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カフェブレイクブックトーク
更新日 : 2014年10月01日 (水)

第5章 虚実皮膜(2)




 このところ企業のトップが「この度は申し訳ありませんでした」と‘45度お辞儀’をする会見の模様をメディアで頻繁に見ます。とりわけ食の安全に絡むコンプライアンス違反や欺瞞などは、ホットイッシューの期間中の新聞報道だけではなかなか事の真相にたどり着かない内にうやむやになり、やがてニュース性が薄れてしまうにつれて一切触れられなくなってしまいます。そしてそうした問題は、‘フツー’の人たちの間では、〈七十五日〉の関心事で終わってしまいます。

  『ブラックボックス』(篠田節子/朝日新聞出版)は、地方のサラダ工場を舞台として、食と環境の崩壊連鎖に焦点を当てています。先だっての一流ホテルレストランでの偽装メニューやレトルト食品へのテロ行為などの事実を、物語、しかも娯楽小説を通じて人びとに訴えています。


 コンプライアンスからの連想で「権力は腐敗する」の名言が思い出されます。これは、19世紀英国の歴史家で政治思想家のアクトンの箴言ですが、現代日本においてそういう事実がなかったら『法服の王国 小説裁判官〈上・下〉』(黒木亮/産経新聞出版)は書かれなかったでしょう。裁判の象徴は、ギリシャ神話の女神テミス、ローマ神話では女神ユースティティアで目隠しをして右手に剣を垂らし、左手に秤、吊り秤を掲げている正義の女神像です。しかし、しばしば公平性に首を傾げざるを得ない判決がなされることも、少なからずあるようです。グローバルな視野で経済小説を書いてきた黒木は、その実態をこの作品で糾弾しています。


 ‘申し訳ありません’状態は企業体だけではありません。また、裁判に持ち込むまでもなく正義や公平性や無謬を問うことは、新聞・放送などのメディアの役割です。『乱気流』(2004年)である新聞社の不正を暴いた反骨の経済小説作家は、今度は『第四権力—スキャンダラス・テレビジョン』(高杉良/講談社)で、ある民間テレビ局での権力闘争を追及しています。

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