記事・レポート
宮城県の村井嘉浩知事と、竹中平蔵ほか4人の専門家が本音で語る
『日本大災害の教訓』出版記念シンポジウム
東京政治・経済・国際
更新日 : 2012年06月15日
(金)
第8章 リーダーシップなきこの国で、我々はいかに生き延びるか
竹中平蔵: 村井知事のお話にもありましたが、神戸港のコンテナ取扱量は、1990年は世界第5位でしたが、大震災の95年には23位に、2009年には46位にまで下落しました。復興に時間がかかると、一度逃げた需要は戻ってこないのです。復興予算が通るまでに、阪神・淡路大震災のときは約4カ月かかりましたが、今回は約8カ月かかりました。このスピード感について、現場の知事はどのようにお感じになりましたか。
村井嘉浩: 正直、遅いと感じました。阪神・淡路大震災の被害を“点”とすれば、今回は大きな“面”の被害でしたし、原発事故という複合的な問題もありましたので、同じように比べることは難しいとは思います。しかし被災者の側からすると、やはり時間がかかり過ぎたと感じます。
我々は相当早い段階で復興計画を作っておりました。しかし残念ながら、国の財源が確定しないし、規制緩和がどこまで認められるかわからなかったために、身動きが取れませんでした。最終的には我々の要望はほとんど認められましたが、国の対応が遅れた分、遅れてしまったということになります。
竹中平蔵: 国の対応が遅れた理由として、客観的には「衆参のねじれ」で国会がなかなか機能しなかったということが挙げられます。しかし本当にそれだけでしょうか。船橋先生はどのようにお考えになりますか。
船橋洋一: 3月11日にはメルトダウンが始まり、翌日には1号機が水素爆発したのですが、両日とも菅さんは、なぜか与野党党首会談をやっているんです。もちろん与野党党首会談は重要ですが、平時から有事に迅速に切り替えることが、日本は国としてできないんですね。地震が多い国であるにもかかわらず、原発を54基も抱えているのですから、「人間安全保障国家」というビジョンを立てて、国がリスクに真正面から取り組む仕組みや態勢をつくらなければなりません。
東北の復旧はもちろん重要です。しかし福島原発の負の遺産を清算しゼロから出直し、日本全体の再建につなげる「国づくり」という大きなビジョンの基でやらないと、日本全体が神戸港の「失われた時間」と同じになってしまうのではないかと、私は危惧しています。
竹中平蔵: 市川先生は明治大学の危機管理研究センターの所長もしておられますが、今の船橋さんの問題提起をどのようにご覧になりますか。
市川宏雄: 船橋さんがおっしゃった問題の背後には、文化的な背景や社会運用の仕組みが関係していると思います。日本はずっとリーダー不在できた国で、みんなの組み合わせでこれまでやってこられたことが成功体験になっています。災害時にはリーダーシップは必要ですが、日本で急に「リーダーシップを出せ」といっても無理なんです。
諸外国を見れば、日頃からリーダーシップが強い国は、やはり災害時もリーダーシップが働きます。日本は長年リーダーがいない状態でやってきたのですから、「リーダーがいない国での対応をどうするか?」という議論があってもいいと思います。
災害時に役立つのは、政府や自治体による「公助」よりも、「自助」と「共助」といわれています。「災害時に自分を守るのは自分しかいない」という認識がない限り、災害におけるリスクの軽減が行えないのは必然です。また、阪神・淡路大震災では倒壊家屋の下敷きになって救出された人の約8割は、近隣住人によって助けられたと言われています。「リーダーシップなき国においてどうするか?」といえば、皮肉ですが、その辺に答えを探さないといけないわけです。もちろん、これは理想ではありません。今回のことで国が変わらないなら、日本の未来はありません。
竹中平蔵: 最後に、知事からどうぞひと言。
村井嘉浩: 『日本大災害の教訓』を読みました。私が知らないことも、たくさん書かれていました。外部から皆さんに検証していただいたこの本が売れることが、次の大きな災害に備えることにつながるのではないかと思います。ですので、皆さんもぜひPRをしてください。執筆したご本人からは言えないと思いますので、私が代わって言わせていただきました(笑)。
竹中平蔵: ありがとうございます(笑)。2011年、日本はスーダンを抜いて、世界で最大の援助受け入れ国になりました。世界の支援に対する最大の恩返しは「私たちはこんなに立派に復興した」と見せることだと思います。
その最前線に立って、村井知事は、これからすぐ仙台にお戻りになって頑張ってくださるそうです。我々も力を合わせて、復興の道筋を共に築いて参りましょう。(終)
村井嘉浩: 正直、遅いと感じました。阪神・淡路大震災の被害を“点”とすれば、今回は大きな“面”の被害でしたし、原発事故という複合的な問題もありましたので、同じように比べることは難しいとは思います。しかし被災者の側からすると、やはり時間がかかり過ぎたと感じます。
我々は相当早い段階で復興計画を作っておりました。しかし残念ながら、国の財源が確定しないし、規制緩和がどこまで認められるかわからなかったために、身動きが取れませんでした。最終的には我々の要望はほとんど認められましたが、国の対応が遅れた分、遅れてしまったということになります。
