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「アメリカ大統領選挙から、アメリカ社会を考える」

更新日 : 2008年06月04日 (水)

第9章 ヒスパニックの増加は、日本の自動車メーカーにも影響を及ぼす

ジェラルド・カーティス: ヒスパニックの中には英語が話せない人が結構います。アメリカの場合は英語を公用語として定めていないので、テキサスとかカリフォルニアではバイリンガル・エデュケーションをやっています。非常に残念だと思うのは、そういう所では子どもが英語を覚えなくても何とかなってしまう、学校を卒業できてしまうのですが、プロフェッショナルになるには、すごいハンディーキャップになるのです。
『政治と秋刀魚 日本と暮らして四五年』
『政治と秋刀魚 日本と暮らして四五年』(日経BP社)は私の自伝的日本人論というような本で、自分のことをだいぶ書いているのですが、私の親父はウクライナから10歳のとき、アメリカに移民しました。英語が全然話せなかったので、学校では小学校1年生にさせられました。前に親父に聞いたのですが、一番悔しかったのは体育の時間で、小さい子どもと一緒にやるのがすごく恥ずかしかったそうです。一所懸命勉強して、飛び級して、最後には同じ年齢の人たちと一緒に高校を卒業することができましたが、苦労したのです。

今、そういう苦労をするアメリカ人はいません。移民者に対して優しいのです。例えばニューヨークではいろいろなバイリンガル・エデュケーションが行われています。スペイン語とか中国語とか。チャイナタウンに行くと中国語と英語のバイリンガル・エデュケーションです。私はあまり賛成できません。

やはりちゃんと英語を身につけることがその人の将来にとって非常に重要だと思うのです。ろくな英語も書けない、話せない、じゃあスペイン語ができるかというと、教養のあるスペイン語ではない。全部中途半端になってしまう。今、そういう問題がアメリカにはあります。

いずれにしても、ヒスパニックのアメリカへの影響力がますます強くなっていっています。例えば今、ヒスパニック系の音楽は人気があります。アメリカを見ていると、これからはヒスパニックの影響がもっと大きくなると思います。

この前、日本の大手自動車メーカーの会長さんや幹部とお会いしたのですが、「2050年に4分の1のアメリカ人がヒスパニックになると考えると、どういう車をつくればいいか。おそらく自動車メーカーにとって、非常に重要な長期戦略が必要になる」と話しました。

ヒスパニック社会には特徴があります。1つは家族制度を大事にするということです。シングルマザーが比較的少ない、子どもをたくさん産む、教育水準はそれほど高くない——そういうヒスパニックの家族形態を考えると、欲しい車はあまり高くなくて、でもたくさん人が乗れることが重要です。そういうことを話しました。自動車会社の方たちはきっと全部知っていたことだと思うのですが、日本人は行儀がいいから、とても感心したような顔をしてくださいました(笑)。

関連書籍

政治と秋刀魚—日本と暮らして四五年

カーティス,ジェラルド
日経BP社

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