記事・レポート

本から「いま」が見えてくる新刊10選 ~2025年1月~

更新日 : 2025年01月21日 (火)

毎日出版されるたくさんの本を眺めていると、世の中の”いま”が見えてくる。
新刊書籍の中から、いま知っておきたい10冊をご紹介します。

今月の10選は、『庭の話』、『信頼と不信の哲学入門』など。あなたの気になる本は何?

※「本から「いま」が見えてくる新刊10選」をお読みになったご感想など、お気軽にお聞かせください。











庭の話
宇野常寛 / 講談社


ありのままの自然でも、人の手の管理が行き届いているでもなく、その土地の特性に逆らわず、自然と人の手が交錯し、多様な生命が共に生きている。「庭」がそんな空間だとしたら、それを社会構築の指針にすることは可能なのかー

書籍や雑誌の出版、オンラインサロンの主催、リアルイベントの企画など、メディア横断的に活動する批評家・宇野常寛の新著は、「庭」と情報社会論を接続した刺激的な論考です。
多くの人が、デジタルプラットフォーム上で自己充足的な時間を過ごすことが生活の中心になってしまった現在を批判的に検討し、フランスの庭師ジル・クレマンの『動いている庭』という作庭思想を手がかりに、就労支援施設や銭湯などの実空間での事例から国分功一郎、吉本隆明、ハンナ・アーレントなどの哲学・社会思想までさまざまなトピックを通過しながら、”プラットフォームから庭へ”の変化と実装の可能性を探っていきます。

「庭」的な空間、あるいは関係性について考えてみることは、人と自然はもちろん、人と人、人とシステム、人とモノなどの関わりかたについて、新たな視点をもたらしてくれます。
昨今少しずつ増えている、庭と社会思想を接続する考察の中でも、特に挑戦的で実践的な一冊の登場です。

 

信頼と不信の哲学入門
キャサリン・ホーリー / 岩波書店
社会は信頼を土台に成り立っている、と言っても過言ではないように思います。しかし、信頼とは何か、と改めて問うことはほとんどないのではないでしょうか。この本は、タイトルにあるように「信頼」についての哲学の入門書です。興味深いのは「不信」についても深く検討されていること。 そもそも信頼とは?と考えてみると自分自身の行動を見直すきっかけになるかもしれません。
 

生きるための読書
津野海太郎 / 新潮社
86歳の自身を「もうじき死ぬ人」と呼ぶ編集者・津野海太郎は、「最後のお祭り読書」と称して、それまで敬遠していたという30代40代の人文系の研究者の本を読み始めます。半世紀以上にわたる広範な読書歴を持ちながら、自身の半分以下の年齢の書き手の文章に感銘を受け、気づきを得ていく様子は、こんなふうに本が読めたらいいなと思わされます。取り上げられる伊藤亜紗、森田真生、千葉雅也など、現代を代表する人文系の書き手たちの著作へのガイドブックとしてもおすすめです。
 

大きなシステムと小さなファンタジー
影山知明 / クルミド出版 
外資系コンサルから一転、2008年に国分寺でカフェ「クルミドコーヒー」を開いた著者が描く、これからの社会の理想の姿。カフェでの日々の気づきはもちろん、「クルミド出版」の立ち上げ、地域通貨「ぶんじ」の発行など、独自の実践を通じてじっくり考えてきたことが詰まっています。スケールの大きなシステムの中では見えなくなっていること、忘れてしまいがちなことに気付かされます。
 

人はなぜ物を愛するのか
「お気に入り」を生み出す心の仕組み
アーロン・アフーヴィア / 白揚社  
ミシガン大学のマーケティングの教授による、タイトル通りのテーマを科学的に追求した本。人に向けられてしかるべき愛という感情が、なぜモノに対しても発動していくのか(ちなみに、本書では、スポーツなどの活動や自然・動物などもモノに含まれます)。モノを愛する状況をつくる要素を「リレーションシップ・ウォーマー(関係を温めるもの)」と呼び、独自の分析が展開されていきます。モノと人の関係は昨今見直されつつあることの一つ。物への愛を通じて人の本質にせまる、興味深い研究書です。
 

