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宮城県の村井嘉浩知事と、竹中平蔵ほか4人の専門家が本音で語る

『日本大災害の教訓』出版記念シンポジウム

東京政治・経済・国際
更新日 : 2012年06月12日 (火)

第6章 都心にあふれた帰宅難民に、帰宅難民を出さないヒントがあった

市川宏雄
市川宏雄(明治大学専門職大学院長/公共政策大学院ガバナンス研究科長・教授)

竹中平蔵: ここからは市川宏雄先生と船橋洋一先生にも加わっていただき、「今回の大災害の教訓」と「復興の道筋」の2点について議論したいと思います。

市川先生は『日本大災害の教訓』の中で、東京で起きた帰宅難民等の問題を、船橋先生は官邸で起きたガバナンス危機を分析してくださいました。詳細はぜひみなさんに本をお読みいただくとして、分析から教訓として言えることを1つだけ挙げるとすれば、どのようなものになりますか。

市川宏雄: 今回東京は、来るべき首都直下地震を前に、大規模な予行演習を行ったことになります。東京圏(東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県)の人口は約3,500万人で、昼間には東京の都心3区に約350万人がいます。これは世界に類を見ない数であり、帰宅難民というのは東京ならではの特異現象です。これが震災でどうなるかということを今回は学んだわけです。 

教訓の最大のポイントは「情報の欠如がいかに人々の行動に影響を与えるか」わかったことです。あのとき、みんな家族が心配で家に帰ったわけです。これをうまくクリアできれば、次のときは、人々は自宅に帰らないで済む可能性があります。これが今回の大きな教訓だったと思います。

船橋洋一: 私は特に原発について申し上げますが、教訓としては「備えがなければ、いざというときには全く役に立たない」ということです。東京電力と政府の備えに非常に問題が多いのです。

吉岡先生が本に書いていらっしゃいますが、政府は東京電力の能力の範囲内で対応しようとしました。原子力安全・保安院は何をしていたかというと、東京電力に対して「今、どうなっているんだ? 早く情報を上げろ。なんでそんなに遅いんだ?」とせっついていただけです。規制する側と規制される側の真剣勝負、規制する側の専門知識など、非常に基本的な備えを怠ってきた。

「Thinking(about)the unthinkable.」という言葉がありますが、日本は安全保障について最悪シナリオを考えるのが苦手ですね。危機管理ではリーダーシップが重要になるのですが、普段から優先順位をつけること、議論を尽くすこと、説得すること、こうしたことをせずに全て先送りしているから、いざというときドタバタする。ただし、指示というのは出す側と受ける側の共同作業ですので、リーダーシップと同様にフォロアーシップの資質も問われます。政治家と官僚の共同作業では、大きな課題を残したと思います。今回はできなかったことがたくさんあります。

今度、原子力規制庁がつくられる予定ですが、看板をすげ替えて、経産省から環境省に振り替えても、本当の危機管理体制がつくれるのか、事故が発生したときの危機対応ができるのか、危機コミュニケーションがやれるのか、しっかり議論する必要があります。

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関連書籍

『日本大災害の教訓—複合危機とリスク管理』

竹中平蔵, 船橋洋一【編著】
東洋経済新報社


該当講座

『日本大災害の教訓~複合危機とリスク管理~』
竹中平蔵 (アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学名誉教授)
船橋洋一 (公益財団法人国際文化会館 グローバル・カウンシル チェアマン)
市川宏雄 (明治大学専門職大学院長 公共政策大学院ガバナンス研究科長・教授 )
西川智 (国土交通省 土地・建設産業局 土地市場課長 / 工学博士)
吉岡斉 (九州大学 教授 / 副学長)
村井嘉浩 (宮城県知事)

竹中平蔵(慶應義塾大学教授)船橋洋一(一般財団法人日本再建イニシアティブ理事長)、市川宏雄(明治大学専門職大学院長)、西川智(国土交通省土地・建設産業局土地市場課長)、吉岡斉(九州大学教授)、村井嘉浩(宮城県知事)東日本大震災の被害詳細、原因、教訓を世界の人々と共有し、後世へ伝えることを目的に、各分野の専門家が執筆した『日本大災害の教訓』出版シンポジウム。


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