記事・レポート
宮城県の村井嘉浩知事と、竹中平蔵ほか4人の専門家が本音で語る
『日本大災害の教訓』出版記念シンポジウム
東京政治・経済・国際
更新日 : 2012年06月04日
(月)
第1章 3.11の教訓を世界に発信して、世界に恩返ししたい
次なる危機に活かすために、避けては通れない議論がある——世界への恩返しとして、危機管理の観点から3.11の教訓を世界に発信した『日本大災害の教訓』の執筆陣と、「水産業復興特区」をはじめとする大胆な復興計画を掲げた宮城県の村井嘉浩知事が、惨事の原因から日本が目指すべき方向性まで、本音で語ります。
モデレーター:竹中平蔵(アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学教授 グローバルセキュリティ研究所所長)
パネリスト:船橋洋一(一般財団法人日本再建イニシアティブ 理事長)
パネリスト:市川宏雄(明治大学専門職大学院長/公共政策大学院ガバナンス研究科長・教授)
ゲスト講師:西川智(国土交通省 土地・建設産業局 土地市場課長/工学博士)
ゲスト講師:吉岡斉(九州大学教授/副学長)
特別ゲスト:村井嘉浩(宮城県知事)
竹中平蔵: 3.11の大惨事を受け、自分にできることは何か、真摯に考えました。関東大震災のときは、帝都復興院総裁だった後藤新平が「日本が経験したことを、良いことも悪いことも含めて世界に発信することが世界への恩返しになる」という意図から、復興史を書いて英訳しています。思えば、これは船橋洋一さんに教えられたことでした。
そこですぐに船橋さんに「日本が得た教訓を世界に発信したい。一緒にやっていただけませんか」と申し上げたところ、二つ返事で「やりましょう」とおっしゃってくださったのです。『日本大災害の教訓-複合危機とリスク管理-』は、この想いを同じくする方々のご協力を得て出版することができました。危機管理の視点から世界の関心も高く、英語、中国語、韓国語で同時出版され、2012年のスイス・ダボス会議で配布される公式テキストにもなりました。
きょうは最初に国土交通省の西川先生に「大震災の被害と教訓」というテーマで、次に九州大学副学長の吉岡先生に「福島原発事故をなぜ防げなかったのか」というテーマでそれぞれお話しいただいた後、パネルディスカッションを行います。宮城県の村井嘉浩知事にもお越しいただいておりますので、世界に対して「日本は復興したぞ」と胸を張って語れるようになるために、復興の道筋を皆さんとともに考えていきたいと思います。
西川智: 日本は自然災害の多い国で、記録も多数残っています。古くは『日本書紀』に地震・津波の被害が記録されています。「地震・雷・火事・親父」という言葉があるように、昔から防災文化も根付いています。弘法大師が再建した満濃池や、武田信玄が築いた信玄堤のように、防災技術を駆使した土木工事もたくさん行われてきました。日本は自然災害を人間の英知と国土基盤整備の努力で克服してきた国なのです。
世界各地で起きた地震を、マグニチュードで示される「強い地震」と「犠牲者の多かった地震」に分けてランキングにしてみると、必ずしも強い地震が犠牲者も多いとは限りません。今回の東日本大震災はマグニチュード9.0で、世界で4番目に強い地震でしたが、犠牲者の数は2万人近くにのぼるものの、相対的には少ない数字になっています。被害の大きさは「自然現象」と、それを受ける「社会の脆弱性」の組み合わせによって決まるのです。
例えば戦後の日本の自然災害による犠牲者数を見ると、40年代、50年代は毎年のように地震や台風で1,000人以上の方が亡くなっていました。しかし5,000名以上の犠牲者が出た1959年の伊勢湾台風を機に、「後追い防災」から「予防防災」へ防災行政の大転換が行われた結果、1960年代半ば以降は、風水害の犠牲者数は劇減しました。
ところが1995年の阪神・淡路大震災で再び多数の犠牲者を出してしまったのです。そこで今度は災害対策基本法の改正や耐震改修促進法の制定などが行われました。これが功を奏して、その後、地震による犠牲者の数はかなり抑えられていました。しかし今回の東日本大震災は想定を遙かに超える大地震だったため、2万人近くの方が亡くなってしまったのです。
今回の教訓を活かし、防災技術や基盤整備、防災教育などで社会の脆弱性をさらにカバーしていけば、今後の被害は減らせます。
そこですぐに船橋さんに「日本が得た教訓を世界に発信したい。一緒にやっていただけませんか」と申し上げたところ、二つ返事で「やりましょう」とおっしゃってくださったのです。『日本大災害の教訓-複合危機とリスク管理-』は、この想いを同じくする方々のご協力を得て出版することができました。危機管理の視点から世界の関心も高く、英語、中国語、韓国語で同時出版され、2012年のスイス・ダボス会議で配布される公式テキストにもなりました。