竹中平蔵: 国の対応が遅れた理由として、客観的には「衆参のねじれ」で国会がなかなか機能しなかったということが挙げられます。しかし本当にそれだけでしょうか。船橋先生はどのようにお考えになりますか。
船橋洋一: 3月11日にはメルトダウンが始まり、翌日には1号機が水素爆発したのですが、両日とも菅さんは、なぜか与野党党首会談をやっているんです。もちろん与野党党首会談は重要ですが、平時から有事に迅速に切り替えることが、日本は国としてできないんですね。地震が多い国であるにもかかわらず、原発を54基も抱えているのですから、「人間安全保障国家」というビジョンを立てて、国がリスクに真正面から取り組む仕組みや態勢をつくらなければなりません。
東北の復旧はもちろん重要です。しかし福島原発の負の遺産を清算しゼロから出直し、日本全体の再建につなげる「国づくり」という大きなビジョンの基でやらないと、日本全体が神戸港の「失われた時間」と同じになってしまうのではないかと、私は危惧しています。
竹中平蔵: 市川先生は明治大学の危機管理研究センターの所長もしておられますが、今の船橋さんの問題提起をどのようにご覧になりますか。
市川宏雄: 船橋さんがおっしゃった問題の背後には、文化的な背景や社会運用の仕組みが関係していると思います。日本はずっとリーダー不在できた国で、みんなの組み合わせでこれまでやってこられたことが成功体験になっています。災害時にはリーダーシップは必要ですが、日本で急に「リーダーシップを出せ」といっても無理なんです。
諸外国を見れば、日頃からリーダーシップが強い国は、やはり災害時もリーダーシップが働きます。日本は長年リーダーがいない状態でやってきたのですから、「リーダーがいない国での対応をどうするか?」という議論があってもいいと思います。
災害時に役立つのは、政府や自治体による「公助」よりも、「自助」と「共助」といわれています。「災害時に自分を守るのは自分しかいない」という認識がない限り、災害におけるリスクの軽減が行えないのは必然です。また、阪神・淡路大震災では倒壊家屋の下敷きになって救出された人の約8割は、近隣住人によって助けられたと言われています。「リーダーシップなき国においてどうするか?」といえば、皮肉ですが、その辺に答えを探さないといけないわけです。もちろん、これは理想ではありません。今回のことで国が変わらないなら、日本の未来はありません。
竹中平蔵: 最後に、知事からどうぞひと言。
村井嘉浩: 『日本大災害の教訓』を読みました。私が知らないことも、たくさん書かれていました。外部から皆さんに検証していただいたこの本が売れることが、次の大きな災害に備えることにつながるのではないかと思います。ですので、皆さんもぜひPRをしてください。執筆したご本人からは言えないと思いますので、私が代わって言わせていただきました(笑)。
竹中平蔵: ありがとうございます(笑)。2011年、日本はスーダンを抜いて、世界で最大の援助受け入れ国になりました。世界の支援に対する最大の恩返しは「私たちはこんなに立派に復興した」と見せることだと思います。
その最前線に立って、村井知事は、これからすぐ仙台にお戻りになって頑張ってくださるそうです。我々も力を合わせて、復興の道筋を共に築いて参りましょう。(終)
関連書籍
『日本大災害の教訓—複合危機とリスク管理』
竹中平蔵, 船橋洋一【編著】東洋経済新報社
宮城県の村井嘉浩知事と、竹中平蔵ほか4人の専門家が本音で語る
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2012年06月14日 (木)
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第8章 リーダーシップなきこの国で、我々はいかに生き延びるか
2012年06月15日 (金)
該当講座
『日本大災害の教訓~複合危機とリスク管理~』
出版記念シンポジウム
竹中平蔵 (アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学名誉教授)
船橋洋一 (公益財団法人国際文化会館 グローバル・カウンシル チェアマン)
市川宏雄 (明治大学専門職大学院長 公共政策大学院ガバナンス研究科長・教授 )
西川智 (国土交通省 土地・建設産業局 土地市場課長 / 工学博士)
吉岡斉 (九州大学 教授 / 副学長)
村井嘉浩 (宮城県知事)
船橋洋一 (公益財団法人国際文化会館 グローバル・カウンシル チェアマン)
市川宏雄 (明治大学専門職大学院長 公共政策大学院ガバナンス研究科長・教授 )
西川智 (国土交通省 土地・建設産業局 土地市場課長 / 工学博士)
吉岡斉 (九州大学 教授 / 副学長)
村井嘉浩 (宮城県知事)
竹中平蔵(慶應義塾大学教授)船橋洋一(一般財団法人日本再建イニシアティブ理事長)、市川宏雄(明治大学専門職大学院長)、西川智(国土交通省土地・建設産業局土地市場課長)、吉岡斉(九州大学教授)、村井嘉浩(宮城県知事)東日本大震災の被害詳細、原因、教訓を世界の人々と共有し、後世へ伝えることを目的に、各分野の専門家が執筆した『日本大災害の教訓』出版シンポジウム。
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