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更新日 : 2014年10月03日 (金)

第6章 経世済民




 宅配の新聞に連載されていた時から愛読していた『天佑なり〈上・下〉』(幸田真音/角川書店)は第一級の経済小説との評価を得ましたが、それは主人公の高橋是清が第一級の政治家であったからでしょう。高橋の波瀾万丈の人生を綴った伝記小説でありながら、近代国家を目指した激動の明治・大正・昭和を現場主義を貫いた政治家の行動を読み進めていくうちに「経世済民」の四字熟語を思い浮かべざるを得ませんでした。それは、中国の古典に登場する語で、文字通りには「世を經(おさ)め、民を濟(すく)う」意味です。これを略すると「経済」ですが、その本意は、より広く政治・統治・行政全般を指示している用語です。

 新聞に連載されていた当時、ギリシャの財政危機が喧伝されていました。日本政府が日露戦争の戦費調達のために高橋是清をロンドンに派遣し、日本国債を初めて成功させたことが物語のハイライトとして書かれています。現在、日本の国債は千百兆円を超え、世界第2位の借金国と言われています。『国債暴落』(高田創/中央公論新社)はその危機的状況を解説しています。副題に「日本は生き残れるのか」とありますが、一体これからどうなるのでしょうか。不安は募るばかりです。国債は国の借金ですが、『国家はなぜ衰退するのか〈上・下〉』(D・アセモグル&J・A・ロビンソン/早川書房)では、それだけでなく、国を成り立たせているさまざまな制度、とりわけ政治・経済上のそれに要因があると唱えています。わが国はもとより、経済的な急成長を遂げる中国やインドも今後は頭打ちになる中で、突出して急進する国も現れると分析する『ブレイクアウト・ネーションズ』(R・シャルマ/早川書房)から、私たちは何を、どう学べば良いのでしょうか。わが国の経世済民にこの本は何を伝えようとしているのでしょうか。

 経世済民を実現するには、リーダーシップとガバナンスにその力量を発揮しなければならないのは自明のことです。『歴史という武器』(山内昌之/文藝春秋)は、現代のわが国はもとより世界の宰相たちの力量を、歴史学によって読みとることを提唱しています。また、グローバル化やネット化の進展によって変化する現在の社会構造下での統治のありかたについて『ガバナンスとは何か』(M・ベビア/NTT出版)が、代表的な理論を紹介しながら企業と国家の問題としてではなく、地球規模に論じています。
 率先・統治などの高所なレベルでの議論はそれとして、下世話な経世済民はわが国の直近の政治・経済・社会のさまざまな問題の解決が求められていることでしょう。とりわけ消費税の増加に神経を尖らせている昨今は、庶民層を済民する経済政策に期待と不安が交差しています。辛口の経済学者・浜矩子は、『「アベノミクス」の真相』(浜矩子/中経出版)で〈三本の矢〉政策を断罪しています。論調はいささか扇情的ですが、一般庶民も納得がいく経済政策論を『新・国富論』(浜矩子/文春新書)で冷静に論じています。

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