東京裏返し 都心・再開発編
吉見俊哉 / 集英社 
社会学者の吉見俊哉による東京のまち歩き本の第2弾。都市の風景をテクストに見立て、ルートに現れる光景に土地の歴史を重ねながら、批評的に読み解いていきます。今回は、渋谷、新宿、六本木など激しい再開発が行われる東京の南側を歩きながら、都市の記憶が失われることに警鐘を鳴らします。今の東京の風景はどのように形作られてきたのか、そしてどのように移り変わっていくのか。東京で働く、暮らす人びとに問う、思想的実践としての街歩きのすすめです。
 

ことぱの観察
向坂くじら / NHK出版 
「友だち」の定義を書いて下さい、と言われたら、どう書きますか?これは実際に本の中で問われる設問です。本書は、詩人であり、芥川賞候補となった作品を書いた小説家であり、小学生から高校生までを対象とした私設の国語塾を運営する著者による言葉の観察エッセイ。タイトルの「ことぱ」とは言葉のこと。「Pの音がかわいいから」というのがそう呼ぶ理由だそうです。もっと自由に、のびのびと言葉と触れ合い、誰かと一緒に考えてみたくなります。
 

マンガでわかる カルロ・ロヴェッリの物理学
ルーカ・ポッツィ / 山と渓谷社 
世界的ベストセラーとなった『時間は存在しない』で知られる物理学者カルロ・ロヴェッリと、アーティストである著者ルーカ・ポッツィの対話をグラフィックノベル化した一冊。ロヴェッリは彼が提唱するループ量子重力理論のエッセンスを「世界は石(=もの)ではなく、キス(=関係)の網目でできている」と表現します。科学とアートの境界を超え、詩的で創造的でありながら、現代物理学の入門書ともなる一冊。
 

脱「学校」論
誰も取り残されない教育をつくる
白井智子 / PLANETS 
26歳で沖縄でフリースクールを開校し、以来30年近くにわたって「誰も取り残されない教育」づくりに奔走してきた著者が提案する、「学校」をアップデートするための提案の書。幼少期に海外から日本に移り住み、日本の学校教育に感じた違和感を出発点に、フリースクールの校長、NPOの代表などを務めてきた著者の現場経験から書かれた言葉には、強いリアリティがあります。大人も子供も関係なく、学校教育を見直すことは、国の未来を見直すことにつながることに気付かされます。
 

ヘタレ人類学者、沙漠をゆく
僕はゆらいで、少しだけ自由になった。
小西公大 / 大和書房 
インドの沙漠地帯・ジャイサルメールに暮らす現地の家族のもとに通ってきた人類学者の体験記。テーマは「ヘタレ」と「ゆらぎ」です。自身に染みついた当たり前が揺さぶられ、予想外の出来事になすすべもなく飲み込まれ、”学者”という権威的なイメージを覆す等身大の人間の姿が描かれます。戸惑い続けながら違いを受け止め合い、学び合う彼らの関係は、軋轢や衝突が絶えない世界の中で、他者と共に生きる方法が一つだけではないことを教えてくれます。
 
 

庭の話

宇野常寛       
講談社

信頼と不信の哲学入門

キャサリン・ホーリー 
岩波書店

生きるための読書

津野海太郎      
新潮社

大きなシステムと小さなファンタジー

影山知明       
クルミド出版

人はなぜ物を愛するのか「お気に入り」を生み出す心の仕組み

アーロン・アフーヴィア 
白揚社

東京裏返し 都心・再開発編

吉見俊哉       
集英社

ことぱの観察

向坂くじら      
NHK出版

マンガでわかる カルロ・ロヴェッリの物理学

ルーカ・ポッツィ   
山と渓谷社

脱「学校」論:誰も取り残されない教育をつくる

白井智子       
PLANETS

ヘタレ人類学者、沙漠をゆく 僕はゆらいで、少しだけ自由になった。

小西公大       
大和書房