記事・レポート

気になる本たち

好きな本がみつかる、ブックトークより

カフェブレイクブックトーク
更新日 : 2014年09月26日 (金)

第3章 力強い、美しい國ニッポン(2)




現代の〈力強い…‘ニッポン’〉に少し目を転じると、大震災復興やデフレ脱却などへの祈願を込めて多くの本が出版されています。とりわけ原発をテーマとした本は三年たったいまでも非常に多く、その視点はますます増殖し、輻輳し、それがかえって問題を茫漠とさせてしまっています。その中にあって『福島と原発 誘致から大震災への五十年』(福島民報社編集局/早稲田大学出版部 ※編注:2014年3月続編が刊行)はまさに〈原点に帰れ〉の一点でしょう。原発事故現場から視た日本のエネルギー政策の事実を粛々と記録したこの本から、私たちはその問題の本質、背景、そして今後の政策への教訓などを的確に読みとることができます。



 しかし、劇作家・倉本聰が本の帯にいみじくも書いているように、〈人の噂も七十五日〉の人たちがいまこの本をあえて手にするとは思えません。しかるに、キャリア官僚によるリアルな告発小説『原発ホワイトアウト』(若杉冽/講談社)は、そういう人びとの心にも染み通ることでしょう。また古代から国の中央に蹂躙され、搾取された東北の民草の物語を書いてきた盛岡市在住の作家が書いた『東北・蝦夷の魂』(高橋克彦/現代書館)は、かつての〈絆〉族に「それでもわれわれは‘ニッポン’人として生きていくんだぞ!!」とメッセージを発しています。

 「復旧」ではなく、〈新しいモノの創造〉と前向きに捉えようとする想いは、あの大災害からしばらく経って人びとの気持ちに芽生え、以来その気持ちが募りつつあります。しかし〈脱原発vs原発再稼働〉はじめ、復興の実質的な動きは鈍重です。『復興文化論 日本的創造の系譜』(福嶋亮大/青土社)は、そうした停滞状態を脱却する意欲を刺激するかも知れません。基本的には日本文学評論の本書で著者は、日本文化に創造性が満ち溢れ、新しい文学が興ったのは、多くの場合、何らかの争乱の後であるという仮説を事例を挙げて述べています。たとえば7世紀の白村江の戦いや壬申の乱の後に白鳳文化が開け、文学では『万葉集』や『古事記』などが編纂された。平安末期の12世紀後半に起こった源平合戦の後には鎌倉に五山文化が栄え、文学では『平家物語』が生まれた、などなどです。少々荒っぽい論理ですが、‘ニッポン’文学の特徴は、『かがやく月の宮』での無常観や『日本美を哲学する あはれ・幽玄・さび・いき』(田中久文/青土社)に溺れてしまうのではなく、戦争や大災害の復興のエネルギーを反映し、新しい活気溢れる文学表現を創り出さなければならないとの主張は、一考に値します。そしてこの本を手にしたとき、3.11大災害復興の新展開を日本文化に限定して考えるのではなく、「経世」(経世済民=政治・経済・社会・文化を包括した統治)の空間において考えることが重要です。

気になる本たち インデックス