きょうは最初に国土交通省の西川先生に「大震災の被害と教訓」というテーマで、次に九州大学副学長の吉岡先生に「福島原発事故をなぜ防げなかったのか」というテーマでそれぞれお話しいただいた後、パネルディスカッションを行います。宮城県の村井嘉浩知事にもお越しいただいておりますので、世界に対して「日本は復興したぞ」と胸を張って語れるようになるために、復興の道筋を皆さんとともに考えていきたいと思います。
西川智: 日本は自然災害の多い国で、記録も多数残っています。古くは『日本書紀』に地震・津波の被害が記録されています。「地震・雷・火事・親父」という言葉があるように、昔から防災文化も根付いています。弘法大師が再建した満濃池や、武田信玄が築いた信玄堤のように、防災技術を駆使した土木工事もたくさん行われてきました。日本は自然災害を人間の英知と国土基盤整備の努力で克服してきた国なのです。
世界各地で起きた地震を、マグニチュードで示される「強い地震」と「犠牲者の多かった地震」に分けてランキングにしてみると、必ずしも強い地震が犠牲者も多いとは限りません。今回の東日本大震災はマグニチュード9.0で、世界で4番目に強い地震でしたが、犠牲者の数は2万人近くにのぼるものの、相対的には少ない数字になっています。被害の大きさは「自然現象」と、それを受ける「社会の脆弱性」の組み合わせによって決まるのです。
例えば戦後の日本の自然災害による犠牲者数を見ると、40年代、50年代は毎年のように地震や台風で1,000人以上の方が亡くなっていました。しかし5,000名以上の犠牲者が出た1959年の伊勢湾台風を機に、「後追い防災」から「予防防災」へ防災行政の大転換が行われた結果、1960年代半ば以降は、風水害の犠牲者数は劇減しました。
ところが1995年の阪神・淡路大震災で再び多数の犠牲者を出してしまったのです。そこで今度は災害対策基本法の改正や耐震改修促進法の制定などが行われました。これが功を奏して、その後、地震による犠牲者の数はかなり抑えられていました。しかし今回の東日本大震災は想定を遙かに超える大地震だったため、2万人近くの方が亡くなってしまったのです。
今回の教訓を活かし、防災技術や基盤整備、防災教育などで社会の脆弱性をさらにカバーしていけば、今後の被害は減らせます。
関連書籍
『日本大災害の教訓—複合危機とリスク管理』
竹中平蔵, 船橋洋一【編著】東洋経済新報社
宮城県の村井嘉浩知事と、竹中平蔵ほか4人の専門家が本音で語る
インデックス
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第1章 3.11の教訓を世界に発信して、世界に恩返ししたい
2012年06月04日 (月)
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第2章 地震の予測は大きく外れた。しかし無駄ではなかった
2012年06月05日 (火)
-
第3章 危機一髪。東日本の原発が全て大破する可能性があった
2012年06月07日 (木)
-
第4章 福島原発事故をなぜ防げなかったか
2012年06月08日 (金)
-
第5章 宮城県が掲げた「水産業復興特区」とは?
2012年06月11日 (月)
-
第6章 都心にあふれた帰宅難民に、帰宅難民を出さないヒントがあった
2012年06月12日 (火)
-
第7章 国家の危機管理能力を高めるには、地方分権が欠かせない
2012年06月14日 (木)
-
第8章 リーダーシップなきこの国で、我々はいかに生き延びるか
2012年06月15日 (金)
該当講座
『日本大災害の教訓~複合危機とリスク管理~』
出版記念シンポジウム
竹中平蔵 (アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学名誉教授)
船橋洋一 (公益財団法人国際文化会館 グローバル・カウンシル チェアマン)
市川宏雄 (明治大学専門職大学院長 公共政策大学院ガバナンス研究科長・教授 )
西川智 (国土交通省 土地・建設産業局 土地市場課長 / 工学博士)
吉岡斉 (九州大学 教授 / 副学長)
村井嘉浩 (宮城県知事)
船橋洋一 (公益財団法人国際文化会館 グローバル・カウンシル チェアマン)
市川宏雄 (明治大学専門職大学院長 公共政策大学院ガバナンス研究科長・教授 )
西川智 (国土交通省 土地・建設産業局 土地市場課長 / 工学博士)
吉岡斉 (九州大学 教授 / 副学長)
村井嘉浩 (宮城県知事)
竹中平蔵(慶應義塾大学教授)船橋洋一(一般財団法人日本再建イニシアティブ理事長)、市川宏雄(明治大学専門職大学院長)、西川智(国土交通省土地・建設産業局土地市場課長)、吉岡斉(九州大学教授)、村井嘉浩(宮城県知事)東日本大震災の被害詳細、原因、教訓を世界の人々と共有し、後世へ伝えることを目的に、各分野の専門家が執筆した『日本大災害の教訓』出版シンポジウム。
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