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「アメリカ大統領選挙から、アメリカ社会を考える」

更新日 : 2008年05月27日 (火)

第4章 民主主義国家らしくない党員集会

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ジェラルド・カーティス: また、党員集会については、「秘密投票ではなくて、民主主義ではないのではないか。党員集会をやめて、全部選挙にすべきだ」という話が去年(2007年)の終わりごろまであったのですが、今は、「いや、この党員集会もなかなかいいな」という意見が多くなっています。

なぜかというと予備選挙をやる場合、候補者が演説をします。オバマが演説をすると野球のスタジアムに2万人も3万人も集ります。ヒラリーもそうです。日本の政治家、総理大臣みたいに、官僚が書いたペーパーを頭も上げないでずっと棒読みするようなことはしません。アメリカの政治家は国民を説得するために、すごく努力して、演説を練習します。

福田さんがこの前、ダボス会議に1日だけ行って演説をしました。もちろん日本語で。だから通訳をつけなければいけない。ほかのほとんどの国の指導者は英語を話せるのですが日本の指導者は英語が話せない。官僚の書いたつまらない演説の原稿を読むだけ。本当に無駄なことです。

アメリカの政治家はパフォーマンスを重視するからテレプロンプターを使います。透明なので、聴衆からは見えません。しかしテレプロンプターを使って も、スピーチはほとんど暗記しています。同じスピーチを何回もやるから、見なくてもいいのですが、一応テレプロンプターを使って自然にしゃべる印象を与え るんです。ですから予備選挙だけだと、「どちらが、演説がうまいか」くらいのことしか分かりません。その地域の人たちにはどういう話をすればいいか、専門家が調査をして、聞いている人が喜ぶようなスピーチ原稿を書けばいいわけですから。

しかし党員集会は、候補者が誰かのリビングルームに行って話をします。そこにいるのは10人とか30人とか、その地域の人たちです。フェイス・ ツー・フェイスで話をするわけです。今、アメリカでは「予備選挙はwholesale politics、党員集会はretail politics」という言葉があります。やっぱりリテール、小売の政治も大事だということで、「党員集会はいいんだ」というのが、アメリカで今一番多い 考えになっています。

今年こういう選挙になったので、アメリカのこのめちゃくちゃな制度に対して「改革すべきだ」という意見はほとんど消えてしまいました。11月を過ぎ て、選挙が全部終わった後に冷静になって、「やはりちょっと直すべきだ」という意見が出てくるかもしれませんが、今のところは「これがいい」ということなのです。

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