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更新日 : 2014年10月08日 (水)

第8章 デジタル世界




IN TRANSIT

 情報を〈森羅万象の写し〉とするとらえ方があります。ピューリッツァー賞の科学ジャーナリストが書いた『インフォメーション—情報技術の人類史』(J・グリック/新潮社)は、まさにその認識の下で情報、または情報元素であるデータの写し方、伝え方、使い方の歴史を通じて、私たち人間が住む世界を捉え直そうと試みている壮大なスケールの文明史です。




 一方「情報技術」がIT用語の枠内で使われるときには、常にデジタル情報に限定されます。いま私たちはまさにその空間で生きているわけですが、決して安穏とした世界ではありません。デジタル情報通信技術は人間社会の将来に幸福をもたらす道具であるとしている『IT幸福論』(岩本敏男/東洋経済新報社)によれば、技術革新は常にこれまでの価値観やシステムをことごとく時代遅れにし、新しい価値観やシステムに取って代わられようとしている。それゆえにITの本質を的確に捉え、生き残りのための方策を案出しなければならない、と唱えています。トフラーの『第三の波』から説き起こし、ネットワーク、クラウドコンピューティング、スマートフォン、さらにビッグデータへと進展した過去半世紀の経過を踏まえての議論は平明かつ適正です。しかし、庶民のITに対するいらだちや不安感が忘れられているのは物足りません。

 それはもしかしたら『ウェブ文明論』(池田純一/新潮選書)がいみじくも述懐している精神性(革新を生み出す資質)の欠如なのかもしれません。この本は、文明装置としてのインターネットに焦点を当て、情報技術がなぜ米国で開発されたのか、それは取りも直さず、なぜ日本ではなかったのかを検証しています。その関連で、米国の科学史家によって書かれたデジタル世界の創世記『チューリングの大聖堂』(G・ダイソン/早川書房)を読むと、情報革命魂は米国で、醸成され、発揮されたことがよくわかります。少なくとも文明としてのIT装置は日本では、その発想すら生まれなかったことを痛感させられてしまいます。

 

ところで『IT幸福論』で、最も新しい幸福の道具としてビッグデータの可能性に言及しています。しかしその正体は、実はわかりにくいのです。『ビッグデータの正体』(V・M・ショーンベルガー/講談社)は、ビッグデータを情報の産業革命と評価し、もしかしたら世界のすべてを変えるのではないかと、さまざまな事例を挙げて明らかにしようとしています。ただし、ビッグデータを「事業に役立つ知見を導出するためのデータ」、ビッグデータビジネスを「ビッグデータを用いて社会・経済の問題解決や、業務の付加価値向上を行う、あるいは支援する事業」(経済産業省)に囚われてしまうと、「世界のすべてを変える」とは読めなくなってしまいます。


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