカルなのです。
僕のブロードウェイ上演が、まさかこんなスタートになるとは思いませんでした。問題作だけにいろいろな意見も出て、「これはミュージカルではない」という人たちもいました。でも、スティーヴン・ソンドハイムが1976年にブロードウェイで上演して大変な実験作といわれていたものです。そのリバイバル公演が今回の上演なのです。
しかし翌年、スティーヴン・ソンドハイムという作曲家が、「君の作品をニューヨークでやらないか」という話を持ってきてくれたのです。それが『太平洋序曲』という作品です。日本の新国立劇場で2000年に幕を開けた作品ですが、彼はそれを観ていて、大変興味を持ってくれていたのです。そして記者会見で、「この作品はいつかニューヨークでやるといい」と彼は言っていたのです。
「ブロードウェイのドンと言われている、あの作曲家、スティーヴン・ソンドハイムが? きっとリップ・サービスだね。お世辞で言ってくれたんだね」と言う新聞記者の方もいらっしゃいましたが、結果的には、本気だったようで。2003年に日本人キャストがリンカーンセンター、ケネディーセンターでツアーを終え、そして2004年にオン・ブロードウェイ、全てアジアンアメリカンキャストで上演しました。
僕の夢はやっとそこでかなうわけですが、ただ、この舞台、楽しいブロードウェイミュージカルというイメージでは全くありません。設定は黒船来航の日本です。そのとき、どれほど日本人は驚愕したか。ある人たちはそれを利用しようとする、ある人たちはそれに対立し、戦いさえ始めようとする。混乱した日本を表している作品なのです。
そしてラストシーンは、明治、大正、昭和と、どんどん変わっていき、最後に舞台上で、原爆が起こり全部崩壊します。しかし、その崩壊した原爆のあとに、また日本人が立ち上がり、「Next, next……」、次だ、次だと言いながら起き上がり、またテクノロジーを築いていくというエンディングを迎えます。
そして最後の瞬間、舞台の冒頭で描かれていた、あるシーンが蘇ります。それは昔の、何もまだ知らない、純粋に釣りをしている日本人の夫婦の姿です。その日本人の夫婦が、次々と経済成長を遂げている日本と対比して描かれ、大きな太鼓の音とともに幕が閉じるのです。
「さあ、これから日本はどこにいくんでしょう。日本はアメリカの影響を受け、今こうなっています。これは、日本人が自分で選んできた道なのかもしれない。しかし、またアメリカに従った道でもある」と、実に暗示的なテーマが盛り込まれている苦いミュージカルなのです。
僕のブロードウェイ上演が、まさかこんなスタートになるとは思いませんでした。問題作だけにいろいろな意見も出て、「これはミュージカルではない」という人たちもいました。でも、スティーヴン・ソンドハイムが1976年にブロードウェイで上演して大変な実験作といわれていたものです。そのリバイバル公演が今回の上演なのです。
宮本亜門: 違うから面白い、違わないから素晴らしい インデックス
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第1章 「ごめんね。僕ね、悪いけど、最後まで怒らないから」
2009年01月14日 (水)
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第2章 なぜ演出家になったのか
2009年01月23日 (金)
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第3章 「初めてのブロードウェイは怖かった。でも劇場は温かかった」
2009年02月02日 (月)
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第4章 『アイ・ガット・マーマン』の初上演前日に起きた9.11
2009年02月23日 (月)
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第5章 夢にまでみたブロードウェイが『太平洋序曲』で現実に
2009年03月05日 (木)
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第6章 世界で活躍する日本人クリエーターが少ない悔しさ
2009年03月12日 (木)
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第7章 ミュージカルのつくり方
2009年03月19日 (木)
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第8章 プロデューサーの熱い想いがブロードウェイを支えている
2009年03月30日 (月)
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第9章 「舞台はライブ。劇場でなければ得られない体験がある」
2009年04月09日 (木)
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第10章 沖縄が教えてくれたもの。瞬間、瞬間を大切に生き抜きたい
2009年04月30日 (木)
該当講座
宮本亜門 (演出家)
2004年、東洋人初の演出家としてニューヨークのオンブロードウェイにて「太平洋序曲」を上演した宮本亜門氏。演劇・ミュージカル界で最高の栄誉とされるトニー賞4部門にノミネートされ、米国の演劇界でも高い評価を得ました。 その後も次々に国内外で作品を発表し、常に新しい表現を試みるとともに、テレビ番組出演....
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